over extended.

「落ち着いた?」


 彼が、コーヒーを窓際に持ってくる。


 彼女が今後も任務を続けるかどうかで、掴み合って喧嘩をした。お互いに、任務をこなす人間。戦闘シーンの末、結局、傷が癒えたばかりの彼が敗北した。


「あなたが、しにたいのもわかる。任務のなかでしにたいのも。理解してるつもり」


「だからって、きみまでしぬことはないでしょ」


 こんな感じで。平行線。コーヒーが緩衝地帯になって、掴み合うことはできない。戦闘シーン発生せず。


「わたしは」


 そこで声が止まる。彼女は、感情が膨れると声が出なくなる。彼は、彼女の言葉を待った。


「わたしは。あなたのことが理解できる」


 たしかに。彼が頷く。


「だから、しんでもいいよ。しんでもいいよ、って。言いたいの。あなたがしぬ、その直前に。あなたに」


 彼の淹れたコーヒー。夜景に、少し揺れる。


「あなたにやすらぎがあってほしい。それがわたしであってほしい」


「元カノの言い分じゃん」


「今カノの言い分なんだけど」


 彼が笑う。

 彼女も、なんとなく、言い方が面白かったのか、ちょっと笑っていた。


「わたし。いなくならないから。ついてくから。あなたに」


「痕跡を残さず消えるのが美学なんだけどなぁ」


 彼。どうやら観念したらしい。彼のコーヒーのなかに、夜景と星。


「よろしく。しぬまでの間」


 彼女。何か言おうとしたけど、言葉が出てこなかったらしい。吐息がもれるような、すき、という小さな言葉だけが返ってきた。


 夜。街の景色が少し揺れる。







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夜、街の景色 春嵐 @aiot3110

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