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通信。
『もしもし?』
彼だった。
『あれ。聴こえてないかな』
ちょっと、がさごそという音。何かのポジションを変更しているらしい。
生まれて。初めて。
言葉に詰まった。声が出ないというのが、こういう、ことなんだと。知らなかった。嬉しいのか心配なのか。分からない。とにかく。口は動くけど、吐息しか。出力されない。
『いるん、だよね。そこにいる
ここにいる。わたしここにいるよ。息しか出てこない。息してるけど。息がくるしい。むねが。はちきれそう。
『今日もね。街を守ったんだ。じつは街を守るのが任務、いや趣味でね。趣味で街を守って、毎日。任務で。いや、同じことばっかり言っちゃうな』
彼の声。息づかいがおかしい。
『いつでも、なんというか、いつでも消えてしまうのが、普通のことだから。何も言わずに、いつも。そういう、あれだった。何も言わないでさ。ええと』
何かの弾ける、ぴちゃっ、ていう音。
『おっ、と』
何かを巻く音。
『ごめんね。あんまり、ちょっと。よろしくなくてさ』
息づかい。さっきよりも落ち着いていて。小さい。何かが流れる音もする。
『止まらないなぁ』
また、巻く音。
『はぁ。どこまで話したっけ。街がね。綺麗でさ。この街で死にたいって、思ったんだ。街を守って、どこか、知られない場所で』
感情が。もし。風船みたいに膨らむのなら。いま。それは。弾け飛んだ。
『ありがとうね。きみのとなりが、いちばんおちついた』
「ねぇ。いまどこに」
何も聞こえない。何も。
『止まんないなぁ。これ』
流れている音。さっきから巻いてるのが、包帯で。弾けた音は。いやだ想像したくない。胸の下のところがきゅってする。
「どこにいるの。どこに」
『きみのとなり』
かすれるくらい。小さな声。
通信は。それで終わった。
夜が終わる。空が蒼くなってきていた。
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