135.おじさん、枕となる
「いやー、よかったですね……! 一時はどうなることやらと思いましたが……」
辺りがすっかり暗くなったモンキーアイランドダンジョンからの帰りの水上バスで、シゲサトは上機嫌……というよりは、ほっとしたような表情でジサンに語りかける。
「そうですね」
「終わりよければ全て良しです! ちょっと変わったドラゴンなんかもテイムできましたし、俺はもう大満足ですよ!」
ドラゴンの話題になると、少し興奮気味に語るシゲサトであった。ジサンはそれに同意するように耳を傾ける。
「……」
(……?)
ふと、シゲサトはジサンに寄り掛かりスヤスヤと眠る山羊娘の方に視線を送る。
「サラちゃん、疲れちゃったんですかね……」
よっぽど眠かったのか普段ならわざとらしくジサンを窓側にして、自身はその隣に座るのだが、それも忘れているようで、今は自身が窓側のシートに座っている。
「……そうみたいですね。行きはあんなに元気だったんですけどね……というか釣りの最中も結構、寝てた気もするが……」
ジサンは少し呆れたような視線をサラに送りつつも、その枕としての役割を放棄しようとはしない。
(……そういえばこいつ、よく寝るな……寝る子は育つというが……)
「…………ちょっとうらやま……」
「へ……?」
「あっ! いえいえ、何でもないです!」
「…………」
シゲサトは慌てて、手を前に出して、掻き消そうとするが、流石にシゲサトが何と言おうとしていたのか分かってしまったジサンは俯きながら頭をポリポリと掻くのであった。
「でも……何で急に釣れ出したんでしょうね?」
シゲサトは話題を逸らすように話を元に戻す。
「うーん……ちょっとわからないですね……」
「ですよね……そう言えば、途中、ちょっと変わった人もいましたね……あの人は一体、なんだったんでしょう……」
「さぁ……」
「…………まぁ、どうでもいいですね。おおよそ俺達とは関係のない人でしょうし」
「そ、そうですね……」
(……しかし、ああいう変な人に限って、魔王だったりするのがこのゲームなんだよな……)
と、彼の人物に対し、何か少し引っ掛かるところがあるジサンであったが……
「ふぁああ」
(……?)
◇
「ふぁああ」
欠伸をしながらパチリと目を覚ます。
「あ、あれ……? まだ水上バス……? すみません、マスター。サラはちょっとだけ眠っていたようですね」
水上バスの航路はおよそ15分の短い旅である。
結構、眠っていたなと感じていたにも関わらず、自分が想像していたよりも状況が進んでいなかったのか、そんなことを言いながら体を起こしたサラは目を擦る。
「あ、ちょうど着きましたね……マスター……」
進行方向に発生する慣性から水上バスがその速度を緩めることを感じ取れる。
「あぁ……着いたぞ…………五回目のモンキーアイランドダンジョンにな……」
「え……? って、えぇええ!」
サラは気が付く。
自身が愛用していた枕の右肩と反対側の枕が使用されていることに……
「こ、こ、こ、こ、こ、こいつ……!」
「ま、待て!」
「っっぅぐ……」
ジサンの制止により、サラは声にならない声を発しつつ、渋々、その拳を降ろす。
その間、誰一人として別の客の利用がなかったのは幸いであったのだが、ジサンは両肩を枕にし、動くことができないままモンキーアイランドダンジョンと本島の間を四往復していた。
彼もまた疲れていたのであった。
そんなことジサンは知りもしなかったのだが、何しろ彼は昨夜、一睡たりともしていなかったのだから。
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【あとがき】
新連載です。もしよかったら読んでください。
同接0で敵に囲まれまくってるのになぜか明るい配信者
https://kakuyomu.jp/works/16818093086827512737
ダンジョンおじさん 広路なゆる @kojinayuru
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