134.おじさん、絡まれる
「ちょっと不思議な青年がそれっぽい雰囲気出して、それっぽい佇まいで突如現れ、それっぽい台詞を呟いていたら、これはもう普通、なんらかのアクションを起こさないとだろ!」
突如、オレンジパーカーの青年が声を荒げる。
「……え、えーと……」
シゲサトは焦りの色を浮かべている。
それもそのはずだ。得体の知れない風変わりな人物に急に謎の因縁を付けられれば、気味が悪いと思うのが常人である。
シゲサトは常人以外の何者でもないのだ。
「……何だ? お前……」
一方で変人に対し、臆することなく、その寝たままの姿勢を崩すこともなく、問い掛けるのはサラであった。サラはその青年に自身と同種の匂いを感じたのか、露骨に塩対応である。
「クックック……我が何者か気になるか?」
青年は顔に手を当てる仕草でそんなことを言う。
「「「…………」」」
しかし、塩対応、常人、コミュ障の三名の中には、”ノリの良い人物”は不在であり、誰一人として反応することがない。
波の音とドミクがどこから取り出したのか不明な笹の葉を食べる音だけが流れる。
「クックック……我が何者か気になるか?」
青年は顔に当てた掌の隙間からチラチラと三名の方を窺いながら、再度、同じ言葉を繰り返す。
「あ、えーと、どなた様でしょうか」
そんな彼が可哀そうになったのかシゲサトが辛うじて、彼の欲する言葉を投げかける。
「クックック……すまないが、名乗ることはできない」
「あ、はい……じゃあ、いいです……オーナー、ちょっとあっちの方、行きましょうか……」
「あ、はい……」
三人はそそくさとその場を離れようとする。
「あっ……! ちょっと待って!」
青年は手を前に出し、それを制止する。
「……なんですか?」
シゲサトは珍しく怪訝そうな目つきを青年に向ける。
「あ……す、すみません……名乗ることができないのには事情がありまして……本当は名乗りたいのですが、本当……事情がありまして……」
青年は急に弱腰になる。
「……?」
「えーと、今日は皆さん、この島に釣りをしに来たのですか?」
「……そうですよ」
シゲサトが仕方なしというように応える。
「あ、やはりそうでしたか……それは実にくだらないことを……あ、いえ、素晴らしいとは思うのですが……この島、全然、釣れないんじゃないかなぁと思いまして……それはもう雑魚の一匹たりとも……」
「「「……」」」
それは事実であった。
「えーと、なのでと言いますか……あの……あちらの方に何やら要塞などがありますが……」
青年は島の中央にそびえ立つ巨大な要塞を指差す。
「……あるが、それがどうした?」
サラはやや不機嫌そうに訊く。
「いえ、何か面白そうなところだなと……あ、もしかしたら物凄いレアなアイテムなんかも眠っているんじゃないかなと思いまして……あ、いえ……別に行けって言ってるわけじゃないんですけどね……えぇ……決して……」
◇
「あいつらめ……この四天帝最強の俺に恥をかかせやがって……!」
モンキーアイランドダンジョンの中央にそびえ立つ巨大な要塞。
その最上層に何の成果も得られぬまま、すごすごと戻ってきた青年……こと最後の魔帝“ジイニ”が嘆く。
「畜生……未だに釣れもしないのに、呑気に釣り糸を垂らしてやがる……! なーにが“今日は釣りに来たので……”だ! ボソボソ喋りやがって、聞き取り辛いんだよ! あの意気地なしどもめ! 絶対に釣らせてなんかやらねえからな!」
30分後――
「いい加減、釣れないことに気付け! 阿呆共めっ!」
1時間後――
「……はは……流石に不安を隠せない顔を始めおったか……! ざまぁねえな……!」
1時間30分後――
「……おいおい、マジかこいつら……ひたむきが過ぎるだろ! もしかして馬鹿なのか?」
2時間後――
「…………」
2時間5分後――
「…………なんかちょっと……悪いことしたかな……」
◇
流石にもう……今日は駄目かもしれないな……
オーナーに悪いことしちゃったかも……
シゲサトがしゅんとしていたその時であった。
「っっっ!!」
シゲサトの竿が激しくしなっている。
「き、来ました! オーナー!!」
「わ、私もです!!」
「っ!!」
「ま、マスター……! サラも!!」
「えぇっ!!」
なんとこれまで全く当たりがなかったにも関わらず、三人同時にヒットする。それも竿のしなり具合からして、かなりの大物だ。
「おりゃぁああああああああ!!」
三人は立ち上がり、力強く竿を引く。
この後、めちゃくちゃテイムした。
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