133.おじさん、監視される

 2時間程前――


 ジサンらがモンキーアイランドダンジョンに上陸した頃のことだ。


「クックックッ……ノコノコとやってきやがって……ようやく……ようやくか……!」


 橙色地オレンジに白斑模様……まるでかつて大海をテーマとした映画の主人公のモデルにもなった人気の熱帯魚のようなパッショネイトな色使いをしたパーカーを着こなす青年が独り……呟く。


 モンキーアイランドダンジョンの中央にそびえ立つ巨大な要塞。

 その最上層に君臨する、とあるボスモンスターは島全体を管理する権限を有していた。

 その権限のうちの監視権限により、ダンジョンへの挑戦者を逐次、モニタリングしていた。


 モンキーアイランドダンジョンに上陸するプレイヤーは多くはない。

 多くはないが少なくもない。

 概ね、一日平均、数グループ程がこの要塞の孤島に出入りしている。

 一方で、この島に挑戦した多くのプレイヤーが“拍子抜け”してこの島を去っていた。

 これだけの要塞、それを護るかのような森がありながら、その要塞には入ることすらできないからである。


 青年は退屈であった。


 この世界に生み落されて、しばらくはその権限で遊んだりもした。

 森のモンスターの出現率を変えて、ちょっとした悪戯をしたり、きまぐれにレアアイテムのドロップ率を上げてみたりもした。


 しかし、それもすぐに飽きた。

 管理の権限といっても、彼の権限は”もっと上の存在”から許容された範囲でしかなかったのだ。


 そして、何より、青年は島を管理する権限を持ちながら、多くのプレイヤー達の挑戦を受ける権利を有してはいなかったのである。


 ダンジョンの管理という珍しい権限を与えられながら、多くのボスモンスターが使用できる挑戦者が到るまで意識を凍結させることができなかったことも彼の退屈さを助長していたのかもしれない。


 そんな彼にとって、今日は特別な日であった。


 初めて”自身への挑戦権を持つプレイヤー”が上陸したのである。


 彼は嬉しかった。


 例え、この戦いで滅びることになったとしても、それが彼がこの世界に生み落された理由使命であったからだ。


「クックックッ……我は四天帝最強の……」


 ………………


 はて……、しかし、あいつらは一体何をしているのか……


 せっかく初めて自身への挑戦権を持つプレイヤーが上陸したというのに、肝心の彼らは一行に要塞に攻め込んで来る気配がない。

 森にすら近づく様子もなく、挙句の果てに、釣りなどを始める始末だ。


 まぁ、旅のついでに”きまぐれで”釣りをするというのはゲームではよくあることだ。


 しかし……最初から座り込むのは長期戦を覚悟して……


 ……いや、まさかな……


 だが、念には念をだ……島周辺の釣りエンカウントをゼロにしてやろう……そうすれば、すぐに諦めて、こちらに攻め込んでくるだろう……



 ◇



 15分後――

 はは、あいつ等、釣れもしないのに希望に満ち溢れた顔してやがる……!

 どこまで粘るのか……興味深い……


 30分後――

 なかなかしぶといな……この諦めの悪さ……それなりに骨のある連中と見た……

 流石は、我に挑む権利を有する者といったところか……

 実に楽しみである。

 しかし、あのおじさん、絶対に釣れないのに、仕掛けをちょいちょいして、誘いを掛けてやがる……なかなか可愛いじゃねえの……


 1時間後――

 はは……ついに一人、根を上げて、居眠りし始めたか……

 クックック……残る二人も時間の問題だろう……

 ……早く来ないかな……


 1時間30分後――

 ……

 こちらから行くというのも……

 い、いや、四天帝最強の俺が自ら足を運ぶなど、笑止……!


 ……あくまでも最後の手段ということで……


 2時間後――

 おかしい……

 あれから……まだ30分しか経っていないだと……?

 この間、何の変化もなし。

 暇過ぎて、時間が過ぎるのが妙に長く感じる……

 こいつら……その行為に、何の生産性もないことに、一体いつになったら気が付くんだ……


 2時間5分後――

「今日は海が妙に静かだ……」

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