蠱毒姫番外編 ギーゼン伯爵夫人の誕生日
有馬 礼
*
よくあることではあるが、ここ最近、ヴォルフがまた何かを企んでいるな、という予感がしていた。
まず直接本人に問いただしたところ、
――姫さま、疑ってるんですか⁉︎ おれの目を見てください、これが嘘をついている目ですか⁉︎
と必死に言い募っていたので、何か隠し事をしていることはほぼ確定している。しかしその中身がわからないのだった。
少し前には現世の存在が魔界に侵入したという前代未聞の事件があったそうだし(心配させまいという配慮なのか、誰に尋ねても詳細は聞き出せなかった。魔界の王宮に仕える者はよく教育されており、口止めされたことを漏らすような者はいない)、何か、何か意図を含んだ空気がアウゲの周りに漂っていた。
「ヴォルフさまが企みを?」蜥蜴型魔族の執事頭メーアメーアはぺろりと眼球を舐めた。「いつものことではありませんか」
そう言って執事頭は優雅な手つきでカップに琥珀色のお茶を注ぐ。そこに、アウゲお気に入りの薔薇の砂糖漬けを一つ。
「それは……、そうなのだけれど」
いつもの企みとは何か、規模の点で違っている予感がするのだ。そこで、多忙とは知りながら、お茶の時間にかこつけて執事頭を呼び出したというわけだった。
「わたくしの耳には……」
メーアメーアは優雅な手つきでアウゲの前にカップを供した。
「そう……」
ヴォルフの企みが例えば……そう、マダム・アマーリアの店で、布地が少なくて透けている下着を新たに誂えている、というくらいのことであれば、まあ……いい……のだが。それ以上の規模になれば、人を動かさざるを得なくなる。城勤めの者を動かせば、即ち執事頭の知るところとなる。近衞は魔王直轄の組織であるので執事頭を通さず直接差配することが可能ではあるが、彼らは良くも悪くも実直なので、裏工作めいたことには向かない。仕事には適材適所ということがある。アウゲでも知っていることだ。
まあ、いい。時が来れば判明するだろう。もしかしたら、アウゲが懸念しているような企み自体が思い過ごしだったということだってありうる。可能性は限りなくゼロに近いとはいえ。
神妙な顔つきでカップを持ち上げる王妃の麗しい横顔を見ながらメーアメーアは反対側の眼球を舐める。高貴な王妃は答えを引き出そうと従者を詰問するようなことはないものの、確実に何かを感じ取っている。そろそろ隠すのも限界だ。執事頭の有能な部下たちはうっかり口を滑らせるようなことはないが、一番心配なのが当のヴォルフだった。まあ、計画の首謀者が計画を開示してしまったというのなら、誰もそれを責められはしない。というか、アウゲがこの完璧な計画の存在を感じ取ったのは絶対にヴォルフの態度が原因なのだ。証拠はないが確信がある。絶対ばれないように進めたいと言ってきた割には自分が一番ガードが甘いとはどいうことなのだろう。
(いつものことではありますがね……)
メーアメーアは王妃に気取られぬよう、密かにため息をついた。
「では、王妃殿下、わたくしはこの後も執務が詰まっておりますので……」
「あ、ええ。そうよね。ただでさえ忙しいのに2人で話がしたいなどとわがままを言って申し訳なかったわ」
「とんでもございません。お気遣い幸甚に存じます。では、御前失礼いたしますので」
メーアメーアは優雅な仕草で腰を折ると王妃の前を辞した。
ドアの外には筆頭侍女のザフィアが控えていた。
「お疲れさまです、執事頭」
「……久しぶりに変な汗をかきましたね。不自然なところはありませんでしたか?」
「完璧です。ギリギリ嘘はついてませんでした」
優秀な「追尾」の能力者であるザフィアは、聞こうと思った音を聞き逃すことはない。先程の会話も全て「聞いて」いる。
「王妃殿下に嘘つきと言われると、流石のわたくしも堪えますのでね……」
「私も一緒です。みんな一緒です。いつまでこの生活は続くんですか。もうゲロっちゃいましょうよ」
アウゲに接する城勤めの者全員を代弁してザフィアはメーアメーアに訴える。
「わたくしとしても」メーアメーアはぺろりと眼球を舐める。「ヴォルフさまご自身が早々に漏らすと思って楽観視していたのですが……。案外頑張りますね」
「でも、姫さまに勘付かれたの、絶対ヴォルフさまのせいですよね?」
「それはまず間違いありません。ヴォルフさまの脇が甘いせいで城勤めの者は罪悪感で日々のたうち回っていると、この後ヴォルフさまを叱りつけておきますよ」
「お願いしますね、執事頭。そういうとこ、好きです」
「……あなたという人は」
メーアメーアは今度は、わざとらしく大きなため息をついて魔王の執務室へ去っていった。
アウゲは化粧台に向かって髪を整えていた。人の国からヴォルフが持ってきてくれた、素朴な化粧台だ。この化粧台に向かう時、アウゲの心は故郷にあった。身分を隠してお忍びで王都を何度も訪れたが、「離宮」の外に出たことのないアウゲにとってそこは、現世の異界の街と変わらなかった。アウゲにとって故郷といえば、あの小さな離宮の周辺を意味していた。二度とその地を踏むことが叶わない故郷。この化粧台は、その故郷を思うよすがとなってくれるもののひとつだ。これを持ってきてくれたヴォルフには感謝してもしきれない。
人の国では、夏至の日に開かれる夏の王の宴が終わった頃だ。夏の王の宴が終わったあと、国王一家は避暑のため夏離宮に移る。アウゲはごく幼い時しか行ったことがないので余り記憶がないが、深い森に囲まれた風光明媚な場所だったという朧げな記憶のみがある。そうだ、今にして思えば、夏離宮がある直轄領を守るように囲んでいるのが、ギーゼン伯爵領だ。いや、ギーゼン伯爵領の一部を直轄領としているというべきか。実際のギーゼン伯爵は王弟の辺境伯が兼務している地位であるが、それをいいことに、ヴォルフが異界で名乗る仮初の肩書として使っている。
ゆったりとしたナイトドレスに身を包み、就寝のために長い髪を緩く三つ編みにしながら物思いに耽っていたアウゲは、寝室の扉が開いたことに気づかなかった。
「考えごとですか?」
不意にかけられた柔らかい声にアウゲはハッとして鏡の中のヴォルフを見た。
「ええ。そろそろギュンターローゲ王国では、夏離宮に移る頃かしらと思って」
「この前夏の王の宴が終わりましたからね」
ヴォルフはアウゲの後ろに立って両肩に手を置く。その夏の王の宴にも2人は、「ギーゼン伯爵夫妻」として潜りこんでいた。
「ご両親に挨拶しなくて良かったんですか? いつも遠くから見つめるだけで」
「……いいの」髪を編み終えて、お気に入りの青いリボンで緩く結えたアウゲは俯いて髪の先を弄んだ。「急に私が現れたら、お父さまとお母さまでなくて、周りの者が許さないと思うの。それは、却ってお2人を悲しませることになるんじゃないかと思って……それで……」
「そうだったんですね」
ヴォルフは身を屈めて、肩越しにアウゲの頬にくちづけた。
「でも、いいのよ」アウゲはヴォルフを振り返る。「遠くからお元気な姿を拝見できるだけで、私は幸せなの。あなたにはいつも感謝しているわ」
「いいんですよ」
ヴォルフはその頬を引き寄せて、唇を重ねた。この後のことを予感させる、甘いくちづけ。身体の表面がざわざわする。
「そうだ、姫さま」
ヴォルフはしっとりと潤んでいるアウゲの目を覗き込む。
「明日、何の日か知ってますか?」
「……明日?」
アウゲは首を傾げる。
アウゲの記憶によれば、明日は何の日でもない。夏至の王の宴の少し前にアウゲの誕生日は終わっていたし。こんなに盛大に誕生日を祝ってもらえる日が来るとは、アウゲは思っても見なかった。その時にヴォルフがプレゼントしてくれたネックレスに使われたオパールは、中に薔薇のような青い遊色が揺れる世界に2つとないだろう素晴らしいものだった。虹色の光沢を発する真珠で繋がれたオパールはアウゲを一番美しく見せる位置にぴたりと決まっており、一流のデザイナーがアウゲのためだけにデザインして、一流の職人たちがアウゲのためだけに作りあげた、文字どおり世界に一つしかない逸品だ。
「知らないんですか? 明日はね、ギーゼン伯爵夫人の誕生日ですよ」
「……?」
ますますわけがわからなくなって、アウゲは首を傾げた姿勢のまま怪訝な顔になる。ギーゼン伯爵とはヴォルフが人の国で名乗っている虚偽の肩書きの方を指すのだろうし、ならばその妻とは即ちアウゲだ。アウゲの誕生日は既に過ぎている。
「そしてギーゼン伯爵夫人の誕生日を知った国王夫妻がね、伯爵夫妻を夏離宮に招待してくれたんですよ」
「えっ……、えっ、本当に……?」
アウゲは思わず立ち上がってヴォルフを振り返る。
「本当ですよ。おれのこの、曇りのない目を見てください」
「……その言葉が一番信用できないわ。嘘はついていないと言っていたくせに」
アウゲはくすくす笑いながら言った。
「今日、メーアメーアが『ちょっといいですか』って言うから何かと思ったら、姫さまから何か悪巧みをしてないか聞かれなかったかって。だからおれ『この目が嘘をついてる目ですか⁉︎』って言ったから信じてくれてると思うって答えたんだけど、あっさり『大嘘つきの目ですね』って言われちゃいました」
ヴォルフはあはは、と声に出して笑った。
「嘘をつくのが下手ね。いつものことだけれど」
「だって、姫さまに打ち明ける日が楽しみすぎて。でも流石に相手が国王陛下夫妻となると下準備が大変で、うまくいく確信がなかったんですよね。もし根回しがうまくいかなくて会わせてあげられなかったら、きっと姫さまは口では大丈夫って言ってくれるけど、心の中ではがっかりしちゃうでしょ?」
ヴォルフはアウゲの目を覗きこんだ。
「でも、隠してたことは、すみませんでした」
アウゲは首を振って、その甘い眼差しから逃れるように、ヴォルフの背中に腕を回し逞しい胸板に顔をうずめた。
「……気にかけていてくれていたのね」
「姫さまのお父上とお母上は、おれのもうひとりの父上と母上でもありますよ。幸せな姿を見せて、喜んでもらいたいじゃないですか。大丈夫、その日は身内だけの、ごく私的な会合ということになってます。召使たちはおれの力で誤魔化せるでしょう。それに誰も、その人が姫さまだって気付きませんよ。だってそうでしょう?」
ヴォルフはアウゲの肩を抱き、真っ直ぐな銀の髪を撫でながら低い優しい声で言った。
「そう……そうね」
人の国にいた頃は、ずっとマスクで顔の半分以上を隠していた。目元だけでアウゲだと気づける者はいないだろう。
「明日、素敵な日になるといいですね」
「ありがとうヴォルフ。きっとそうなるわ……」
***
ザフィアの手で髪を結いあげられたアウゲはいつも以上に美しく、ヴォルフはしばしその姿に見惚れた。
真珠が散りばめられた純白のドレスは光り輝くようだが、それすらもアウゲの美しさを引き立てるためのものでしかない。ヴォルフもまた、アウゲと対になるように白一色の礼装に身を包んでいる。
「ヴォルフさま」
ザフィアがビロード張の台に乗せられたネックレスをヴォルフに差し出す。ヴォルフは頷いてそれを手に取ると、アウゲの背後に回った。
「これ、選んでくれたんですね」
「ええ、もちろんよ。素晴らしいものだったから、初めてつける時は相応しい場にしたいと思っていたのだけれど、今日以上に相応しい日はないわね」
首の後ろで留め金を止めて位置を調整する。菱形にカットされたオパールの中で青い薔薇のような遊色が揺れた。それはまさに、アウゲのために、アウゲのためだけに誂えられたものだった。ヴォルフはそれを確認して満足そうに頷いた。
「行きましょう」
「ええ」
アウゲは少し緊張した面持ちでヴォルフが差し出した肘に手を乗せる。
「今日のドレスはあなたがデザインしてくれたの?」
「ええ。とはいえ細かいところはマダム・アマーリアにおまかせしましたけど」
「そうなのね。これは何というか、まるで……」
「人の国の婚礼衣装みたいでしょ? だって、そうオーダーしましたからね」
ヴォルフは肘にちょこんと手を乗せているアウゲを微笑んで見下ろした。
「魔界では、というか、魔族同士は婚姻を結んでいる者は見ればわかるので、婚姻を披露するっていう習慣がそもそもないんですよね。だから姫さまに婚礼衣装を着てもらう機会を逃しちゃったなあっていうのはずっと気になってて。まあ、単におれが姫さまの婚礼衣装姿を見たっかったっていうのもありますけど。こじんまりした結婚式だけど、これがおれたちの結婚式っていうことでもいいですか? あ、もちろんご希望なら、魔界中から人を呼んでもう一回盛大にやります」
「もう……泣かせないで。せっかくザフィアが腕によりをかけてしてくれた化粧が崩れてしまうわ」
「ふふ、ごめんなさい、姫さま」
ヴォルフ指の背で、アウゲの目尻に滲んだ涙をそっと拭った。
***
魔王城の地下にある異界との「扉」を潜ると、そこはどこかの応接室だった。貴賓をもてなすために作られたその部屋を飾るのはギュンターローゲ王国が誇る様々な工芸品であり、どれも一目で名工の手によるものとわかる名品ばかりだ。それでいてけばけばしさは全くなく、全てが奇跡のように上品に調和している。
時間は昼前というところだ。大きく切り取られた窓からは、森に囲まれた澄んだ湖が見える。水面に反射する光が美しい。夏の光を受けたアウゲは、まるで内側から光り輝いているようだ。ヴォルフは目を細めた。当のアウゲは、緊張した面持ちで窓の外の景色をじっと見つめている。
「失礼致します」
ドアがノックされて、執事姿の白髪の男性が姿を現した。
「国王陛下ご夫妻がお見えです」
ヴォルフとアウゲは頷いて、寄り添って礼の姿勢を取った。
開かれた扉の方に気配がした。人の上に立つ存在がまとう独特の気配。緊張が高まる。アウゲは、自分の心臓の音が身体の外まで聞こえているのではないかとハラハラする。
「大義であった。面を上げよ……」
厳かだが、穏やかな声。アウゲは込み上げてくる涙を必死に堪える。
ゆっくりと顔を上げたアウゲを見て、国王夫妻ははっと息を飲んだ。
「人払いを」
王は執事の男性に言う。執事は一礼すると、音もなく部屋を出ていった。
「……アウゲ」
「はい、お父さま」
それ以上何も言うことはできなかったし、また、言う必要もなかった。人の国の国王夫妻と魔界の王妃は、ただの親子に戻って抱きあって涙を流し続けた。
「アウゲ、アウゲ……。やはりあなただったのね、新年祝賀の宴で踊っていたのは」
王妃は子どもにするようにアウゲの頭を撫でながら言った。
「あれがアウゲ自身ならどんなにいいだろうと、2人で話し合っていたのだよ」
国王も言う。
「はい、そうです。お父さま、お母さま……」
そこでようやく国王はこの光景を見守っているヴォルフの存在を思い出した。
「魔王陛下でいらっしゃるか」
「はい。ヴォルフと申します、国王陛下」
「見ればわかります、あなたどんなにアウゲを慈しんでくださっているか。本当にありがとうございます、ヴォルフ陛下」
王妃も立ち上がって、ヴォルフに礼の姿勢を取る。
「姫さまは、おれの唯一無二の伴侶です。お父君とお母君に、姫さまが平穏に幸せに暮らしていることを伝えたくて、若干の策を弄してしまいました」
ヴォルフは人懐こい笑顔を国王夫妻に向ける。
「弟がなぜわざわざギーゼン伯を名乗って、この離宮に来たいというのか、不思議に思っていたよ。弟がここにくるのに招きなどいらない。そういうことか」
「申し訳ございません。不敬の所業、謝罪いたします」
「いや、構わんよ。今後もギーゼン伯として宴に顔を出してくれ。もちろん、アウゲも。本物のギーゼン伯である弟は辺境伯だ。彼は堅苦しい人づきあいは好まないたちでね。王都の宴になど滅多に顔を出さないし、今度会った時にはそれとなく話をしておこう」
「ありがとうございます」
「アウゲ、顔をよく見せて」王妃はアウゲの頬を両手で包んで、自分の方に顔を向けさせた。「幸せなのね。わかるわ。私たちがあなたをそうしてあげられていたら、どんなに良かったかしら……。ごめんなさい、本当に」
「いいえ……いいえ、お母さま。どうか謝らないで。あの日々の中で私が心折れずに生きていられたのは、お父さまとお母さまの愛情があったからこそです。だから、どれほど孤独でも、絶望に負けることなく生きていられたのです」
「絶望に飲まれることがなかったあなたを誇りに思うわ、アウゲ。あなたは本当に気高く、優しい子。私の自慢の娘」
「お母さま……」
母娘は再び抱きあった。
それからは本当に楽しい時間だった。あの日、父母と別れてから何があったのか。奇妙な近衛騎士だと思っていたヴォルフが実は魔王だったこと。魔界での暮らし、伴侶を巡る冥府の者との争い。ヴォルフとの絆が、お互いを救うこととなったこと。御伽話のようなアウゲの話を、両親は否定せず聞いた。
気がつくと太陽は山の端にかかり、真っ白だった陽光はオレンジ色に変化していた、
白髪の執事が遠慮がちにやってきて、国王夫妻に次の予定を告げた。
「姫さま、名残惜しいですが、そろそろお暇しましょう」
「ええ……」
「最後に2人並んだ姿を見せておくれ」
国王が言う。
アウゲとヴォルフは寄り添いあって並んだ。
「この姿を見られる日が来るとは……。本当にありがとう。アウゲを、娘を幸せにしてくれて」
国王はヴォルフの手を取った。
「命ある限り、姫さまの幸せはおれが守ります。ご安心ください」
「娘を、よろしくお願いします」
王妃もヴォルフに膝を折った。
「もちろんです、お母君」
「また、お父さまとお母さまに会いに来てもいいでしょう?」
アウゲが上目遣いに言う。
「もちろんですよ、姫さま。ただ……魔界と人の国との盟約により、魔界のことは『他言無用に願います』」
国王夫妻は一瞬茫然とした顔になる。アウゲはヴォルフが力を使ったのだとわかった。
「それでは、またお目にかかります」
***
「ヴォルフ、今日は本当にありがとう」
化粧台に向かって髪を結いながら、アウゲは鏡越しにヴォルフを見た。
「姫さまに喜んでもらえて良かったです」
ヴォルフはアウゲを背中から抱きしめて、頬にくちづけた。
「お父さまとお母さまは、今日私と会ったことを忘れてしまうの?」
気になっていたことを尋ねる。
「普段は忘れてていただきますけど、お2人だけの時と姫さまと会った時は、これまでの記憶が蘇る仕組みです」
「そうなのね。忘れられるのは、やはり悲しいと思っていたから」
アウゲは微笑んで目を伏せた。
「あなたは、いつも私を幸せにしてくれるのね」
目を開いて、間近にヴォルフを見つめる。
「おれの唯一無二の伴侶のためなら、何だってします。姫さまが冥府にある宝が欲しいと言うなら、喜んで行ってきますよ」
ヴォルフの言葉にアウゲは笑って首を振った。
「冥府の宝よりも、私はあなたに、ずっと側にいてほしいわ。私だけの、奇妙な近衛騎士」
「仰せのままに、姫」
ヴォルフはアウゲを横抱きにして、唇を重ねた。
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