政拳は我にあり
輪島ライ
政拳は我にあり
令和X年、世界は核の炎に包まれた。
宇宙から飛来した変動重力波の影響により地球上全ての核兵器と原子力発電所は一斉に核爆発を起こし、先進諸国の大半は瞬時にして滅亡した。
核兵器を保有しておらず原発の廃炉も進んでいた日本は辛うじて壊滅を免れたが地球上のほとんどの地域では放射能汚染が広がり、日本人は各地にシェルターで覆われた地下都市を建造して生き延びていた。
「ヒャッハー! 水だぁ!! 備蓄食料もこんなに残っていやがったぜ」
「これ、一万円札か? こんなもん今やハイパーインフレで紙切れ同然だってのにな!」
かつて大阪府大阪市と呼ばれた一帯の路上で、ならず者の集団が廃墟の物資を漁っていた。
地下都市に居場所のない彼らはシェルター外の廃墟群で放棄された物資を漁って生活しており、残留放射線への
日本社会の
「……おい、お前たち。この一帯では誰が政拳を握っている」
「何だ、お前。俺たちの食糧を横取りする気かぁ?」
「質問に答えろ!!」
巨漢はならず者を怒鳴りつけると身体を覆っていたマントを取り去った。
彼の全身から放たれる神聖なオーラに感化され、ならず者たちの精神は瞬く間に浄化された。
「は、はい、地下都市ナンヴァーの
「そうか、その市長が君たちをこのような境遇に追いやっているのだな」
「私の噂をしているのは君かね?
巨漢とならず者の前に、噂の当人であるナンヴァー市長の松代トキオが現れた。
周囲にはスーツを着た護衛官僚が数十名ほど集まり市長の様子を注視している。
「君が四国一帯の政拳を掌握したという流れ者だね。一体ここに何をしに来た?」
「知れたこと。貴様を倒し、近畿圏制覇の第一歩とする! いざ勝負!!」
「受けて立った!!」
ケンと松代の叫びに呼応し、廃墟群の一帯に不可視の領域が展開された。
中央政府を失った日本は暴力と恐怖により統治される社会になっていた。
己の肉体と闘気によりあらゆる政敵を打ち倒し、政拳を握った者だけが社会の統治者となる。
ナンヴァー地域の支配者は、相手を殺して生き残ったどちらか以外に存在しない。
「松代、貴様の弱点は脚と見たっ!!」
ケンは政敵の弱点を言い当てると、高速で左右に移動しつつ正拳突きを放った。
繰り出された突きは松代の右脚を狙うと思いきや、寸前で方向を変えて彼の脇腹を狙った。
素早く左手で身を守ると松代は攻勢に転じる隙を伺う。
「流石は
相手の巧みさを賞賛しつつ、松代は全身に闘気を集中させ始めた。
後方で待機している護衛官僚たちをはじめとする全ての市民から闘気を吸収し、光り輝く闘気をその身に宿す奥義は
四国一帯の政拳を握っているケンだが、この場所では遠すぎて同じ奥義を使うことはできない。
「やらせんっ! 受けてみろ、
松代が闘気を集中させる前に彼の首を手刀で叩き割ろうとしたケンだが、その拳は圧倒的な闘気によるオーラの前に弾かれた。
「やはりな……
「その通り。私は大日本統一党の党員だからね」
政拳家同士が集団となったものは政拳党と呼ばれ、それに属する政拳家は無条件に多くの闘気を得ることができる。
立食宴会拳発光に加えて政闘助勢圏までもを身に宿した松代の前に、ケンの攻撃はもはや通用しない。
「さあ、どうする流浪の政拳家よ!! 大人しく我らが軍門に下るか!?」
「くうっ!!」
溢れ出る闘気により素早い連撃を繰り出す松代の前にケンは防戦一方となっていた。
しかし、ケンには最終奥義が残されている。
「貴様の本当の弱点は、ここにある!!」
「何だとっ!?」
ケンは空中を跳んで松代の背後に回ると、彼の右肩を人差し指で突いた。
わずかな衝撃であるはずのその一撃に、莫大な闘気をまとった松代は動きを止めた。
「貴様の
「そ、そんな……」
「これで終わりだっ!
身動きできない松代の背後からケンは必殺奥義たる連撃を炸裂させた。
目にも留まらぬ速さの連撃が松代の背中に次々と叩き込まれる。
「ぐうっ、ぐあああああっ!! す、全て秘書がやりましたあああああっっ!!」
背後から高速の連撃を受けた松代は訳の分からない叫び声を上げると吹き飛ばされ、そのまま地面に倒れ伏した。
怯える護衛官僚たちを無視して倒れた松代の首筋をつかみ上げると、ケンは彼に詰問を始めた。
「貴様など俺の政敵には値しない! 大日本統一党の党首はこの近くに来ているのだろう!?」
「何だと、あの方に勝負を挑むというのか!?」
「話さないのであれば貴様にとどめを刺してやる」
「わ、分かった、あの方は今……うっ、ううっ、記憶にございませんんんんっっ!!」
自らが仕える相手の居場所を口にしようとした瞬間松代は苦しみ始め、叫び声を上げるとその身体は爆散した。
「
飛び散った肉片を後方に跳んで避けつつ、ケンは自らが探し求める相手の強大さを悟った。
「
「神谷さん、あなたは今この瞬間地下都市ナンヴァーの市長となりました。ここに残って頂けませんか?」
「いや、それはできない。この日本を牛耳る連中を打ち倒したら俺はまたここに戻ってこよう」
「そうなのですか……」
自らの背中に
日本の政拳家の頂点に立ち人々に自由をもたらすまで、ケンの戦いが終わることはない。
(END)
政拳は我にあり 輪島ライ @Blacken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます