第57話 永井なる(貴女の為の物語)

もっと緊張すると思っていた。

ラブコメ漫画によく見る、前日に部屋を大掃除したりすることもなく、普段通りに当日を迎えた。


インタビューというか、友達と駄弁っただけだった気がするけど、計3回のインタビューの中で、最も得るものがあった。


キャバ嬢モードではなく、素の綾川景を見ることができた。


ピースは揃った。

後は書くだけだ。

カレンダーを見る。


今日は8月11日。

世間はお盆休みの人が多いらしい。

休みまくった私には関係ない。


きちんと朝に起きて働いて、食べて、寝ている人達が羽を休める期間。


いつもお疲れ様です。私は小説家というクソの役にも立たない仕事をしているクズです。

皆様が社会を回しているおかげで、文明社会の恩恵を受けています。

皆様がお休みになられている間、私は地獄に行ってきます。必ず帰ってくるので、その時は、またよろしくお願いします。


でも、すみません。


皆様の為の小説ではありません。

私と、不器用な友人の為の小説です。

\



8月11日。


コンビニで数日分の食料を買ってきてからは、ひたすらパソコンに向き合っていた。


吟味はしない。


とにかく、書き上げることを目標にして書き続ける。

トイレ以外は座りっぱなしなので、腰がヤバいけど、充実した時間だった。


8月12日。


このキャバ嬢、真面目すぎて闇社会との関わりを持たせるのが面倒だなぁ。

そうだ。高校時代の友人が詐欺師になっていたことにしよう。

くっくっく。良いキャラができる気がする。


8月13日。


執筆中、部屋にゴキブリが現れた。


落ち着け。見失わないように注意してティッシュを6枚とる。

殺すのは可哀想だから、外に出してあげよう。

あー、レジ袋や空の弁当箱のスペースに行ってしまった。


「怖くないよー。殺さないよー」


ホラー映画だったら確実にシリアルキラーに違いないセリフを言いながらゴキブリを探す。

しかし、ゴミをどかしても姿が見えない。


・・・逃げたか。


まあ、ずっと1人で寂しくなってきたから、ゴキブリと二人暮らしも良いかもな。


8月14日。


ふむ。

あと少しだけど、終わり方を決めていなかったから筆が止まった。

本日5本目のレッドブルを飲んで脳の回転を促したけど、何も思いつかない。


8月15日。


ルールでは、今日中に書き切らなくてはならないけど、変わらずアイデアは浮かばない。


畳に倒れ込む。

もう、諦めてしまおうか。


良いじゃないか。別に今日中に終わらせなくても・・・。アニメを観て、寝てからでも。


ガサッ。


静かすぎてうるさいこの部屋で、音が鳴る。


「・・・ゴキブリ」


私と同じく、この世に生まれた意味を見出せない存在。

その同類は、私を責めるように見る。


「・・・分かったよ」


腰はもう死んでるので這いつくばって状態を起こしてパソコンと向き合う。

ゴキブリと変わらない価値の私に、ありがたい教訓のラストなど書けるはずがない。


勘違いするなよ。


お前は賢いわけでもぶっ飛んでいるわけでもない。ただ大事なものが足りないだけなんだ。

こんな人間は、意識の高いことを考えずに、ハッピーエンドを書けばいいんだ。


あの、愛おしい友人の幸せを祈って、好きな人といつまでも楽しく暮らすラストを最後の力で書こう。

\





『拝啓キャバ嬢様』367ページより、抜粋。


貴女とお姉さんが一緒に暮らすようになってから、会う機会が少なったけと、それで良いと思う。

お互いを励ませ合える関係性には、私では能力不足だ。

社会で戦っている貴女達にしかできないんだ。

また、客としてお金という形で力になれるだけで充分だ。

私に、こんなに楽しい感情を教えてくれてありがとう。

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拝啓キャバ嬢様 ガビ @adatitosimamura

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