第56話 永井なる(貴女だったら)
取材やらインタビューやらを必要としたことが今まで無かった。
既存の私の小説は、全て想像で書いていた。
恋愛感情も、怒りも、癒しも。
たぶん、こんなもんなんだろうと、無責任に書いてきた。
だから、こうして人に何かを聞いてものを作るのは初めてだ。
他人になり切って物語を描くのは、恥ずかしさが伴う。
作家と役者を同時にやっている気分だ。
お姉さんに感謝と憎悪を抱いているキャバ嬢がお金のために奔走する話を書いていると、サラさんの気持ちをきちんと描けているか不安になってくる。
丹波さんは、私を感情を殺したヤバイ奴だと思っていそうだけど、こうして葛藤している私を見たらガッカリするだろう。
私の異端さなんてこんなものだ。
なんだか疲れてきた。コーナーでも淹れるか。
そう思い立ち上がった瞬間、スマホが揺れた。
「ひっくっっっ!」
電話だ。
唯一、やり取りする丹波さんは基本的にメッセージで用事を済ませるから、こうしてスマホが持続的に震えることは、ほぼない。
恐る恐る手に取ると、正にタイムリーな相手だった。
すぐに通話ボタンを押す。
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「あの、今度のインタビュー、なるさんの家でできないかなー・・・なんて」
りんごジュースって美味しいよねっていう平和な話をしていたら、そう聞かれた。
こちらの機嫌を伺うような声に、ダメなわけがないだろうと心の中で笑う。
「いいよ」
今、私が生きていられるのは貴女のおかげなんだから。
「サラさんだったらいいよ」
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