第55話 永井なる(才能の値段)
遊ぶ場所をよく知らない。
もちろん、遊園地とかスポッチャとかがそれに値する場所だとは知っているが、楽しめている自分が想像できない。
食わず嫌いは良くないとは思うが、わざわざ苦手な場所に好きな人と行くギャンブルはしたくない。
横の奴があからさまに辛そうだったら楽しめるものも楽しめないだろう。
チャレンジするなら、誰にも迷惑をかけない1人で臨むべきだ。
ソロ活とかいう便利な言葉も世間に定着してきたのだから、周囲の目も昔よりは柔らかいだろう。
閑話休題。
私もサラさんも楽しめる場所は、皆無に等しい。サラさんの好みに合わせたいけど、あの人の好みを知らない自分に絶望する。
あれだけ好きとか言っておいて、そんなことも知らないのかお前は。
全く、呆れたものだ。
じゃあ、私の行き慣れた場所しかないじゃないか。
とは言っても、私の行動範囲は狭い。
選択肢が限られたから、思考は楽になった。
この際、長年憧れていたことをしてみるか。
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あー、楽しい!
サラさんと本屋さんで買い物してるだけなんだけど、インスタ映えするカフェとかより確実に楽しい。
電子書籍が主流になってから、それなりに経つけど私は、こうして本屋で紙の本を大人買いするのが大好きだ。
「あ、これこの間アニメ化されたやつですよね」
サラさんも読書の習慣があるらしく、少なくとも退屈そうではなかった。
それが嬉しくて買い物籠を二つに大量に本を詰めていく。
これだけ買っても6万するかしないかだろう。
「いつものシャンパンに比べたら激安ですよね」
「はは」
あの30万のジャンパンは、サラさんへの応援代だから30万の価値は十分にありますよ。とか言ったらキモがられるかもだから言わない。
「でも、本当に昔から本は安いですよ。作品によっては、1000万くらいの価値があるのもあるのに」
単行本は2000円以内、文庫本は1000円以内。
面白い本もつまらない本も変わらずこの値段。
「まあ、人の好みはひとそれそれなので、たくさんの人に読んでもらうっていうのが正義になりますけど、自分の好きな作品を書いた人にお金がいかないのは納得しづらいです」
お金のためにやっているんじゃない。
そうかもしれないけど、わざわざ断ったりもしないでしょ?
「表現の値段ですか・・・確かに難しいですね」
私のどうでもいい話を膨らませようとしてくれている。
真面目だなぁ。
この人と本音をもっと話したい。
昔は小説にぶつけていたけど、ここ数年はお金になる話ばかり書いている。その小説の価値は650円ってところか。
ちなみに、太宰治の『斜陽』60万円。
あんな毒にも薬にもならない小説でお金が入ってきて、今までの苦労の意味が分からなくなった。
このスランプから脱出するためするべきこと。
「ジャンルで読む本を決めてる人も結構いますもんね。恋愛ものしか読まない人には、いくら面白いホラー小説は届かない」
割と濃い小説の売り上げ問題を語っているこの人に協力してもらうのが、1番の近道だ。
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