第54話 永井なる(人間関係)

同伴って、要するにデートじゃん。

ど、どうする。今までの人生でデートなんてしたことがない。


苦し紛れにネットでデート情報を探してみたが、サラさんと私には合わない情報しかなかった。

何やってんだよネット!

本よりも便利に情報を得られるのがお前の良いとこだろ!


とは言っても、恋愛指南書が何の役に立たないことは、一応、出版界で生きる売れてるだけの小説家でも知っていた。

あれほど中身と値段が合わない物もない。


そうなってくると、人に相談するしかない。

人間関係が希薄な私の話を聞いてくれるのは、サラさんを除けば、1人しかいなかった。

\



「あぁ、サラさんと同伴ですか。良いですね」

「え・・・。丹波さん、サラを知ってるんですか?」

「えぇ。先生がお世話になっているので、ご挨拶させて頂きました」


優秀な編集者という人種は、本を売るためなら何でもする事は知っていたけど、まさかこれまでとは・・・。


ストーキングでもされていたのだろうか。まあ、私なんぞを性的に見ているわけがないので、別に良いか。


「そうなんですね。じゃあ、話が早いです。私にリアルのデートとはなんぞか教えて下さい」

「いや、デートじゃなくて同伴です」

「ん?何か違うんですか?」

「うーん。片方がお金を受け取ってる状態をそう呼んで良いかが引っかかりますね」

「・・・?私なんかと話してくれるのに、お金を払う以外の方法があるんですか?」

「・・・」


あれ?

黙っちゃった。

何か失礼なことを言ってしまっただろうか。

慌てて補足する。


「だ、だって、あれじゃないですか?丹波さんと私も小説の売り上げが繋げている関係で、お金が絡まなかったら一緒にいる理由がなくなるでしょう?」


編集者と小説家とは、お金を稼ぐためのバディだ。利用価値がある内は仲良くしなければならないが、私が1文字も書けなくなるなんてことになったら、この関係は壊れる。

当たり前の話だ。

なのに、なんで丹波さんは嬉しそうなんだろう。


「・・・やっぱり、本物だなぁ」

「え?」

「いや、なんでもないです」

「そうゆうのやめてください。ラノベ鈍感難聴主人公みたいになっちゃうでしょ」

「別に良いじゃないですか」

「良いわけないでしょ!あんなのリアルにいたら人間関係壊しまくるサイコパスですよ!」

「そこまで言わなくても・・・分かった分かった、言いますよ。先生はやっぱり素晴らしい小説家だって言ったんです」


不名誉な称号をどうしても避けたくて丹波さんの胸ぐらをぐわんぐわんしていたら、教えてくれた。

チョロいな。


でも聞き出せたところで意味が分からない。


「これからも、不幸のままでいて下さいね」

「は?嫌ですよ」


何をヤンデレヒロインみたいなことを言ってんだこの中年は。

丹波さんは良い笑顔で続ける。


「せっかくだから、同伴ついでにキャバ嬢を取材して新作書いたらどうです?」


スランプ中の小説に軽くそんなことを言う丹波さん。

普段は大人の対応をしているが、テンションの高い時はひょうきんおじさんになる。

こうなったら、相手するのが面倒臭いので、私はさっさと承諾してこの会話を終わらせることにした。

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