私はあなたを忘れられない

和田 真央

第1話

これは私しか知らないお話。


小学校から中学にかけて、私は周囲に期待されていた。理由は小さなことであるけれど、絵を描く事が得意だったから。どんな大人にも負ける気がせずに、当時はやたらと胸を張っていた。しかし、


「すごいね!もっと何か描いてみてよ。」

高校に入りすぐの事である。奴らは隣の彼へそう言った。

「いや、別にそこまでじゃ無いって・・・。」

同じ十五歳。そのノートからは、才能の水が溢れ続ける。自分の描く絵が、産まれて初めて二番目に見えた。


そうしてその夜、気付けば私は筆を取っていた。引く線一本、置く色の一つ。今はもうどれも満足出来ない。描いた側から腐り落ちるのだ。

「クソ・・・!」

時計の針など目の端にもなく、次の日。朝日が私を絶望に落とす。濡れた紙面と頬の涙跡。そこには無力が彫って起こされた。


「君、将来どうするの?絵とか、上手いし漫画家とか?」

あれから何日過ぎ去っただろう。とある放課後、教室の隅で私は尋ねた。

「いや、絵はそんなに好きじゃない。だから普通に働くと思う。」

その時、彼の答えに毒は無かった。

「そっか・・・。」

あったのは一つ。毒よりも強い呪いの力。彼はそんな事知る由すらない。知らないからこそ、私をこの場へ縛り付けるのだ。劣等感の鎖を用いて。


「ふざけんなぁ!」

その後、正門を抜けて逃げる帰路の中。私は空へと思いをぶつけた。何処か本気をすかされた様で、相手は勝負をするつもりも無い。”敗北”の文字は否が応にも脳へ刻まれる。


その日は夜から雨が降っていた。聞いたところでは、少し早めの梅雨入りだそうだ。




あとがき

この度は『私はあなたを忘れられない』をご愛読いただきまして、誠にありがとうございます。この作品、実は大学の授業の一環として制作した物で、ついつい発表場所に困りカクヨムの方へと持って来てしまいました。読者様方には大変恐縮ですが、良い作品の供養になったと私自身は考えております。誠にありがとうございました。

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私はあなたを忘れられない 和田 真央 @Tunas

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