魔女学校の雑用係は今日も理不尽に忙しい
アロエ100号
ドラゴンの血
第一話 夜間飛行は命懸け
箒での夜間飛行はベテラン魔女にとっても難易度が高い。
ましてや、こうした状況では尚更だ。
不気味に赤い満月が点滅し、警報音があちこちで鳴り響き、侵入者をとらえようと警備用ゴーレムがうろつきまわり、サーチライトの照射が縦横無尽に走り回る中を飛行するのは、ほとんど自殺行為でしかない。
それでも身軽なハールは高度を落とさないまま、グチグチと理不尽な校長の仕打ちを嘆きながらも弾丸のように監視塔へと突き進む。
「そりゃあね、我々は給費生ですから! おまけにガッツリと落ちこぼれているのにお情けで在籍させてもらっているわけですから。雑用くらい、いくらでもこなしますとも!」
騒々しい警報音の中でも、不思議と良く通る声が更に愚痴を連ねる。
「ただ、それでもですよ。盗まれた国宝の奪還ってのは、生徒に頼むべき雑用と違わなくないですか? 相手、確実にプロの犯罪者ですよね?」
そうして聞くに堪えない罵り言葉で校長を呪い倒してから、ハールはその小柄な体格に見合わぬ大声で私に呼びかけた。
「ちょっとノイデ! 貴女、ちゃんと聞いてます?」
「……どうにか」
そう応じたものの、私は彼女ほど夜目が利くわけではない。
今はハールが箒に吊り下げている結晶式ランタンの魔力を目印にして、スピードを落とさぬよう後をついていくだけで精一杯だ。
そんな私のことはおかまいなしに、ハールは校長への恨みつらみを吐き続ける。
「あの、超絶無責任アル中魔女め!」
我々が在籍しているこの王立チェリーヴァーレ魔女学校は、元は王族のための教育機関として創立された。魔女の国最古の伝統を誇る学校だけあって、宝物庫には世に二つとない歴史的貴重品が収蔵されている。
魔術を研究している者であれば垂涎物の、秘匿された魔道具に禁書の数々。
決して他では手に入らないそれらの逸品を狙い、あれやこれやの手を尽くして盗賊が学内に忍び込んでくるのはもはや毎年の恒例行事といっても過言ではない。
もちろん学校側も、曲者揃いの教師たちを筆頭に万全の迎撃体制を整えている。
学校の敷地内は完全なる治外法権。
いつもであれば学内への侵入者を察知した途端、「新たな実験材料がきた!」とばかりに色めきだった教師たちが盗賊狩りを始めるはずなのだが。
なぜか今回に限っては校長の横やりが入り、教師たちは強制的に待機状態となってしまった。代わりに、盗品の奪還を命じられたのが私たちだ。
当然ながら、それで他の雑用がチャラになったというわけではない。
手付かずのままになっている雑用のことを思い出してうんざりとしていると、私と同じことを考えていたらしいハールがヤケクソ気味に叫んだ。
「さあ。とっとと犯人を捕まえて、残った雑用を片付けますよ!」
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