第8話 天賦の才

「お前本当に懲りないなあ……」


「おいおい、仮にも先輩だぞ?その口の利き方、弟と違って相変わらず生意気だな」


「そんなこと言ったって俺はもうこの世のもんじゃねえからな。先輩後輩言う方が野暮だぜ」


「ま、それもそうか」




『神崎将人』俺が隼斗を修練場に連れていくのは主にこいつを呼び出すのが目的だった。




「それで?お兄ちゃんから見た弟の成長はどうだった?」


「ん?まあ、合格だろ。昔の隼斗に比べりゃ見違えるほど強くなった。まだ甘さは捨てきれてねえけどな」


「それは言えてるな。もしも俺が敵に回った時、あいつ俺と本気で戦えない」


「安心しろ、その時は俺がお前を殺すぜ?」




 無論冗談のつもりだろうが、その瞳の奥には万が一の際は容赦しない。という意志を感じ取れた。



「はは、それはそれで楽しそうだな」


「止めてくれ、俺だって隼斗の恩人を殺したくない」


「じゃあその為にも強くならないとな。今日もやるぞ?」


「はあああ……仕方ねえ、来いよ」




 俺は待ち侘びたこの瞬間に悦びを隠しきれなかった。隼斗を倒したボーナスステージとでも言うべきか、ただでさえ強い隼斗を倒さなきゃ辿り着けないとか、どんだけ鬼畜なんだよ。精々隼斗との勝率なんか10回やって五分五分って所だ。もちろんお互い本気ではやっていないが


 一方、目の前の神崎将人との勝率ーーーー


 85戦85敗


 こいつは明らかに別格過ぎる。だが、目標があるのは好都合だ。将人がいる限り俺はまた強くなれる。


 俺は手始めに打撃戦で挑んでみることにした。パンチによるコンビネーションを三発。しかし全てその場から一歩も動かずに躱されてしまう。


 続いて全速力で背後へと回り込み、将人の首元に手刀を叩き込もうとするが、こちらを振り向くことなく頭を軽く下げるだけで避けられる。




「おいおい……俺に殴り合いなんかで勝てるわけないだろ」


「はは、生意気なクソガキだ……なっ!!」




 俺は不意打ちでハイキックを繰り出したが、その足を片手でいなされ、逆に高速の回し蹴りを叩き込まれた。




「かはっ……!? 」




 しっかり視界からは外さなかった。だが奴の蹴りに身体が全く反応出来なかった。全国で10人程しかいない国家一級守護者の俺でも反応すら出来ない。はっ、惨めな気持ちになってくるな……




「ふああ〜あ、もう終わりでいいかー?」




 将人は退屈そうに欠伸あくびをしている。




「何言ってんだ?勝ち逃げは許さないぞ?ここからが本番だ」


「そうかよ」


「異能力――――――――――影法師」


「うわーめんどくせえのきたー」


「影法師――――――刀」




 俺は影で作りだした刀を抜き、影踏みで将人の影へと移動する。




「影斬り 居合――――――――――」



 影の力によって放たれる神速の一閃だったが将人はひょいっと後方へバク転をして躱す。しかし俺の攻撃はそれだけではなかった。




「影斬り――――――――――十突」




 影の刃から神速の突きがほぼ同時に10回放たれる。

 が将人はその全てを躱してみせた。




「て、てめえ……相変わらずの化け物だな」


「化け物?今避けたのそんなに凄いのか?」


「チッ……!」




 俺は影から黒い弾を100発生成する。もちろん万が一の為に威力は抑えてあるが、数打ちゃ当たるってやつだ。




「なんだ?前にも当たらなかったろそれ、それともたくさん撃ちゃ俺に当たるとでも思ってんのか?」



「思ってるよ。射干玉ぬばたま……!!」




 100発の影の弾丸が一気に将人へと襲いかかる。同時に発射しても躱されてしまえば意味が無い。その為一発0.2秒ずつタイミングをずらしている。


 すると将人は「はぁ……」と溜息をついた後、片手だけを構えた。




「シャッ――――――――――!!」




 俺は目の前で信じられない光景を目にしていた。




「う、嘘だ……ろ?」




 有り得るのだろうか……?100発の弾丸を避けるのではなく、全て素手で弾く人間が―――――――


 しかも、片手で完璧に弾いていた。もはや武術云々の話ではない。




「よし、もう分かった。次は避けれる」


「……は?」


「弾丸ってのは正面っからの推進力は凄えからな。まともに喰らえばいくら俺でも風穴が空いちまうけどよ、側面から弾けば大したことはねえ」


「お前は今の100発を全て側面から完璧に弾いたってのか……?」


「ああ、そうだ」




 そんな事あるわけが無い。これも何かの能力なのか……?




「いくらお前の身体能力が優れていても、」


「そんなの簡単な話しだろ」


「弾丸だぞ?人間の速度で追いつけるわけ―――」


「俺の動きが弾より速え、ただそんだけの事だ」




 将人の動きが弾丸よりも早い。通常で考えれば馬鹿げた話しだ。だが、こいつなら有り得るのかもしれない。紛れもない化け物、この国の隠れた最強の戦力。この事は俺しか知らない。もし将人の存在が国に知られれば間違いなく利用される。そんな事になれば将人は容赦なく国を潰そうとするだろう。それだけは避けたい。幸い普段は好戦的な性格ではなく、弟が危機に瀕した時にのみその力を奮う。




「お、木刀あるじゃん〜」


「……!?」


「さっきのこんな感じだったか?」




 次の瞬間、20mほど先にいた将人の姿が完全に消え、同時に背後から人の気配を感じた。




「影斬り――――――――――十突?」




 背後からの神速の10連続突きに俺は必死に食らいついたが、3回ほど突きを受けてしまった。




「ぐはっ……!?」


「はい〜終了〜」


「お、お前……身体能力だけであそこから俺の背後に回り込んだのか……?」


「え?そうだけど」




 俺は思わず笑ってしまった。その馬鹿馬鹿しいほどの力量差に笑うことしかできなかった。




「はっ、それで?影斬りの十突はお前にもまだ見せたこと無かったはずだが?」


「ああ、それは」




 神崎将人は戦いの天才だ。並外れた身体能力、格闘センス、強い精神力、戦闘におけるIQの高さ、反射神経、そして――――――――――




「今覚えた」




 一度その技を見れば完璧に学習してしまう。まさに




 天賦の才だ――――――――――


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異能力社会 〜僕×俺で世界最強なんだが〜 @SAI7

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