第2話 遅刻は犯罪?

 学校に着いてラブちゃんをカバンにしまい先生からのお怒りの言葉を頂いた後に待ち受けるのは、友達に囲まれるような華やか学校生活ではなく、周囲の人から体の芯まで刺さりそうな鋭い視線を感じ続けるような視線の冷たい氷のような学園生活だった。それも仕方がない初日から遅刻してきたのだ、不審な目で見られない方がおかしい、これから一緒に青春時代を共に過ごすからできるだけ早くイメージを取り戻したい。と考え彼女は持ち前の氷とは対照的な温かく前向きに考える力で気持ちを切り替え、すぐさま行動に出る。

「おはよう!今日遅刻しちゃって周りからの視線が痛すぎて、体に穴が開いちゃいそうだよ」

 昼休みに入って教室でみんなの自由な行動が許される中で、タイミングよく目の前を歩いてきた女子二人組に話しかけるも、私に対する返答はなく、二人でひそひそと話し合う。まるで私を蚊帳の外に追い込むかのように。

「ねぇ、このもしかしたらさっき話していた子じゃない?」

「うん、きっとそうだよ。この学校の恥だね」

 何ということでしょう。たった授業に遅刻しただけで、学校の汚物のような扱いになるとか残酷過ぎない?そんな思考をしていると、少女の周りからは男女関係なく人が離れていき、一定の距離を保ったまま彼女の周りに大きな包囲網を張るかのように集まる。

「この学校の恥の分際でノコノコと学校に来てんじゃねえぞ!」

 誰かが煙を立てたと同時に、もともとガソリンを敷いてあったかのように周囲にも燃え広がる。流石に大げさすぎないか?遅刻でいじめが起きるなら、一年が過ぎるころにはみんないじめられていると思うけど?とそんな能天気な思考をしていても、燃え上がった炎は止まることを知らない。

「邪魔だよ失せろ」

「汚らわしい学校に来ない」

「考える脳みそさえないのね?」

「だから、能無しなんだよ」

「いいね~~、それ!能無しか~~」

 そんな中、釣り目で負けん気が強そうな一人の男が嬉しそうに誰かを称えながら、彼女の正面に立ち彼女を見下すような態度で話しかける。

「お前が噂の「能無し」のエステラ、だよな?」

 ここで彼女ことエステラは勘違いをしていたことに気づかされる。エステラが今、罠にかかった鳥のように囲まれているのは、初日から遅刻をしたからではない。しかし、気づくと同時に怒りが込み上げて来て、ここまま言われっ放しはカッコ悪いと思い勇敢に立ち向かう。

 「私よりも少し身長が高いからって調子に乗りすぎよ、私には才能がなくても私には努力が………………」

 相手に噛みつこうとする犬のように敵意をむき出しにしたエステラは最後まで言葉を言う前に、ポーチにしまっていたはずの腑抜けたような声から言葉を遮られる。

「そこまでだ、才能がなくてもぽくのご主人様だ。ぽく以外の人間に彼女を傷付けるようなまねはさせない」

 自分は傷つけていいんかい!あと、僕以外の人間って、そもそもラブちゃんは人間じゃないし……。とツッコミを入れようとしたが、凍てつくこの空気の中勇敢に戦えるほどエステラに勇気はない。と冷静な思考に戻される。

「……………………」

 周囲の人たちは突然のことで呆気にとられて何も反応を取ることが出来なかったらしく、この状況下で堂々と地面に仁王立ちできているのはラブちゃんだけだろう。しかし、時が経つにつれて止まっていた時間が動き出す。

「あ~~~~はははっはははははっはははっはは」

 周囲の人たちの笑い声が重なり、おかしなリズムの笑い声が生み出される。エステラはこのことにまたかとため息を付く。すると、釣り目の男がエステラに向かってピエロを見ているかのように話しかける。

「無能のAIもまた無能とは…………」

 お腹を押さえながら前傾姿勢になり、笑いすぎて言葉がまる釣り目の男がさらに言葉を続ける。

「タレントの星の数に応じてAIの性能が進化していくと聞いていたが、まさかここまで空気の読めないポンコツになるとは、流石は無能なだけはあるぜ」

 と言いつつ、自慢するかのように自分のAIを取り出す釣り目の男。彼の持っているAIは球体型の浮遊物で、今も彼の右手の上をフワフワと浮いている。すると彼は球体型AIに己のタレント鑑定をするように呼び掛けると、強く光り輝きAIから光の媒体のようなものが浮かび上がり、3つの星が表示されるのを周囲に見せつけると同時に、己の存在を誇示するかのように叫ぶ。

「1-Eクラス唯一の星3保持者のアルト・ハンプシャー様だ」

 釣り目の男もといアルトは大々的に自分の名前を見せつけるかのように、胸を張り決めラジオ体操第二に出てきそうなポーズをとる。その姿にダサいと思ってしまうのはエステラだけだったようで、周囲の女子はキャ~~と黄色い声援を上げて、男からは尊敬の眼差しを受けていた。そんな中、一人いや一匹だけこの場の空気を読めない者がいた。

「何を星3つという理由だけでカッコつけてんだよ、髪の毛逆立ち白髪見釣り目のちみは釣り目過ぎていて状況が見えていないのか?」

 今一番状況が見えていないのはラブちゃんだからこれ以上は勘弁して、と言いたくても周囲の人を殺しかねないような視線が怖すぎて思うように言葉が出ないエステラは相棒の蛮行を見守るしかできない。

「とんがり釣り目のタルト君に教えて上げよう」

 ちょっと待って名前はアルトだから!これ以上はまずいって、私ただでさえ遅刻して人権を持ち合わせてないのに、これ以上失うのはヤバいって!エステラの心の中の叫びを理解してはいるが、それに全く配慮はしないデブネコ型AIのラブちゃんは楽しそうな顔で続ける。

「星は違えど最低ランクのこの教室にいるということは同じ学校の恥なのではないかね?」

 おいこのデブネコ、全然フォローになってないぞ!何なら私にまでダメージ入ったからね!と心の中でラブちゃんのこの後の処遇について考えていると、とんがり釣り目のアルトが怒りをラブちゃんにではなくエステラにぶつける。

「舐めたことしてくれんじゃないか…………いいだろう、そこまで言うんだったら、昼からの授業で実力の差を見せつけてやる、覚悟しておけ……」

 どうやら午後の授業では実際にドラゴンに乗って、騎竜レースをするらしい。そこでどうやら恥をかかせた私を見せしめに他の人たちに実力の差を見せつけたいのだろう。しかし、私とて世界最高峰のレーサーを目指しているのだ、そう簡単に勝利を譲ることはしたくない見せてやる。私の努力スキルエンデバーを…………。

「これで一件落着だな、機転の利いているぽくをパートナーに持って幸運だったと思うだろ」

 その言葉が言い終わるころには私の周囲に人はおらず、親ガモについていくコガモのようにみんなアルトの後をついていく。対する私には……。と視線を落として足元で自慢げに仁王立ちしているラブちゃんしか周りにいなかった。私にはこの場所はお似合いなのだろうか、こう誰もいない状況下でラブちゃんだけが私に話しかけてくるような状況が………………。

「確かにラブちゃんがいてくれるだけましだよね!」

 そうエステラは心を偽り笑顔を繕うことしかできなかった。しかし、このラブちゃんはエステラに気を遣うことはしない。

「ぽくの計算通り、遅刻した挙句友達をすべて失っちゃた、テヘペロキャラのお茶目な女の子作戦はこれで終了だ」

 腕を組んで偉そうに語りだすラブちゃんの態度に私は怒りを超えて嘲笑せざる負えなかった。

「どんな作戦よ、策士はさぞ優秀な方でしょうね?」

「優秀だなんてそんな照れる」

「皮肉なんですが?」

 どうやら私はドラゴンの扱い方よりも先にAIの扱い方を覚えた方がいいのかもしれない。










 

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