騎竜学園の特別支援課題
@sunaokyo
第1話初日にして伝説
誰もが立ち寄るのが難しいと思われるくらい険しい山の中にポツンと一軒の家が存在を主張する。基本的な家の構造は四角形の上に三角形を載せたようなまさに家という形をしているのに対して、悪目立ちをする家は綺麗なまでに豆腐型をしていた。その悪目立ちハウスの中に住むのが今年めでたくも誰もが憧れる騎竜学院に合格した女子生徒で、今日初めて学校に登校するので、チョコレートを買ってもらった少女のように浮足気分で学校の準備をする。赤髪を大胆にまっすぐ伸ばした髪の毛を揺らしつつも準備を完了させ、黒く革のような見た目のソファにダイブしたい勢いで、思いのほか柔らかいのだろう彼女は鶏の卵くらいの高さを小さくバウンドする。そこでテレビをつけようとテレビに話しかける。
「もしもし、ラブちゃん、今日の天気を教えて!」
「りょうか~~い、できれば自分でやってほしいのだけど…………」
少女の問いかけに軽い感じで返答するモフモフな完全独立ぬいぐるみ型人工知能、通称デブねこ型AIの<LOVE>である。この時代の人工知能はもはや人間であるといっても過言ではない。なぜなら、日常会話を完全にこなすことが出来るだけでなく、それぞれがしっかり意思を持ち感情を具えている。今まさに、ご主人様であるはずの少女からも頼みも渋々受けるかのように返答する怠惰な態度はまさに普通の人間と言っても過言ではない。しかし、しっかりと言うことを聞くのはAIらしい行動と言ってもよい。すると、腑抜けたようなかわいらしい声で言葉の続けて始めるAI。
「天気予報をつけたけど、ぽくに聞いてくれればいいのに?」
「私はこの前のことをまだ根に持ってるからね。ラブちゃんこの前一日快晴って言ってたから、傘を持って行かずに10キロも離れた練習会場まで移動したのに、目的地に着く前からドシャ降りだったんだけど?もうラブちゃんのことは信用しないって心に決めてるからね」
少女はプクッとほっぺを膨らませて、AIに対して優しく説教するが、対するAIの反応は人間らしすぎたのかもしれない。それも見習うべきでないタイプの人間を。
「ちっ、良かったじゃないか、目先の利益を求めて楽しようとすることの怖さを知ることが出来て」
「ラブちゃんは人に善意を向けることを知るべきよ、あと、舌打ちをするな」
最近のAIはこれだから困ると肺にある酸素を全てもっていかれそうなほどの深いため息を吐くだけでなく、彼女の鬱憤はこれだけで晴らすことが出来なかったのだろう。長年活動を休止していた火山が再び活動を開始するかのように、彼女の怒りも爆発する。
「大体なんでAIなのに私の楽しみにとっておいたショートケーキを勝手に食べるのさ?しかも、動けなさそうな見た目しているくせに私がいないところでは自由に動き回っていることがわかるような行動してるの。最初はママと泥棒が入ったんじゃないかと、必死に犯人を捜したんだからね」
そこでAIは怒られたことに悲しい顔するのではなく、むしろ自慢げな顔で「またしてしまったか」とため息をつく。
「ぽくは女の子の心をかき乱してしまう罪な男なのですね…………」
「確かにかき乱されているけど、心じゃなくて生活がね!あと、男の子だったんだ?」
今日一驚いたと両手を挙げて大げさなポーズをとるが、ここで天気予報の時間をお知らせしてくれるありがたい機能のおかげで、学校までの時間が迫っていることに気づかされる。そして、大慌てで先ほど準備を済ませていたバックを持ち、ラブちゃんを肩に乗せて家の玄関の扉を開けて一言。
「いってきま~~す」
「…………………………」
未だ仕事の疲れで眠っている父と母にしばしの別れを一人寂しく伝えるも、仕事を頑張っている父と母は輝いて見えた。だから、そんな二人が仕事を頑張って眠っているのだから仕方がないと、寂しい気持ちを胸の奥にしまって自分の進路だけを見始める。ここからは私が頑張る番なのだ、これしきの事で狼狽えていては4年という長い学院生活を乗り越えることはできないと、自分を厳しい言葉で励ます。でも、行ってらっしゃいくらいの言葉くらいは掛けて欲しいな……………………。
「あっ、今気づいたけど、なんで時間が迫っていることを教えてくれなかったの?もう少し気づくのが遅かったら電車乗り逃してたかも入れないのに」
AIはわかってないな~~と言いたげに首を振り、肩を寄せつつ肉球のついた両手を広げる。
「初日から遅刻するというお茶目の称号を貰えるチャンスをぽくが意図的に作ってあげようと思ったからだよ、せっかくのチャンスを水の泡にするから
「両方余計なお世話だっつの、あと、遅刻してもらえるのはお茶目じゃなくて、不良だから!」
本当にこのAIはキャラクターにおいての設定ミスをしているといっても過言ではないと、ため息で表現することしかできない自分にうんざりする。しかし、タレント鑑定については本当に痛いところ突かれたと言ってもいい。なぜなら…………。
「ラブちゃん今日もタレント鑑定させて」
先ほどまでのテンションを山から谷に吸い込まらるように一気に落として、周囲の環境が暗くなったのかと思わせるくらいに悲しい雰囲気を出すとともに、現実を受け入れられない子供のように、もしかしたらという希望を持ってしまう。
「仕方がないハンカチを貸すから、泣くときはこれを使え」
「うん…………」
結果はまだ見えてないはずなのに言われた通りにハンカチを受け取り、唇を噛み締めている。先ほどまでと全く異なるテンションに、流石のAIもこれには動揺して追い打ちが掛けられなくなる。そして、彼女はAIに手をかざして自分の内に秘めているはずの才能に訴えかけ、自分の思いが届くように深く念ずる。本来はこうするとAIが夜に道を照らす街灯のように光輝き、光の強さに応じてその人の持つタレントを教えてくれるはずなのに、彼女の放つ光は「無」であった。やはり今回もダメなのかと落ち込み歩むスピードが自然と遅くなり、止まる。
「ぽくはすごいと思うよ、タレントも持っていないのに、騎竜学院を受けようとした覚悟が!余程の間抜け以外はそんな考えを持とうとも思わないし、簡単に言って糠に釘過ぎて能無しって感じだね」
「慰めになってないし、追い打ち掛けてるから!普通はタレントなしで合格したことをほめるべきでしょう?」
ここで思わずツッコミを入れた私に対してAIがしてやったり顔をする。ここで、少女も時たま見せるAIの人に気を使った行動に気づく。
「ちみには落ち込んでいる顔は似合わないよ!」
「あっ、ありがとう」
AIは人それぞれに合った完璧な対応を見せてくれるらしい。彼女の暗く険しい雰囲気は矢のごとく消し飛んでいき、そんなAIを少しかっこいいと思ってしまう少女。
「ぽくの今の行動見た?すごくファインプレイじゃなかった?ねえねえ、聞いてる?これでぽくのことを好きになる女の子が軽く五千人は増えたでしょ」
「これさえなければな~~」
やはり、このAIはかっこいいキャラではなく、お調子者のマスコットキャラクターがお似合いなのであろう。先ほどまでかなり高まっていた好感度を一定値まで戻していくが、彼女の中での評価はうなぎのぼりだった。「もしかしたら、ここまで含めた上での気遣いなのかな?」そこでAIこれまで話してきた内容を完全に無視して話題を変える。
「やったぜ~~!よくここまで隠し通したぽく。」
「え?急に何の話?」
訳の分からない発言に戸惑うことしかできない少女。
「電車の時間、もう過ぎてるよ!」
ここで、自分のタレントを測ったあとで、自然と足が止まっていたことに気づく。
「このデブネコが~~、あれほど、気づいているなら、報告しろと言ったのに~~」
「お茶目キャラとしての楽しい学園生活をお楽しみください!」
その後、2時間目の授業の途中で学校にたどりつくことが出来たはいいが、先生30分くらいガチ説教された。もちろん、周りの人たちの目は2つの意味で非常に痛いものだった。
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