記憶の星

鳥花風星@12月3日電子書籍発売

その記憶は美しい

 そこは記憶が美しい星になって宇宙そらに放たれる場所。記憶の星の保管場所。


 その場所には一人の美しい青年がいた。青白く長い髪に色白の肌、ゆったりとしたローブのようなものを羽織って椅子に座り、無数の星がさまざまな色を放ち満点に輝く宇宙そらを見上げていた。


「美しいな。いつ見てもいくら見ても見飽きない」


 その場所は、生前の記憶を星に変えて保管してもらうことができる。記憶の全て、もしくは記憶の一部、例えば良い記憶だけでも悪い記憶だけでも、どんな記憶でも美しい星に変えて保管することができるのだ。


 その記憶の星は、他界し魂が体を抜けて天に還る際に持ち還ることもできるし、そのまま保管してもらうこともできる。その魂の意思であれば、記憶の星を消去してもらうこともできるのだ。


「おや、いらっしゃい」

 ふと青年が宇宙そらから目線を変える。そこには、一人の女性の姿があった。その姿は光輝いていて、うっすらと透けている。


「私の記憶の星を消滅してくださいませんか」

 その女性は憂いを秘めた顔でそう言った。


「別に、構わないけど。記憶を持って還ることは強制じゃないからここに遺したままでもいいんだよ」

「遺したくないんです。全部消してしまいたい。私という存在の記憶、全部」


 苦しそうに言うその女性を見て、美しい青年は不思議そうな顔をした。


「君は君の人生をものすごく愛していたんだね」

 青年の言葉に、女性は驚いた顔で叫ぶ。

「そんなことない!私は私の人生が、記憶が大嫌いよ!」


 叫ぶ女性の声に青年は目を丸くしてから、ふっと微笑んだ。


「そうなの?魂になってまで記憶に固執するなんてむしろ珍しいよ。魂になったらね、良い記憶も悪い記憶もただそれだけなんだ。そこには何も無い。感情というものは存在しないし、良い悪いもジャッジしないんだ。だから持ち還る魂も保管したままにする魂も、その記憶をただの美しい星として扱うんだ」


 青年の言葉に、その女性はさらに驚いた顔をする。


「ただの美しい星として扱えない君は、きっと君の人生に、記憶に固執してる。魂が魂になりきれていない。成仏できていないだろうな。大丈夫、そういう状態でここにくる人も稀にいるから」


 にっこりと青年は微笑むと、片手を宇宙そらにかざした。すると、一つの美しく輝く星がその手に降りてくる。


「君の記憶はこれでしょう。美しいね。とっても美しいよ。きっといろいろなことがあったんだろう。苦しいことも悲しいことも、嬉しいことも楽しいことも。それがぎゅっと詰まってこんなにも素敵で美しい輝きを放っているんだよ」


 差し出された星を受け取った女性はその煌々と輝く星をぼんやりと見つめていたが、次第にその両目からいっぱい涙を落とし始めた。そして、いつの間にか微笑んでいる。

「本当に、キレイ……」


 涙をポロポロち流しながら、女性は次第に薄さを増し、光が強くなっていく。女性としての姿がどんどん無くなり、そこにはただの光だけになった。


『アリガトウ』


 女性だった光はその輝きを強め、星と共にふうっと消えた。


「無事魂になって天に還ったんだね。星も一緒に持って還った、よかったよかった」


 宇宙そらを見ながら青年は優しく微笑む。


 一つの星がこの場所から消えたが、それはほんの些細なことにすぎない。


「星が消えても、また新しい星が誕生する。魂が輪廻転生する限り、この美しい場所が消えることはない」


 青年は、また椅子にゆっくりと腰をかけて、宇宙そらを満足そうに眺めた。








 

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