第2話 講和破棄の決闘 2
金色の刺青が顔を覆い、湧き上がる魔力によって立て髪が荒々しく唸る。
その様はまさに野性の獅子そのものだが、彼女の最も大きな変化は左眼の眼球、それはルビーの如き深紅に染まり、その凄まじい眼光がエドガーを捉える。
「グルハッハ! 実戦で解禁するのは、父上以来だ!」
「化獣魔法・・・・・・獣人族の遺伝子に刻まれた術式の発動。その効果は先祖より受け継いだ野性の力の解放、お前たちで言うならば擬似的なネメアの再現・・・・・・種族魔法に分類されながらも、意識が野性に呑まれる副作用があり、その実態は獣人族でも極一部の者にしか扱えない代物と聞く。その力、長くないな?」
冷静な分析を口にしたエドガーは、無手を晒すように開き、右腕の袖から地面に溢れるほど長い鎖をしばらく出したのち、掴み取る。
(代償は理性か魔力、或いは闘気と推測していたが、これは理性だな)
「その通りだ。ガルルル!」
一方で野性的な笑みを浮かべるアレクサンドラは湧き上がる本能を表すような姿勢をとる。
餌を前にした肉食獣のように姿勢を低く保ち、前のめりになりながら地面に触れていないだけの状態で垂れ下がる両腕は時折ピクリと震える。
「残念ながら、誇りある決闘はここで捨てることになる・・・・・・グァ(が)、私は父上グァ得られなかった勝利をここで手に入れる!」
獣が宿ったように呂律が回らなくなっていくアレクサンドラ。理性を捨てかけている彼女に、男は優しく後押しするように言葉を紡いだ。
「安心しろ。お前が誇りを抱こうとする意志がある限り、それは無くならない」
前髪を掻き上げ、オールバックにした紫髪。側を着飾る上半身の貴族服を脱ぎ捨て、半袖の薄い布地に身を包んだ細身の体を晒す。黒い鎖は右腕の前腕から伸びており、根本は深く刺し込まれている。
「いいのか? 止まらなくなるゾォ!」
「止まる必要がないだろ。戦いに死力以外のなにを尽くせというんだ?」
その瞬間、獣から発せられた強烈な歯軋りとともに、アレクサンドラの顔に頬が裂けるほどの獰猛な笑みが浮かんだ。
(速い———!)
そして、その表情は既にエドガーの眼前に迫っている。
「ハァ!」
一息で放たれる正拳。
「・・・・・・!」
対してエドガーは向かってくるそれを足元に散らばる鎖を引っ張り、アレクサンドラの足に絡ませることで体勢を崩させた。
「がっ!」
覚束ない足取りの中、再び発せられようとしているエドガーの呼吸を鋭敏になった五感の全てで感じ取る。
「フッ」
繰り出される鎖の巻かれた右拳。
「ウルァ!」
それに合わせるのは、頼りない下半身の踏み込みを捨て、上半身の捻りを起点とした黄金の左拳。
「「っ!!」」
打ち出された拳と叩きつけた拳は僅かな拮抗を見せたのち
「ガルァ!!」
「うおっ!」
先程とは比べ物にならない膂力を得たアレクサンドラがエドガーの体ごと弾き飛ばした。
(やはり、鎖の重さだけでは足りないか!)
———
エドガート・テイナーが扱う黒い鎖の呪具の特徴は大きく分けて2つある。
1つ目は、この鎖が1mにつき10kgもの重さがあり、使用者が思うままにどこまでも長く鎖を形成し、また短くできるという性能。
———
「くっ」
空中に身を投げ出されたエドガーに、金獅子の更なる追撃が迫る。
「グルァ!」
飛ばされたエドガーの肉体は集落とは逆方向の森に投げ出された。一見、アレクサンドラが立ち並ぶ樹木によって、追撃が妨害されるように思えるが、それは違う。
「速えな!」
獣人族・・・・・・いや、レオナードにとって、森は絶好の狩場だ。物心ついた頃より鍛錬も狩りもアヴァラ山脈の森で全て行っていることから、立ち並ぶ樹木はアレクサンドラの足止めどころか、その脚力を更に活かす加速装置にしか成り得ない。
「ガルルゥ! 逃がすかぁ!」
雄叫びはすぐそこまでに迫ってきている上にアレクサンドラの目に理性が戻り始めた。
エドガーも体勢を立て直し、吹き飛ばされた速度そのままに樹木の枝の上を移動し始める。
(化獣魔法の燃費の悪さを利用し、長期戦で逃げ切る算段だったが・・・・・・この女、この短期間で理性を取り戻し始めている。力をコントロールしかけているな)
追走するアレクサンドラの湧き上がる魔力はいつの間にか、足のみに集中され、より効率的な魔力配分が為されている。
(最善策では勝てない。速度で負け、力で負けた。五感は言わずもがな。その上、耐久力やスタミナも奴の方が圧倒的に上だろう)
そうして現実を見据えていくうちにエドガーは足を止めた。
その行動はまるで全てを諦めた獲物のように悲壮感が漂い、あるがままの運命を受け入れる被捕食者のようだった。
アレクサンドラが最も嫌悪する退屈な獲物そのものだった。
「諦めたのか・・・・・・? グルルゥ! 私を失望させたなエドガー! もういい! 私の理想をゴミのように捨てた其方は絶対に許さない! 今! ここで! 私自身の手でなんとしても! 貴様にトドメを刺してやるぅ!」
誰よりも悲しみを込めて叫んだ捕食者は、有り余る脚力を以って跳び上がった。
(増幅したコイツの力を前に正攻法は通じない。が、魔力を戦闘の要としている以上、俺の邪道は通用する)
照りつける陽光が、その姿を鮮明に映す。
唸る金色の立て髪と肩に刻まれた獅子の刺青、片眼だけ濃く染まった深紅の瞳、それらを凝縮したような光が、アレクサンドラの両手を包んでいく。
「貴様の腐れ切った根性とともに刻みつけてやる!」
やがてそれは長爪を象り、腰の位置に構えた両手を振り上げる
レオナードに代々伝わる奥義の一つ。
名を
「
(体を覆う魔力を一点に集中させた。優れた魔力操作技術がないとできない芸当。並大抵の一撃ではない。奴の性格からして恐らく、最大の一撃・・・・・・)
その事実を確認するとともに、エドガーは勝機を見出した。
「晒したな? アレクサンドラ、お前の
エドガーの拳に巻かれた鎖に、紫の魔力が覆われ、鎖の先に首輪のようなものが形成されていく。
「っ!? まだ折れていなかったか!」
飢えた獣は、獲物の心が折れていないことに歓喜の表情を浮かべた。
「だが、もう遅い! 其方の肉体は焔を纏った爪撃が焼き裂く!」
「その一撃が俺に当たればな・・・・・・」
———
そして、二つ目の性能が顔を出す。
———
右前腕から放出される無限に近い密度の鎖、放出された首輪に追随する鎖、紫の魔力を纏うそれらが、空から迫る巨大な斬撃と接触を果たしたとき
「
金色の爪撃の中心を貫いた。
中心の魔力を貫かれたその爪撃は、原形を保つことができず、凄まじい余波となって四方に分散し、アヴァラ山脈の豊かな緑の一部を深紅に染めた。
「は?」
未だその身は滞空している中、愕然とした声をあげた時、首輪は既にアレクサンドラのもとに辿り着いていた。
ガチャン!
「なっ!」
そして、首輪は彼女の首元に嵌まった。
———
黒い鎖の呪具、二つ目の性能の発動条件、それは防御する対象の魔力を上回る一撃を与える、もしくは対象の魔力を介した攻撃を撃ち破ること。つまり、魔力的観点に基づいた勝利によって、一時的な隷属期間を得るというもの。
隷属できる対象は勝利したものに限られるが、勝利する力の種類は持ち主が選べる。力、技術、闘気・・・・・・エドガーの場合は魔力である。
———
つまり、アレクサンドラは一定の期間に限り、エドガーの許可無く魔力を用いることはできない。
「なんだこれは!? 外れな———」
そして、一定の期間、この首輪は絶対に外れない。
限られた時間の中でエドガーがまずとった行動は
「フッ!」
「ぐっ!」
鎖の縮小によるアレクサンドラとの距離の短縮である。
「魔力が・・・・・・練れん!」
アレクサンドラの巨大な体躯が、途轍もない力でエドガーのもとに引き寄せられる。
「クッソ!」
(肉体のスペックはアレクサンドラの方が上。鎖の重さからして50mは伸びている。しかも、ある程度落下した上であの高さ、恐ろしい跳躍力だ。身体能力ではまず敵わない。それにあの技は奴の常軌を逸した身体能力があるからこそ成立している。あとは魔力の集中と放出を同時に熟しているだけで、大袈裟に魔力を消費しているわけではない。恐らく、もっと魔力量を減らしてもあの技は貫けた)
エドガーは黒の鎖で攻撃する際、鎖の仕掛けが働いて、攻撃力と防御力は純然たる魔力量で換算される。
このことからエドガーは普段、相手から放たれる攻撃を威力ではなく魔力量に注視して、鎖にそれを上回る魔力を込めて迎撃する。
しかし、アレクサンドラが放った技は少量の魔力を飛ばし、並外れた身体能力によって引き起こされた空気摩擦によって生み出された炎を魔力が纏うことによって威力を底上げしていたものだった。
(魔力量を見誤った。奴の身体能力を過小評価し、奴の魔力を過大評価しすぎた。魔力を隷属できても得られるアドバンテージが少な過ぎる。割に合わねえな。
「ここで
残る距離は約20m。
その間、アレクサンドラもこの呪具が発動する魔法のカラクリに気づき始めた。
「化獣魔法が解けている・・・・・・なるほどな」
(解けたということは、魔法または魔力の使用が禁じられているのか)
引き寄せられる過程で、いよいよ地面に接しかける距離に近づいたアレクサンドラは、再び木々の枝を利用し、自らの意思で体を動かし始める。
(身体能力は健在、体の動作に支障なし。ならばやることは一つ!)
「其方を殴り倒す!」
最早、鎖を引き寄せるよりも速い移動速度で走る彼女は鎖を辿って、持ち主のもとへ最速で向かう。
最中、鎖が引き寄せる感覚が無くなった。
(最早侮ることはない)
10mも近づくと、彼女の五感が彼の存在を感知し始める。
そして、鎖が引き寄せるよりも速く姿を現したアレクサンドラは感極まって叫んだ。
「居た! 見つけたぞエドガー!」
鎖が伸びる先とは全く違う方向から現れた彼女にエドガーは呆れたような溜め息とともに微笑を浮かべた。
「待ちきれなかったか?」
その態度にアレクサンドラが違和感を感じ取った。
「ぐっ!」
それは突如締めつけられるような感覚が宿った首によって、現実となった。
(はあ!? なんで鎖が木に絡まって・・・・・・!)
「伸ばした鎖をあちこちに引っ掛けておいた。これでもう動けんだろう」
「かっ・・・・・・あ、ぐ!」
「悪いが、少し眠っててもらうぞ」
ジャラララ!
エドガーは巧みな技術で鎖を操り、一本の木に鎖を引っ掛けると、アレクサンドラの足が地面に着かない程度の高さで吊り下げた。
「こうでもしないと勝てないんでな」
「ぐっ、ぎっ・・・・・・がぁ!」
「恨み言なら後でじっくり聞いてやる。今は大人しくしていてくれ」
「ぎっ・・・・・・ひひっ!」
鬼気迫る表情を露わにして追い詰めるエドガーに対して、追い詰められたアレクサンドラは逆に喜悦ともとれる微笑を浮かべ
「ぐっあ!」
ドゴォ!
足裏を木に向けて、蹴りを放った。蹴りの衝撃でアレクサンドラの体は浮き上がり、太い枝の周囲を一回転して絡まった鎖を強引に解いた。
「っ!!」
驚愕するエドガーの前に降り立った金の獅子は、彼を一瞥して、視線は彼から伸びる鎖に移った。
「ゴホッ! ガハッ! フフフッ」
「やられたな。次は悪巧みか?」
「さあ・・・・・・な! 自分の目で確かめるといい!」
弾けるように走り出すアレクサンドラ、その動きはエドガーに近づくときもあれば、そこらの木の周囲を回ったり、不規則極まるものだった。
「・・・・・・っ! 鎖か!」
ジャラララ!
それに気づくと同時にエドガーは鎖を引き寄せる。
しかし、鎖の音は徐々に小さく、か細くなっていく。
「遅かったか!」
そして、鎖に加わる恐ろしく強い力を感じて、エドガーは己が犯した失態を悟る。
「ハァッ!」
ドゴォ!
「がはっ!」
引き寄せる力が加わったことで、アレクサンドラが放った掌底の威力は絶大なものとなり、エドガーの腹部に突き出された。
「っ!! いい一撃だ!」
苦悶の表情を宿した彼はアレクサンドラの放った左手首を掴むとともに、黒の鎖で繋ぎ止めた。
「ん? なんだ? 言っとくが、仲直りの握手とかつまらないことを吐かすようなら、この腕握り潰すぞ!」
アレクサンドラもエドガーの右手首を掴んで力を加え始める。
「好きに握り潰せよ。俺の手をどうしようとお前の自由だ———」
「シッ!」
ミシミシと鳴き始める右手首を気にも掛けず、涼しい表情を見せるエドガーに、彼の意図を計りかねたアレクサンドラは残った右手で拳を繰り出した。
ドォ! ゴリュッ!
頬に食い込むそれをエドガーが受け入れると共に異音が走る。
と同時に拳の勢いに流されるように体勢を傾け、角度をつけて回転したのち、アレクサンドラのガラ空きの脇に紫の魔力を込められた蹴りを喰らわせた。
「ガハッ!」
「勝利を掴むのは俺だがな」
ビキビキ!
「ぐぁっ!!」
ドゴォ!
「ごふっ!」
肋骨から鳴り響く不穏な音に、アレクサンドラは思わずエドガーの右手首を離し、抵抗するように放った蹴りがエドガーの腹部を捉えた。
「・・・・・・ケホッ、ケホッ」
右手首の鎖は容易に解かれ、踏ん張りもなく勢いもないそれは腹部に衝撃を与えたが、蹴りの勢いそのままに後退することでエドガーはダメージを最小限に留めた。
「お前の相手は骨が折れる」
ゴキッ!
エドガーのダラリと垂れ下がった右腕、アレクサンドラに蹴りを喰らわせるために外した肩の骨を強引に押し込むことで無理矢理治した。
「ごほっ!! それはこちらとて同じ」
一方、アレクサンドラは未だ肋骨の激痛が治らず、苦悶の声をあげたのち、八重歯が見えるほどに深い笑みを浮かべて拳を構え直した。
「降参する気は?」
「ない!」
「だろうな」
(見るからに戦いを楽しむ戦士の顔だ)
この瞬間、互いの心意は完全な対極に位置していた。
いい加減降参させて早くアレクサンドラを連れ帰りたいエドガー。
戦いの中で得るものが多く、戦いを続けること自体が目的にすり替わっていて、最早勝敗がどうでもよくなっているアレクサンドラ。
「勘弁してくれ」
実はこのエドガー、早朝から戦いっぱなしである。その疲労度は想像を絶する。
———
彼の疲労具合をわかりやすく説明するためにはまず、エドガーの魔力量の話をした方がいいだろう。
彼の武器は黒い鎖の呪具だ。実はこの呪具、テイナー家でもお墨付きのやばい品である。
三代程前のテイナー家当主がこの鎖の第一発見者だった。その当主は、両親の事故死によって若くして当主という地位を受け継ぐことになったのだが、テイナー家の中でも過去最多の魔力量を記録した麒麟児の上、商才にも長けており、数多くの商人と取り引きをすることでテイナー領を豊かにしていった。
そんなある日、商人の間を巡って、テイナー家当主にある品物が回ってきた。それがエドガーの持つ呪具である。
当時、王級魔術師第7位としても名を馳せていた当主は、呪具に指先一本触れただけで、全ての魔力を吸い取られ、生き絶えたという。
そんな誰にも扱えないとされていた呪具を使い熟せるほどの凄まじい魔力量を誇るエドガーは先刻、残る魔力は2割と言った。
その理由は、アレクサンドラが来るまでに大人しく待っているつもりだったエドガーなのだが、ヒリストンがアレクサンドラに報告しに集落に戻った際に、現在レオナードが持ち得る限りの全戦力がエドガーを襲ったのだ。
襲撃者である彼が襲撃されるというなんとも皮肉な話だが、エドガーはこの獣人たちを粗方片付けていた。
その時既に残存魔力は5割を切っていた。彼らの執念深さか、将又呪具の燃費の悪いゆえか、エドガーは前者と結論をつけた。
———
そんなエドガーにとって、気力に満ちたアレクサンドラの姿でさえ、胃袋に重くのしかかる質の悪い肉のように鬱陶しい存在になり始めていた。
「次の一撃で決めないか?」
うんざりしたエドガーは漸く、今まで提案したかったことを口に出来た。
「なぜだ! 斯様に楽しき戦いをどうしてすぐ終わらせる!? さては其方、鬼か? わかっているのか? 其方が行おうとしている蛮行は極上の食事を目の前で分捕ることとなんら変わりないのだぞ!?」
「食事ならあとで用意してやる。最近、野生の龍が多くてな。龍の肉を腹一杯ご馳走させてやれるほどの備蓄はあったはずだ」
「それとこれとは別なのだ! この決闘は言うなれば、その龍の肉を更に美味しく食すための前菜なのだ!」
「その前菜の量を減らせば肉が増えるって話をしてるんだがなぁ!? あとなにちゃっかり両方美味しく戴こうとしてんだ? 決闘が続くようなら肉は無しに決まってんだろ」
「この鬼畜めぇ! なぜ、そうも乙女心を弄ぶ真似ばかりするのだ! そんなに私をお持ち帰りすることが重要なのか!?」
「重要だから提案してんだろうが! お前の顔も体も一切傷つけずに持ち帰ることが最重要なんだよ! なにが悲しくて傷だらけのお前を敷地にあげなきゃいけねぇんだ!」
「傷だらけの私に魅力はないというのか!?」
「あるに決まってんだろ! かと言って、傷だらけのお前にドレス着せる訳にはいかねえんだよ! な? わかってくれよアレクサンドラ」
「〜〜っ!! 黙れ! 其方は女心というものを全く理解しておらん! 女は二つあれば両方楽しみたいのだ! それこそが女の
「本当に女って面倒くせえな!」
「面倒のない女など何処にも居らんわぁ!」
「「はぁ、はぁ」」
一通り議論を交わした二人は、互いに口喧嘩はここまでと言わんばかりに距離をとり、構えをとった。
ふっと一息吐いたエドガーの瞳はほの暗くアレクサンドラを映し、呪詛すら篭っていると思わせる声音でそれを口にする。
「ああ、わかったやってやるよ。テメェ、尊厳的な意味で死んでも文句言うなよ?」
未だにアレクサンドラに取り付いた首輪に伸びる鎖を手に取り、何かを決意したエドガー。
「其方こそ、龍の肉の備蓄が全て無くなっても文句言うなよ?」
自身の首に取り付いた首輪から伸びる鎖を握り、何かを画策するアレクサンドラ。
両者共に鎖を握り締め、一陣の風の音を合図に仕掛ける。
「ウォラ!」
「フッ!」
風と共に駆け抜けたアレクサンドラが強烈な右ストレートを放つと同時に、エドガーは始めの時と同じように、拳の通過点に伸ばした鎖を置いた。
「っ!!」
それを見て反射的に拳を開き、鎖を掴んだアレクサンドラは流石といえるだろう。が、相手はエドガー、既に何度も破られた手を繰り返す男でもない。
「フッ!」
「うおっ!」
アレクサンドラの首輪は未だ継続中、それを僅かに引っ張り、体勢を崩させるとともに、前のめりになったアレクサンドラの首、正確には首輪にさらに鎖を巻いた。
「隷属魔法」
漆黒は溶け合い、魔力密度を大きく増したそれは紫の首輪へと変貌を遂げた。
「
ガチャン!
ボンデージロマンス 真斗崎摩耶 @440214
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