時は来た! 私の時代でしてよ!



「王子、これは婚約を破棄するための書類です。サインをください」

「は」

 オッホホホホ。見てください。この王子の間抜け面。目を皿にして口をあけて何てみっともないのでしょう。この顔だけで今日はごはん三杯いけますわ。今日だけですが。

(この世界、主流はパンだがな)

 そういうことはいいのです。

 それよりもこの顔すっきりしますわ。、ヒロインが戸惑っているのもいいですわね、オッホホ。みなさい、これが私の本気です。

「な、なんで婚約破棄なんて〜〜」

「王様とお話ししてきましたのよ」

(あれをお話というのは無理がないか。ただの脅迫)

 お話しですよ、お話し。拳をちょっと使っただけです。

(ちょっと……)





 数時間前

 普段は平穏で綺麗に整えられている城の中は死体が折り重なり地獄のありさまであった。助けてくれる者もを何もいなくなって震えているのはこの国で一番偉い王だった。

 その前にいるのはゴリラニ匹。

 クイーンリゼットとエン・フタワールの二人だった。

 クイーンリゼットはにっこり笑って王に迫る。それはその美貌を損なわせることのない美しい笑みだったが、悪魔の耳がはえていた。

「王様。ねえ、いいでしょう、このまま国が崩壊するのを見たくなければ私と殿下の婚約破棄をお認めになってくださいまし。

 私、二人共好きだ。俺のものだ。なんて戯言をはいて、人の目の前で女とイチャイチャするようなくずとは付き合いたくありませんの。結婚なんてもっての他。ですから頼みますわ。

 まあ、ここで滅ばなくともバカ殿下のバカで滅んでしまうかもしれませんがね。あ、もしかして息子が滅ぼすよりはここで滅んだ方がいいと言うお考えですか。それでも私はいいのです。

 この国一つ滅ぼうとと高笑いして生きていきますので。どうします? 好きな方を選んでください」

 にこにこにこにこ。笑う彼女の前で王は引きつっていた。後の群岡はのんきにあくびをしている。

 王の口元がふるえる。

「ま、待てくれ! お願いだ。あの子を見捨てないでくれ。クイーンリゼット嬢がいてくれないとあの子だけでは王などやっていけん」

「えっ….…めんどう」

 縋りついてきたのだがすぐさま切り捨てている。心底嫌そうな顔で王を見ている。

「まあ、でも私もこの国が滅ぶのが本意なわけでもないので大人しく婚約破棄を認めていただけるのであれば、殿下のお目付け役として殿下を調教してもよろしくてよ。もちろん殿下に対してなにをしてもいいという条件つきで。さらにさらにたった二人にボコられるこの国のか弱い兵を二人で鍛えて差し上げてもよろしいのですよ。

 騎士として二人で働きますわ。

 婚約破棄を認めていただけるだけで。どうでしょう。陛下。いい話ではございませんか」

「……認める! ここに王子とクイーンリゼット嬢の婚約破棄を認めよう」



 ……思いだしてもいい話し合いでしたわね。

(もうどんなものでも話し合いになるな)

「と言うわけで殿下。今日から私は貴方の婚約者ではなく貴方のお目付け役、とても分かりやすく言うと貴方が何かをやらかしたらぼこる役ですのでお願いしますね」

「……い、……いやだ」

「いやだじゃございませんわ。もうそうなってしまったのですもの」

 オッホホ。恨むのならこれまでのお馬鹿なご自分をお恨みになって。そして私のこの素敵な筋肉を。

 はぁ、一昔前の私はなんて馬鹿だったのでしょう。後、ほぼ一年もまとうとしていたなんて。こうしてしまえば即解決でしたのに。もちろん王子の今までの愚かさのお陰ですけど。

 何がどっちも好きだ。そう言うのを人は二股というのですわ。

 いくら王族が妾を持つのを許されていても、王子のうちからそんなことをやっていたら周りの信頼がなくなるのも当然でしてよ。

 青白い顔をしてももう遅いのですわ。

「いやだ!!」

 あ? 何ですかこのバカ。いやだと言っても無意味なことが伝わりませんのかしら?

(逆に伝わると思ってるのが驚き何だが)

 え?

(この状況で伝わらんだろう。伝わっても負け犬の無駄吠えはある)

 そんなもの聞きたくなどないのですけどね。でもいいですわ。最後に笑いとばしてさしあげます。

「俺はクイーンリゼットが好きなんだ! 愛しているんだ。婚約破棄何て絶対いやだ! お前だって俺のことす「なわけないでしょう。

 このくそ色ボケ男~!!」

ゴーン!

 は。またやってしまいました。チェンジする前に殴ってしまいました。あまりにも言い出されることが気持ち悪くて体が条件反射のように動いてしまいました。

(見事に王子か天上にのめりこんだぞ。おちるだろうか。死んでないよな。

 あ、落ちた)

 大丈夫でしょう。頑丈なようですし...…..。

「きゃああああ、王子!!」

 あ、忘れておりました。実はいたヒロインが王子にかけよっておりますわ。そして揺すぶっておりますが反応ありませんわ。まずいかも……って、あら?

 ヒロインキスしちゃいましたね。

 キスするの好きなのかしら。

(そうなのかも……って王子回復してないか)

 ……あら、あら。たしかにしておりますわ。青白いのが戻っております。そう言えばヒロインには回復の力があった気がしますわ。目覚めるのは夏の終わり頃のはずですが……。

 ああ! 王子が昨日の今日で復活してしまったのって

(ああ! 死体にキスしたのって)

 なるほどですわ。本気を出しても大丈夫なのかもと思ってましたから真実が分かってよかったですわ。

(変態じゃなかったのか)

 あぁ~完全回復してしまいました〜〜。五月蝿いのが戻ってしまいました。静かになってほしかったのに。

「リカーシャ、ありがとう」

「…… 王子、大丈「殿下の心配はけっこうですか、貴方は自分の心配をした方がよくてよ。何せ私は婚約破棄したので、貴方が王妃になることになりますからね。王妃になるのであればこれからはきびしい王妃の教育を受けてもらいますよ、先生は王子のお目付け役であるこの私ですわ。

 よろしくお願いしますね」

 うふふ、ああ、小鹿のようにふるえてこれはこれで可愛いですわ。いけない道の一つや二つ開いてしまいそうです。たっぷり教育してあげなくてはね。

(お~。こわいこわい

あんまりいじめてやるなよ。悪知恵働かせることぐらいしかできない小娘なんだから)

 うふふ一分かっております。

 あぁ、顔色まで悪くなってかわいいことですの。

「い……、い」

 おやおや、ヒロインが何かいいたげですわ。いいでしょう。心優しい私は聞いてあげますわ。

「こんな二股くそ野郎の王妃なんて絶対いや!

 好きでもなんでもないのにそんなこと付き合えない!!」

「リカーシャ!?」

「えーー?」

(は)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゴリラになった元悪役令嬢、元に戻ってもやっぱりゴリラのままですわ  〜もうやめてくれ!(by中の人)〜 わたちょ @asatakyona

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る