後編

 そうして俺は教師たちに拘束され長時間の説教の末、この修学旅行は宿舎待機となった。

 坊さんや教師にあれだけ暴言を並べたら仕方がない。

 部屋の前に修学旅行ですら暇な教員が立っていて抜け出すこともできない。

 ふと交際相手である夏帆のことを思い浮かんだ。

 身代わりになった後のほっとした顔を見たらこのことに対する後悔は全くない。

 むしろあっち側が反省すべき問題だと、堂々と胸を張ろうと思う。


「夏帆は今頃、自由時間なのかな~」


 その時、コンコンと小さく窓ガラスを叩く女子生徒が現れた。

 彼女のことを見たら心の底から嬉しくなった。

 俺はバレないように窓ガラスを開けた。


「隼人」

「夏帆。自由時間はどうした?」

「会いに来たよ。抜け出してきた。隼人がいないとつまらないもん」


 舌を小さく出して笑う彼女はこの修学旅行で一番楽しそうだ。


「隼人。抜けだそう。私、お昼ご飯食べてないんだよ。一緒に食べに行こう?」

「やれやれ。俺は監禁されていて。抜け出したら次はどんな罰を与えられるのだろうか?」


 そうして俺は夏帆に連れられ宿舎を抜け出した。

 俺は夏帆を助けることができて良かった。

 本来の修学旅行は痛みもなく、恐怖感もないはずだ。

 一歩間違えれば彼女に一生の思い出が一生の傷として残るかもしれなかった。

 彼女にだけはそんな思いはさせたくなかった。


「隼人」

「うん?」

「ありがとう。カッコよかったよ」


 夏帆は俺の腕に抱き着いてきた。

 と思ったら、耳たぶを引っ張ってきた。


「痛いって。どうした?」

「隣の女の子を助けるときデレデレだった」

「そ、そんなことない」

「へ~、私は可愛い女の子を助けられなかった後悔がにじみ出てたけど。分かるけどさ、血も出て痛そうだったのは」

「分かってくれてよかった」

「隼人。ん」


 夏帆は自分の唇に指差した。


「謝罪のチュー。もう二度と他の女の子にデレデレしませんって誓って」

「わかった、わかった」


 そうして軽く口づけをして歩き始めた。

 満足そうな夏帆は旅行にピッタリの満面の笑みでこう言った。


「ねぇ、今日は修学旅行抜け出そっか?」

「監禁場所だけでなく行事も抜け出しちゃうのか?」

「そ。お金まだたくさんあるから、私服に着替えたら学生ってバレないよ。二人きりで夜を過ごせるよ?」

「夏帆って案外バカだな」

「えへへ。隼人の夏帆はおバカさんだよ~」


 その日は夏帆と一日中観光を楽しんだ。

 観光の合間に私服に着替えて夜まで、いや翌日の朝まで二人きりでいた。

 彼女がわざわざホテルを予約し直していたのだ。


「隼人」

「どうした?」

「修学旅行、楽しかったね」

「これは修学旅行なのか? 全然学んでないけど」

「これは修学旅行だよ。隼人のことをたくさん学んだから」

「なんてことを言うんだ」

「本当のことだから」


 ニヤニヤしながら夏帆は俺をからかい、楽しい修学旅行が終わりを告げた。

 そして俺たちは何事もなかったように合流したが、再び拘束され説教を受けるのであった。

 それでも痛みや苦しみがある旅行を過ごすよりはよっぽど楽しかった。

 隣で正座をしている彼女は笑い、俺もそれにつられて笑う。


「お前ら二人、反省してんのか? 修学旅行めちゃめちゃにして」


 教師の怒りが混じった問いに俺らは声を合わせてこう答えた。


『反省していません。楽しかったです』


 自身を持って言える。

 これが俺らのの修学旅行だ。

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君のことを守りたい 〜修学旅行での一幕~ みずうみりりー @riri-3zuu3

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