中編
「いってぇ~」
「隼人……」
その瞬間、俺は立ち上がり夏帆の体に覆いかぶさった。
何とか間に合って彼女に振り下ろされるのを阻止することが出来た。
警策は俺の背中に当たり、すさまじい痛みが襲う。
これが夏帆の肩に当たっていたらと思うと守ってやれてホッとした。
「隼人、大丈夫?」
「大丈夫、大丈夫」
何が起きたか理解できていない周りの生徒や教師がこちらを見ているが、そんな目線はもう入らなくなっている。
怒りで頭に血が上り切ってしまっている。
俺は立ち上がって坊さんに向かって怒鳴り始めた。
「おい、坊さん。あんた、今何をしようとした?」
「えっ、いや、普通に振り下ろそうと……」
「ふざけんなよ。うちのエースに何かあったらどうするつもりだったんだよ。おい」
坊さんに接近して胸で突こうと思ったが、教員に羽交い絞めにされて止められた。
「お前、やめろって。何してんだよ、手を出したら分かってんだろ」
「だから手は出してないんだろ。そこまでバカじゃねぇんだよ、こっちは。そもそもお前ら教員がバカじゃねぇのか?」
「何だと。もう一回言ってみろ」
「お前ら教師がバカだって言ってんだよ。部活で肩を大事にしている人だとか、弱い人には手加減してやるとか事前に寺と共有してなかったのかよ? そんなこともできないのか、この学校は」
俺を取り囲んでいる教師たちがだんまりと黙ってしまった。
「事前のロケハンで体験して威力を確認してなかったのか? あんたら教員は見てるだけかもしれないけど、こっちはやられる側なんだ」
「……」
「お前らに見えてないのかよ。叩かれたやつ、痛そうだぞ。おかしいって思わなかったのかよ。大勢の大人がいて、誰一人気が付かなかったのか? まさか寝てたんじゃねぇだろうな?」
「いや……その」
「分かってて知らんぷりしてたのか? お前ら、教師やめた方がいいんじゃないか。もしこのまま続けていたらもっと怪我人が出てたぞ」
痛いところを突かれた羽交い絞めを解いてきた。
きっと病院沙汰にでもなれば大事になるとでも思ったのだろう。
生徒の痛みに目を瞑って、自分の保身に徹する教師達だったということだ。
「夏帆。大丈夫か。怖かっただろ」
「うん。私は大丈夫」
「そっか。良かった」
夏帆の様子を確認してからまだ痛そうにしている隣の女子生徒に声掛けた。
「肩、大丈夫か? すまん、もっと早く言えばよかった」
「……大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」
女子生徒は心からホッとした様子であるが俺の決断が早ければ彼女は犠牲にならないで済んだかもしれない。
少し後悔はある彼女の様子を見ていると和らぐ。
彼女の肩を見ると制服の上から何かが滲んできている。
「叩かれたときに切ったんじゃないか。血が出てるぞ」
「……本当だ」
「おい。そこのバカ教師ども。坊さんにぶっ叩かれて血が出てる。病院に連れて、親御さんに連絡してやれ。あと前の男の生徒も、治療を受けたほうがいいんじゃないか」
「僕のこと見てたの?」
「君の犠牲だけでこの坊さんにお灸を据えるべきだった」
「僕は大丈夫。でも二回目は耐えられない。ありがとう」
そうして叩かれた二人は治療に向かった。
座禅体験は取り返しのつかなくなる前に阻止することが出来た。
そして、坊さんの肩を掴んでこう言った。
「俺の夏帆に手を出そうとした罪。忘れねぇからな」
「ヒェッ。ご、ごめんなさい」
教師たちが再び俺を囲んだ。
「お前、ちょっと来い」
「へいへい」
坊さんの後悔溢れる顔と教師達の失態をした後の顔を見ながら俺は教師達に連行された。
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