幸せバイすけ


「ふぃ~、到着とうちゃく~、帰ってきたよんお疲れさまな~バイすけ。なんだかんだで地元ってえやつの空気がさぁ一番落ち着くってもんですよねぇ~」


 高速道路を降り、見慣れた街の景色を眺めなつつ晴菜々さまは溜め息を混じえた声を漏らす。久しぶりの長距離ツーリング、さすがにお疲れになったのだろう。お家に帰られたらごゆりと休んでいただきたい。


「しっかし、あの県境のお蕎麦は美味しかったよなぁ。あちらの地元民さんご推薦も頷ける。道の駅の誘惑に打ち勝って食べたあのお蕎麦さまがどれだけ美味だったかお姉ちゃんにもしっかり自慢してやろう。いい反応見たいからお蕎麦の画像も送ってないしね、見えるかこの綺麗なざる蕎麦をってね。ひっひっひ」


 少し意地悪く笑いながらも、姉君に対しては少しのツンを出す我が主の心を読ませていただきますと、早く姉君にお土産話を聞かせたいのがよくわかりますね。しかし、あの道の駅の売店の誘惑に打ち勝てるとは思いませんでしたよ晴菜々さま。


「お、バイすけ。君も途中でゴハン食べたから帰りはスタンド寄らなくても大丈夫だよね?」


 はい、高速道路のガソリンスタンドでしっかりとご馳走になりましたゆえ、気にせずお帰りください。と言っても晴菜々さまには聞こえはしませんが私のタンクお腹は満足です。


「よ~し、それでは帰りましょう我が家へとなッ」


 晴菜々さまは速度を上げてセルフガソリンスタンドを通りすぎてゆくのでした。










「よぉしよしよし、ストップ・ザ・バイすけっ」


 お家に到着すると、いったん私を停車させ、ガレージを手動でガラガラと上げ、私を中へと入れる。いつもの停車位置。私にとってのベッドであります。


「おつかれバイすけ、長旅ご苦労さま。いつもありがと、また後で洗車と錆取りチェックしてあげるからねっ」


 これななんとも素敵なご褒美をいただけるものですな。ふふ、私に構わず早く姉君にお土産を持っていてさしあげてください。


「また、次の旅もよろしくなぁバイすけ~。ん~っ、チュッとな」


 ?! そ、速度メーターに接吻クチヅケをされてしまいました。いけません晴菜々さま、これは、少し過激がすぎるのではッ。


「ありゃ、なんかバイすけが熱っぽいような……いんや、気のせいかな?」



 首を傾げる晴菜々さま。はは、熱っぽいなぞ、今しがた帰ってきたばかりなのですからエンジン熱があるのは当たり前でしょう。なぞと言っても……聞こえる、はずは……。


「あっ、お姉ちゃんが呼んでる。よしよし、自慢話スタートだ。お姉ちゃんただいまぁっ、お土産も買ってきたようっ。こんにゃくラーメンとこんにゃくそうめんとこんにゃくの酢味噌。ありゃりゃ、これ全部こんにゃくだなっ」


 姉君の声が聞こえると我が主は跳ねるようにお家へと向かっていった。はは、やはりこちらの声が聞こえたように感じたのは気のせいだったようですな。しかし、あの道の駅で購入したお土産は全てこんにゃく商品なご様子だ。いやはやこれも我が主らしい。


 我が主、晴菜々さまは今日も明日も元気に私ことバイすけを楽しませてくれそうですな。


 それでは晴菜々さま、また後ほどに。


 ──完




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