ふたりが泳ぐイルカだったら
「暇だからRiff Offしよう」
「りふおふ? なんだよそれ」
「歌しりとりだよ。テーマを決めて、それに沿った歌を歌う。相手の歌の中に登場する単語に、新たな歌の単語を被せて歌唱を乗っ取って別の歌につなぐ、っていうやつ」
「なんかピンとこないな」
「しりとりを単語単位で、しかも歌でやるって考えればいいさ。歌をうまくつなげなかったり、もしくは違う単語でつないだりしたら負け」
「まあ、暇だからやってみようかな。歌はなんでもあり? テーマを決めるって言ったっけ。テーマはお前が決めていいよ」
「いやいいよ。君が初めてだったら、君が決めないと」
「お前俺を舐めるなよ。この世のすべての音楽という音楽を知っている男だぞ。じゃあこうしてやるよ。負けたほうは勝ったほうに焼き肉奢りだ。これならテーマを決めたくなるだろ」
「えっ、やだよ」
「いややれよ。圧倒的にお前が有利な条件を突きつけてるんだぞ? それに俺はその歌しりとりは初心者ときたもんだ」
「それってさ、僕がガチで勝ちにきていいの?」
「おう。手加減すんなよ」
「じゃあ、テーマはSOUL'd OUTで」
「は?」
「だからー、テーマはSOUL'd OUTの楽曲で。ガチで勝ちにきていいんでしょ?」
「お前それ本気で言ってんのか?」
「なに、条件譲ったこと後悔してんの?」
「いやいいよ、やってやんよ。SOUL'd OUTな。なんなら先攻もゆずってやる」
TAKE 1
「じゃあ、僕から」
「どうぞ」
「秘めた巨大なPower そびえ立ったTower アスファルトに網目状にひびが入るような地響き Metropolis Apocaly――」
「ポリスパトローウウォウウォウウォー!チョッキャッソウオンキョースペクトロウウォウウォウウォー」
「はいストップ。アウト」
「は? なんでだよ、ポリスでつなげただろ」
「ポリスって音ではつないだけど、単語が合致してないんだよ。メトロポリスとメガロポリスは違う単語じゃん」
「いやポリスってスペルは一緒だからいいだろ」
「ダメです。単語単位です」
「おいおい、そんなルール聞いてねえよ」
「僕言ったよ。単語をつなげるって」
「だから単語でつなげたじゃないか。ノーカンだろノーカン」
「はいはい。わかったよ。じゃあ次からちゃんと単語を音節じゃなくて単語で区切ってつないでよね」
「任せろ。次は俺からでいいだろ」
「曲もMEGALOPOLIS PATROLからでいいよ」
TAKE 2
「ショッキャッコードメガロポリスパトローウウォウウォウウォー!チョッキャッソ――」
「――Your right 行くぜ Rookie ゴールなんてない壮大な未来に…Are You Ready? Everybody c'mon――」
「エッビッバッディムーブ!キャニュゲラリラサムシンガットゥドゥ!ソーベラビリービン!ベラビリービンヤッセーフ!」
「はいストップ。君の負け」
「エッビッバッデ……ってなんでだよ。お前がTo All Tha Dreamersにつないだおかげでこのゲームを完璧に理解できたからEVERYBODYで完璧につないだだろうが」
「いや単語は完璧だったけど、でも僕が歌ったのはTo All Tha Dreamersで、君が歌ったのもTo All Tha Dreamersだったじゃん。同じ曲でつなぐのはなしでしょ。しかも僕のエビバディカモンヨーの次がまさにエビバディムーブじゃん」
「なんだよそれ。同じ曲はなしなんてお前一言も言ってないだろ。ノーカンだよノーカン」
「はあ、わかったよ。僕が悪かった。次から同じ曲はなしね」
「おう。任せろ。完璧に理解したぜ」
「じゃあ君から。今度はTo All Tha Dreamersじゃなくて、Everybodyから始まる別の曲にしてね。それくらいはいいでしょ」
「おけ」
TAKE 3
「えーっと、エビバディからか……あっこれだ」
「なんでもいいよ」
「エビバディユドンストップ!いつの日からか心を閉ざしていたー出逢えた人の優しささえ邪魔んなってやりきれーずに!何が正しい!何が正しく――」
「何があったなんて興味ねぇよ 人は変わるから…そうだろ?…
俺たちはここに重なって 心には青さだけが残る
目の前がぼやけて見える そんな日ばかりさ ――」
「さって今日のターゲッっておもったらぁ向こうからワンガールブーティリーシャース俺まるでヴェイシャスアセイチャオ!デニムのパンツだってロウウエスト!メンボーイ!メンボーイ!」
「うーん、アウト」
「は? なんでだよ」
「BLUESの『そんな日ばかりさ』の『さ』とルル・ベルの『さて今日のターゲット』の『さ』だけど、それじゃ単語単位じゃないじゃん」
「ばかりさ、のさは詠嘆のさだから1単語だろ」
「だからそれだと詠嘆のさでつながなきゃいけないじゃん」
「なんだよそれ。聞いてねえよそんなの」
「いや単語でつなげは最初に言った」
「あれは英語だろ。今回のは日本語だ。日本語もそれでつなげなんて言ってない」
「僕はちゃんと『何が』でつないだじゃん」
「一例しか目撃してないのにルールを把握しろってのか!?」
「わかった、わかったから。じゃあ仕切り直し。言っとくけど、今度に今度ばかりは最後だからね。焼き肉奢ってよね」
「じゃあ次は俺の好きな曲から始めていいか?」
「いいよ、それで」
TAKE 4
「叫べ刹那のメロディー!」
「はいストップ。それさっき歌った」
「止めんなよ。俺はこれが一番好きなんだよ」
「たしかにスタライは名曲だけれども」
「いいだろ。最後なんだから気持ちよく歌わせろ」
「わかったよ」
TAKE 5
「叫べ刹那のメロディー!魅せられるほどこのミステリー!何も失わずに手に入れたものなぁどぉ!くれぇてぇやるぅ!こだましろ!ホッ!ジャストメイマハー」
「JUST GIVE'EM AN UPPER CUT
"Oh, Christopher Colombus!" ――」
「ア、アラララァアア!あったりめだそんなぁのぉ何万回言われてもおなじこぉとぉまったりめのこのモードアイムシッケンタァヤド続けばまた……」
「はいアウト。これはさすがにアウト」
「おいなんでだよ!今のは完璧だっただろ!」
「そこのクリストファー・コロンブスのところにアラララはないのがまずアウトだし、あとたしかにShut Outのサビ前アラララは歌詞カードに書いてるけどそもそもCOZMIC TRAVELのクリストファー・コロンブスアラララは歌詞カードに書いてないんだよ。だから歌詞同士をつないでないから負け」
「なんだよそれ。おかしいだろ。俺歌詞カードとか見たことねえよ」
「えっ、歌詞カードみたことないのにテーマをSOUL'd OUTで受けたの?」
「なんかおかしなこと言ったかよ」
「はあ……わかったよ。じゃあこの勝負は引き分けでいいよ」
「なんでだよ」
「歌詞カード見たことないやつと互角の勝負じゃ、実質僕の負けだよ。というかSOUL'd OUTでこんなそれなりに戦えるとは思わなかったし」
「まあな。俺の名前のサイコバニーってのは、PSYCHO MAINTENANCEからもってきてるからな」
「Diggy-MO'とDJ Massのユニット名知ってるやつがSOUL'd OUTの歌詞カード見たことないのかよ」
はいオチたんで終わり終わり。
わかってんだろ、ペイス。
あの日のサイコバニー 江戸川雷兎 @lightningrabbit
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。あの日のサイコバニーの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
僕はカレーが食べたい/江戸川雷兎
★8 エッセイ・ノンフィクション 連載中 18話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます