あの日のサイコバニー
江戸川雷兎
創世記
僕の学生時代、サイコバニーと呼ばれていた友人がいました。本名は思い出せません。なぜサイコバニーと呼ばれていたのかもわかりません。たぶんいつもうさ耳をつけて変な言動をしていたからだと思うんですが、とにかくサイコバニーだったことは覚えています。
サイコバニーくんはいつでもどこでもよく寝ていました。授業中だろうが、休み時間だろうが、いつも寝ていました。寝ている時間のほうが起きている時間よりも長かった記憶があります。
あれはよく晴れた夏の日の出来事でした。サイコバニーくんは僕の後ろの席でした。冷房の効いた教室で、数学の授業が行われていたときだったと思います。授業が始まるや否や、背後からは寝息が聞こえてきました。いつものことだったのでそのときはあまり気に留めませんでした。
前の黒板が板書でいっぱいになり、先生が後ろの黒板に移動したため、生徒が一斉に後ろを向きました。もちろん僕も向きました。眠っているサイコバニーくんが目に入りました。彼が眠っているのはいつものことなので、先生が注意するそぶりは一切ありません。
授業を上の空で聞き流しながら、僕は彼の寝顔を眺めていました。ふと、僕は自分の手に持つ鉛筆を見て、そして彼の頬を見ました。
この鉛筆の尖ったところを彼の頬に刺したらどうなるだろうか?
目を覚まして怒られるだろうか?
それとも、何事もなかったかのように眠り続けるだろうか?
はたしてどうなるのか、僕は気になって気になって仕方がなくなり、授業どころではなくなりました。
先生は黒板にチョークで難しそうな計算式を書いています。やるなら今だ。僕は意を決して、彼の頬に鉛筆の尖ったところを突き刺しました。
すると、彼は突然、目を見開き、勢いよく立ち上がり、こう叫びました。
「サイコバニー汁、ブシャー!!!!!」
次の瞬間、彼の頬に空いた穴から、真っ黒な液体がとめどなくあふれ始めました。
黒い液体は周囲の生徒を飲み込み、教室を飲み込み、学校を飲み込み、そしてやがて世界そのものを飲み込みました。
真っ黒の世界に、僕ひとりだけが取り残されました。
何が起きたのかわからないでいると、背後から名前を呼ばれました。振り返ると、そこにはサイコバニーくんが立っていました。
「起きてしまったことは仕方がない」彼は肩をすくめて言いました。「もう一度世界を作り直そう。僕がアダムで、君がイブだ」
彼の笑顔で、僕はなんだか楽しくなってきました。
人類の創世記は、ここから始まったのです。
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