第3話

あれから数日。俺とジャンヌさんは大江山総合病院で入院していた。あの晩、俺はジャンヌさんが倒れているのを発見してすぐに過労で倒れたらしく後から来た陽奈たちが救急車を呼んでくれたらしい。

「病院食ってさ、なんか味気ないってイメージだけど結構おいしいんだね」

「・・・・・・・・」

「それに二人部屋でボクたちだけだからちょっと騒いでも誰にも迷惑かけないし」

「・・・・・・・・」

「ねぇ、ボーボボのDVDそっちに置いてない?」

「・・・・・・・・」

「ねぇ!」

「だー!もう、うるせぇなぁ!ボーボボのDVDならテレビの台に置いてるだろうが!」

 台を指さしながら俺はジャンヌさんにそう怒鳴る。こちらも悩み事をしているのに一々話しかけてこないで貰いたいものだ。

「あ、あった。よく覚えてたね。ここ数日トイレ以外はずっとベッドの上から動いてないだろ?」

「動いてなくても物の位置の把握くらいはできる。つかよ、正直こっちの不手際だから謝るんだけどさ、あんな目にあってアニメ見ようと思う普通?」

 一般人ならこんな目にあえばしばらくはしゃべることすらできないだろう。夢だってしばらくは悪夢ばっかなんてのもざらな話だ。

 しかし彼女はどうだ?起きている時は姉ちゃんが持ってきてくれる授業の写しや映像に目を通すこともなくアニメばっかりを見ている。寝ている間も楽しい夢を見ているのか寝言がうるさいのでこっちが寝られない。

「だってどんな呪いにかかっても君たちが助けてくれる。そうだろ?

「それが俺たちの仕事だしな」

「どんなに強い呪いでも?」

「そうだな」

「陽奈が祓えないような呪いでも?」

「・・・・・・・・・・」

 俺は答えられない。そもそも陽奈に祓えないような呪いが存在するのか?先日のチッポウの場合は急ピッチの上に人がいて本気も出せなかった。

「あぁ、別に答えなくていいからね。ボクも昔の刑事ドラマみたいに問い詰めるつもりもない

し」

 ベッドから降りてきたジャンヌさんがボーボボのDVDを取り出してレコーダーの口に入れる。

「ところで、犯人は見つかったのかい?」

 ジャンヌさんの問いに俺は答えることはなかった。確かに俺はティターニア先生から犯人の似顔絵を受け取っている。見た目は中年の小太りの男。髪も髭も明らかに整ってはおらず逆になんで先生はそんな奴の貰い物を受け取ったのかが謎だ。

 ジャンヌさんは被害者だから犯人を知る権利はあるのだろう。だがこれは裏の世界の問題だ。これ以上はジャンヌさんを巻き込むことはできない。・・・・・もっとも、ジャンヌさんは関わるつもりらしいが。

「犯人を見つけてどうするつもりですか?」

「また敬語?」

 ジャンヌさんの質問は無視して続けて言葉を出す。

「正直に言いますけどジャンヌさんってメンタルどうなってるんです?」

「ん?メンタル?」

 うーん、とうなりながらジャンヌさんがテレビを見始める。もう答える気がないのだろうと、諦めて見舞い物のメロンを食べる。

 メロンを食べ終わった辺りにジャンヌさんがふとこちらを振り向いてくる。

「そうだ!デートしようよ!」

 ジャンヌさんのいきなりの申し出に俺はベッドから転がり落ちた。デート?デートとはあれですか?好き同士のカップルがイチャイチャするためのリア充の戯れ。俺は遂にリア充になるのか?いやいや、落ち着け。こいつは俺のモテモテへの道を塞ぐボスと言ってもいい。いやでもこの人顔もスタイルもいいんだよなぁ・・・・・。

「ど、どうしたの!?」

「・・・・・・・しよう」

「え?」

「しようデート!」

 結局、俺は自分の欲望に負けた。

 デートが始まったのは昼飯を食べたあとだった。退院はしていないため勿論病院の中だけだ。中庭で病院服を着た子供たちが追いかけっこしていたり車椅子のお爺さんと看護師が散歩していたりするのを眺めながら俺とジャンヌさんはベンチへと座る。

「平和だねぇ」

「そうだなぁ」

 想像したデートではなかったにしろデートはデートだ。男の俺がエスコートを―――――な

にを?鳥のさえずり、子供の歓声、葉がざわめく音を聞きながら日向で椅子に座りながらのんびりと過ごす。・・・・・ジジババのデートかな?

「ジュースあるけど何がいい?」

「カルピスある?」

「あるよ。はい」

 ジャンヌさんからカルピスを受け取って一気に半分くらい喉に通す。うん。おいしい。落ち着いたところでもう一度考えよう。これは仮にもデート。俺からも何かを話さなければ失敗だ。

「そ、そういえばよ。この前貴族の屋敷で軟禁状態だったって言ってたけどその間は何やってたんだ?あ、いや、別に答えたくないならいいんだけど・・・・・」

 俺の質問にジャンヌさんの顔が曇ったがすぐに自分のクーを飲み干して走り回っている子供たちを見ながら口を開く。

「うーん・・・、何から話したらいいかな。屋敷の中じゃ自由はあったから魔法の本で魔法の練習したり剣振ったりしてたかな。病気になったってお爺様がずっと傍にいてくれたから寂しくないしね」

「そんだけアンタを大切にしてるお爺様がなんで軟禁なんてするんだよ?」

「お爺様というより王子様ね」

 それ以上はジャンヌさんは何も言うことはなかった。俺もこれ以上何も聞くことはなかった。そしてそのままこの静寂が続くのかと思ったその時俺の足元にもゴムボールが転がってきた。拾って辺りを見てみるとさっきまで走り回って遊んでいた男女の子供が近付いてくる。

「これ坊主らの?」

「うん!」

 男の子の方にボールを渡しすぐにどっかに行くと思いきや女の子じっとこっちを眺めてくる。

「どうしたんだい?お兄ちゃんは口は悪いけどとても優しいお兄ちゃんだからね」

「ジャンヌさん?もしかしていつもそう思ってた?」

「あ、変態も追加しようか!前から女の子のおっぱいも見てたし」

「あの・・・・、もしかして怒ってます?」

 不思議そうにこちらを見る女の子。俺も最大限怖がられないように笑顔を向けてみる。

「お姉ちゃんたちはカップルさんなの」

子供というのはなんと無邪気なのだろう。この状況を見てどうカップルに見えるのだろう。

「違うよ。お姉ちゃんたちはね、家族なの」

「姉弟?」

「ううん」

「分かった!夫婦だろ!」

「それも違うかな」

 もはや二人とも頭にハテナを浮かべている状態でジャンヌさんも笑って見ているだけ。

「わかんねー!姉弟でもなかったら夫婦でもないならなんなんだよ!?」

「血がつながってなくても契りを交わしてなくても、家族になることもあるんだよ。君たちも

う少し大きくなったらわかるかもしれないね」

答えを言わずにいるジャンヌさんを何を考えているのだろうとその横顔を見る。とても優し

い目だ。俺はその目を見たことがあった。母さんだ。今のジャンヌさんの目は俺と姉ちゃんを見る母さんの目に似ているのだ。

「・・・・・・・・・・・」

「どうしたの?もしかして、見惚れちゃった?」

 ジャンヌさんの問いに慌てて俺は視線を逸らした。顔が熱い。俺が彼女に照れている?いやいや、いやいやいやいや。有り得ない。確かにジャンヌさんは可愛い。だが、三度の飯よりアニメやゲームが好きな彼女が恋愛している姿が思い浮かばない。まさに非実在彼女のような存在だ。

 子供たちと別れた俺たちは再び病室へと戻ってきた。医者には後数日で退院できるとは言われている。

 ジャンヌさんがボーボボの続きを見始めるのを眺めながら、俺も姉ちゃんの授業ノートへと目を移す。今回はオリエンテーションだったので授業の進め方などが書かれていて少し授業も進んだのか電気分解についても書かれている。

「ジャンヌさんは授業のノート見なくていいのか?」

 ふと、俺はそんなことを聞いてみた。完全なただの興味だったが学校以外で勉強しているところを見たことがない。

「大丈夫だよ。君の映像の音を横から聞いてるからね」

「でたよ、ながら勉強。それ一番勉強にならないやつだからな?つか、メインがアニメになってる時点で終わりだよ」

 俺の苦言など気にもしていないのかジャンヌさんは次に見るアニメを漁りながら再び口を開く。

「ねぇ、ゲームしようよ」

 ジャンヌさんが取り出したのはなんと何処にでもあるような、なんの変哲のないトランプだった。

「トランプ?イカサマ有りのポーカーでもするつもりか?悪いけどルールを知らん。表面張力の方にしてくれ」

「これでそう言う返答する辺り君も結構な――――――。まぁ、いいや。別にそんなややこしいことはやらないよ。ただのババ抜き」

 二人でババ抜き?バカなのか?二人でやっても最後の三枚になるまで揃えて捨てるだけで盛

り上がるのは最後だけ。

「ふざけんな。クソゲーじゃねぇか」

「まぁまぁ、とりあえずやってみようよ!」

 ジャンヌさんのごり押しでとりあえずやることにはなったもののやはり予想通りというべきか毎ターン揃って捨てていくことを進めていき最終的に俺がジョーカーを持った状態だ。次のジャンヌさんの番でジョーカーを取ってくれたので今度は俺が選ぶ。

 右のトランプに手を伸ばす。するとジャンヌさんの耳がピコピコと激しく動く。今度は左のトランプに手を伸ばすと耳がシュンとする。・・・・・・分かりやすすぎる。

「・・・・・・・・こっちだ」

 俺は左のトランプを引き抜く。トランプを見ると案の定ジョーカーで一度シャッフルをしてジャンヌさんの前に出す。

 悩むジャンヌさんを見て更に追い打ちをかける。自分のダイヤのAを少しだけ上に上げる。俺の思惑通りにジャンヌさんがトランプを引いてこのクソゲーは幕を閉じた。しかしジャンヌさんは何故か満足気だ。

「なんとなく、君のことが分かったよ」

「今ので?」

「今まで見てきてだよ。やっぱり君はやさしいね」

 笑いながらトランプを片付けるジャンヌさん。彼女はそう言うが俺がやさしいなどあるはずがない。

「たった数日で何がわかるのさ。姉ちゃんだって人の本性を丸裸にするのにもうちょっとかかるのに・・・」

「全部じゃないさ。だけど本質は理解したつもりだよ」

 俺にはジャンヌさんがよくわからない。言うことやることが突発過ぎて理解できない。橙ソーマンですか己は。

「さっきのクソゲーで?」

「・・・・・ババ抜きのことクソゲーっていうのそろそろやめない?」

「二人でやるババ抜きを俺は良ゲーとは認めない。せめてもう一人くらい増やせ。それか豚の尻尾とか真剣衰弱とか・・・」

 トランプが入った箱をジャンヌさんがこっちに投げつけてくる。ジャンヌさんの顔を見てみればなんとも大胆不敵な顔をのぞかせてくる。

「じゃあやってみる?」

「上等だよ。負けても泣くなよ?」

 こいつはババ抜きで俺が手を抜いたことに気付いていないようだ。これは俺の勝ちだな。

 結論負けました。何なのこの人運強すぎない?真剣衰弱なんて俺一枚も取れなかったよ?最初のジャンヌさんの番で全部取られた。こうなるなら二連続で終了のルールにすればよかった。

「ボクの勝ちだ」

 何故だ?なぜ負けた?運良すぎない?確率いくつよ。だめだ。式考えた時点で面倒くさくなってきた。様々な疑問を思い浮かべる中、次のジャンヌさんの言葉ですべてが吹き飛んでしまう。

「・・・・・罰ゲームだね」

「は?」

 罰ゲーム?そんな約束俺はしてないぞ?いや、そんなことよりもこの変態から出されるお題だぞ?何よりもそれが恐ろしい。

「ま、待てよ!なんだよそれ!?聞いてねぇぞ!」

「言ってないからね。じゃあ、言うよ」

 もうなるようになれとベッドの間に置いた机に撒かれているトランプを集めながらジャンヌさんの命令に耳を傾ける。

「明後日この病院で患者向けの出し物があるんだけどボクと一緒に出てほしいんだ」

「ジャンヌさん?俺達患者ね。ただでさえもうここにいるのがおかしいくらい回復してるのに。その上まだ辱めを受けろと?」

 ジャンヌさんがうーん、と何かを考えるようにうなり始める。しばらくしてジャンヌさんが顔を上げると・・・・・。

「なら退院しよう!」

 そう言った。病院側にだって専門知識を持って念のためにとあと数日入院という判断を下したのだ。だが、まだ納得のいかない俺にジャンヌさんが追い打ちをかける。

「ボクたちの病状は過労と貧血、過度な栄養失調だろ?どれも一週間近く入院する必要があるものじゃない」

「それは確かに・・・・・」

 現に輸血パックと点滴はもう取れている。疲れだって二日間泥のように眠ったことで取れているだろう。そう言われればおかしいことばかりな気がする。

「とにかく、今度お医者さんが健診に来たら明日退院するって言うからね」

 もう何も言うまい。俺は静かに頷いて退院の準備を始める。やはりジャンヌさんのことは俺にはよくわからない。

 俺たちが夕飯を食べ終わった頃には夕日が差し込む病室は真っ赤に染まっていて今日はみんな忙しかったのかお見舞いはなく、あったのは陽奈からの長ったらしい電話のみ。学校での事やコトリバコの犯人がまだ見つかっていないこと。聞いた話は様々だ。

「失礼します」

 物思いにふけっていると扉が開き声が聞こえてくる。だがいつもの声じゃない。誰だろうと扉のほうを見てみると確かにいつもの先生じゃない。いつもはブラックジャック似の黒井という若い男だが今日来たのはマスクとメガネをつけた中年の男だ。

「あの、黒井先生は?」

「彼は今日休みでして。代わりに私が来ました」

 先生が笑いながらそう言って俺とジャンヌさんの間のカーテンを閉めて聴診器を胸に当てて来る。

 ようやく俺の診断が終わって先生がジャンヌさんを見ようとカーテンに手をかけたその時だった。

「あ、ボクはいつも女の先生に診てもらってたんですけど彼女も今日は休んでいるんですか?」

「あ、あぁ。彼女も今日は休みでね。いやはや困ったものだよ」

「噓ですよ。でもマヌケは見つかったようだね」

 ジャンヌさんの言葉に先生が慌ててカーテンを開きポケットに入れていた注射器を手にジャンヌさんに襲い掛かる。急いで俺も枕元に隠していたシングル・アクション・アーミーを取り出して引き金を引く。

 血を吹き出しながら先生、いや不審者が悲鳴を上げる。

「ジャンヌさん。ここからは俺の仕事ですので席を外してもらってよろしいですか?」

「それはいいけど敬語やめない?」

「仕事、ですので」

「最初に君の仕事を見学したときは敬語じゃなかったのになぁ」

 そう言いながらジャンヌさんが部屋を出るのを確認して男に向き直る。

「お、お前!こんなことをしていいとおもっているのか!?犯罪だぞ!」

「犯罪ねぇ・・・」

恐怖に染まった瞳を向けて喚き散らすソイツの顔を一発蹴り上げて髪の毛を掴んで顔を上げる。

「今から貴方に拷問を行います。いくら叫ぼうとこの部屋は完全防音なので外には聞こえません。思う存分叫んでください」

「簿、防音?なんでただの病院の一室にそんなのがあるんだよ?」

「おやおや、おやおやおやおや。質問をするのはこちら側だというのに仕方ない人だ」

 ポケットに入れていた手錠で男をベッドに拘束する。そして最大限笑顔で受け答えを進めていく。

「病院では多かれ少なかれ人が死にますよね?そうなると良くないものが集まってきます。街で一番大きな病院なら尚更それは顕著でしょう。そう言うものから我々が患者を護る代わりにこの一室を戴いたわけです。所謂業務提携です」

 さて、と話を切って俺は机に置いてあるカルピスを飲む。

「自分の話は以上です。今度はあなたについて聞かせて下さい」

 紙とペンを手に俺はようやく質問を始める。

「まず、お名前は?」

「だ、誰がお前のような異邦人とじゃれあう非国民―――――」

 バンッと部屋で大きな音が鳴り響く。俺の銃からは煙が上がり男のもう一方の足から鮮血が噴き出す。男の聞くに堪えない絶叫を聞き流しながら俺は言い放つ。

「無駄口は叩かないでください。部屋を汚したくはない。」

「す、杉田孝」

「そうですか。では次にこんなことを話した動機を話してください」

 銃をチラつかせながら質問すると杉田は観念したのかもう抵抗する素振りは見せずに口を開く。

「お、俺は異邦人なんぞ嫌いなんだよ!アンタだってこの街に住んでるなら発情期のオークがただでさえ潰れそうな商店街が潰れたの知ってるだろ?」

「えぇ。ちょっとしたニュースにもなりましたしね」

「そのせいで、花梨タンはお店を畳んで生活も苦しくなって」

 杉田は涙を流しながらそう訴える。確かにこの街の商店街はオークによって閉鎖に追い込まれた。その商店街の中に一ノ瀬精肉店という肉屋があり、そこの大学を卒業したばかりの一人娘が商店街の皆に愛されるアイドル的な存在だった。それこそファンクラブができるほどに。

 彼女やその家族、商店街の人々が職を失ったことに関しては同情する。が、今この状況においては心底どうでもいいことだ。

「・・・・・動機は分かりました。それじゃあコトリバコの材料。あなたの知っているように生きた子供の指です。ニホウ二つにミホウ三つ。先日のチッポウ合わせて二十人は子供の指を使っています。まだあるとするならばまだ多くなるでしょう」

 アドレナリンでだいぶ痛みに慣れてきたようで恐怖も次第になくなってきたのだろう。再び杉田が大声でまくしたててくる。

「んなのどうでもいいだろ!?なぁ、もう開放してくれよ!」

 そんな醜い泣き言を聞き入れて俺はため息とともに紙とペンを投げ捨てて両肩に一発ずつ弾丸を撃つ。再び襲った痛みに絶叫しながら白いベッドが真っ赤に染まる。

「うん、俺もそう思うよ?この言いたくもねぇ敬語に吐き気をもようしながらよぉ、美人ならともかくテメェみてぇなキモいおっさんと二人っきり。おまけに動機までキモいときた。推しが職をなくしたから?心底どーでもいいわ!」

 二、三発杉田の顔を蹴りながら今までのストレスを吐き出していく。

「そもそも異邦人狙うのに人間で実験してる時点で終わりだよ」

「う、うるさい!異邦人をこの地から排除するという大義を成し遂げるためには多少の犠牲はやむを得ない!」

 遂には御大層なお題目まで掲げる始末。ここまでくればもはや尊敬の念すら浮かんでしまう。

「つか早く答えろよ。指はどうやって手に入れた?」

「ダークウェブだよ!そこの人身売買で・・・・・。ガキももう死んでんだろうよ」

 とことん吐き気がする答えだ。正直仕事でもなければすぐにでも引き金を引いてこのクソ野郎の臭い息を止めてやりたい。

「よし、最期の質問だ。お前のバックにいる奴は誰だ?」

「な、なんの話だ?」

 まだとぼけるつもりなのか。杉田はさらに吠えながら暴れだす。こいつは学習というものしないのだろうか。

「アンタだけでここまでできるとは思えないんだよ。ダークウェブで子供の指を買ったとしても相当値が張るはずだ。ジャンヌさんが家でホームステイしていることもティターニア先生が家に居候することになったことも皆ご近所さんに漏らしてない。金も、情報もな」

「・・・・・・5chのスレにやるなら金をくれるってやつがいたんだよ!そっから作戦とか金とかをメールで話し合ってたんだよ!」

「じゃあその相手は・・・・・知らねえよな、当然」

 俺は残弾が残り二発となった銃を眺めながら一発杉田の腹へと撃ち込む。どうやら貫通したようで血だまりが更に大きくなっていく。

「何で・・・。ちゃんと質問に答えたのに・・・」

 血を流しすぎもう意識も絶え絶えな様子で必死に声を絞り出す杉田。腹を踏みつぶしてみればすでに少ない血が勢いよく飛び出していく。

「人を呪わば穴二つってことわざあるよな?人を呪うと自分も呪われ墓穴が増えるって意味」

 俺が何を言いたいのか分かったのだろう。みるみると青くなっていく。そう、人を呪った者は陰陽師が始末する。被害者の弔いを含むが実際のところは不平等だからというのが大半だ。だが、俺にとってはそんなことよりも大事なことがある。

「ジャンヌさんってさ、つい最近来たんだよ。商店街が潰れた後にな。関係ないんだよ元々」

 何度も踏みつけ蹴りつけを繰り返しいたぶっていく。

「もう・・・やめ・・・」

「やめねぇよ!俺はな、家族を傷つけられるのが大っ嫌いなんだよ!いいか?家族を傷つける奴はな、例えそれが個人だろうが組織だろうが国だろうがどうしようもない悪人だろうがたいそう素晴らしいお題目を掲げる聖人君子だろうがぶっ殺す。家のモンに手ェ出してんじゃねェよ!」

 最後の弾丸が杉田の眉間を捉える。小さな悲鳴とともに動かなくなったボロボロの亡骸を確

認して俺はベッドに座る。

病院に来てから俺はずっと悩んでいた。ジャンヌさんが呪いにかかった可能性があることが脳裏をよぎったとき言いようのない不安感が俺を襲ったのか。普段なら赤の他人と気にも留めないはずなのに。ジャンヌさんが危ないと思うと何故か怖かった。

 そうだ、ジャンヌさんは家族なんだ。例え俺のモテモテを邪魔する障害だったとしてもひとつ屋根の下同じ鍋やフライパンで作った飯を食い、言葉と心を通わせる。それが家族だ。勿論ティターニア先生だってそうだ。

「ハハ。なーんだ、簡単なことだったんだな。つか俺案外ちょろいなまだ一日しか一緒に過ごしてなかったってのに・・・」

 不意に笑みがこぼれてくる。死体の前で笑う人間などイカれているというほかないがこんな仕事をしている分多少倫理観は壊れるだろう。

 笑いが納まるとポケットのスマホを取り出して姉ちゃんへと電話をかける。3コール姉ちゃんの声が聞こえてくる。

『もしもしお前の最愛の姉、天野翠だ』

「姉ちゃん、コトリバコの犯人を始末した。クリーナーを頼む」

『またやったのか?まったくそう言う汚れ仕事は私がやると何度も―――――』

「家族にこんなことはやらせられねぇよ」

 姉ちゃんがスマホの向こうでため息をついているのがわかる。納得はしていなさそうだがとりあえずは報告もした。服にも血が付着しているため部屋の外には出れないがすぐに代わりの服も届くだろう。

『それは置いておくとして、そいつは何か吐いたか?』

「一般人だからな。脅せば簡単に吐いてくれた。まぁ、何回か抵抗はされたけど」

『後で報告書として提出してくれ』

「報告書の型を持ってきてくれたらな」

『そのことだが犯人が始末できたならもうおびき出す必要はない。帰って来てくれ。型は家で渡す』

 姉ちゃんがあまりにも淡白に言うものだからうっかり聞き流してしまう。少しして言葉の意味を把握して言い返そうとしたところですでに電話が切れていることに気づいた。

 なるほど、通りでジャンヌさんが疑問に思うように数日も入院させられたわけだ。俺達は犯人を捕まえるための囮にされたわけだ。

「あんにゃろ可愛い弟を囮にするかね普通。・・・・・いや、この場合囮はジャンヌさんか?」

 様々な考察が頭を飛び交いながら再び杉田の死体を見る。元々始末する予定だったとしてもこいつの後ろにまだ家族を狙うクソがいる。まだ事件はまだ終わらない。コトリバコの被害はなくなるだろうがまた別の問題が出てくるのだろう。

「上等だよ・・・・・。そっちがその気ならこっちも全部まとめてひっくり返してテメェの喉

笛に嚙みついてやる」

 静かにそう呟いて俺は密かにケツイをみなぎらせるのだった。

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異世界に転移した日本で生きるオタクの話 @yamadasmith

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