第3話俺でも良いのか⁈
明くる朝、俺は既に学校の教室で席に着いていた。昨日の事は何だったんだろう。朝には俺の隣について居た机はすでに離されていた。教室は次々と生徒達が入って来ており、賑わいを見せて居た。俺はいつものスタイルいつもの動作をして居た。昨日のアイツはきっと気まぐれだったに違い無い。今日からはきっと、いつもの日常に戻るに違いない。
「おはよう御座います」
あ、彼女が来た。クラスメートが彼女を囲む。彼女の人気は衰えない。初日は物珍しく騒ぎ立てる物だが、次の日には大概落ち着くものだ。けれども、彼女はそんな事にはなっては居ない。むしろ積極的に皆んなが話し掛けている。皆んな彼女と友達になりたがっているのだ。
彼女はまた俺の隣の席に座った。
「おはよう御座います。今日も宜しくお願いします」
彼女は俺に話しかけて来る。挨拶を交わそうとして顔を見ると満面の笑みを浮かべて居た。可愛い。綺麗だ。彼女に挨拶をしようとした時の事だった。
「河村。ちょっと来てくれ」
後ろの方から声が聞こえてきた。豊崎凌雅だった。豊崎とは何の交流も無いが俺に初めて話しかけて来た。無理も無い。目立つ豊崎に目も触れず、俺にエリカは話し掛けて来るのだから面白くも無いのだろう。俺はあろうことか優越感を覚えた。初めての優越感だ。俺は言われるがまま豊崎の元へと行った。
「なあ、お前エリカと知り合いなのか?」
出たわ。そりゃあそうなるよな。何でお前なんだよ。的な。
「いや、知らん」
「知らんてそんな訳ねーだろう。何でお前……?」
分かりやすいリアクション。でも、それは聞きたいのは俺の方だ。
「有り得ねー。嘘だろ〜」
「すいません」
俺は言葉を残すと自分の席に戻った。
「おはよう御座います」
俺はエリカに挨拶した。これは下手に無視するのは特撮では無い。返って、クラスメートを敵に回すだけだ。
「ズズズずずずずっ」
また、席を隣に付けてきた。もう、それも驚いたりしない。授業が始まって居るのにも関わらぬ図、俺の方をちらほら見て居る気がする。出来る限り意識しないにしておこう。思って居たのもつかぬまエリカが俺の腕に消しゴムをちょんちょんと押し付けてきたのだ。ちょっと、むず痒い気がして、思わず腕を引っ込めた。俺は続けてオーバーリアクションをして居た。クラスメートの視線が怖い。
一体何なんだ。コイツのお目当ては……?
「可愛い。うふふ」
ニコッと笑顔で俺に微笑みかけてくるエリカ。やばいコイツ。その後も色々と仕掛けてくる。耳に息を吹き掛けて見せたり、指で突いたりと完全に俺で遊んでいる。恋人同士がこんな物なのかは知らんがそれでも恋人同士なら、可愛い奴と思うかも知れないが完全に俺は違う。オーランドとか言うやつの身代わりと言うか完全なる人違いだ。もう良い加減にやめてくれー。
昼休み
ようやく昼休みになった。これで解放される。エリカだって、流石に女友達の所へ行って昼ごはんを食べるだろう。俺も今日は火曜日だから、パンを売りに来てくれる。購買に行かなければ! そう今は物価が上がり、高校生の購買にまでその波が押し寄せてきて居る。パンが二十円も上がったのだ。ホットドッグとメロンパンにするか。それとも、焼きそばパンとメロンパンにするか?
これは俺にとって、とてつもなく迷う所だ。なんて事を考えていると、
「ランチ一緒に食べよう。結人君の分のお弁当を作って来たよ。私と同じ物だよ」
「えっ、エリカちゃん。河村と一緒に食べるの。そんな奴ほっといて、私達と食べようよ」
「そうだそうだ。ずるいぞ河村。お前だけ良い思いしやがって〜」
と、口々にクラスメートの罵声が響き渡って居た。
「皆んなごめんね」
と、エリカが言うとクラスメートは黙り込んだ。そこまでされると、流石にパンを買いに行く事ができなくなった。なので、俺はエリカが持って来たお弁当を貰った。貰ったお弁当箱を開けて見ると、色とりどりで俺の好きな物ばかりが詰め込まれた弁当だった。ウインナーやらミニバーグ。卵焼きなど、野菜も入って居た。これって愛妻弁当的なやつ。俺は最高超。勘違いさえされて居なければ、こんなに可愛い恋人からの手作り弁当。最高に幸せだな。このまま勘違いされたままでも良い気がしてきた。
「あーんしてあげようか?」
突然のエリカの提供に俺は息を呑み込んだ。
「大丈夫です。一人で食べます」
俺は完全否定した。ただでさえ、エリカと一緒に居るだけで、嫉妬の目で見られると言うのにあーんだと、いやいやいやいやいや無理だわ!
そう思って居ると、目の前でエリカが俺の口元まで卵焼きを突き付けて来て居たのだ。
「はい。アーン」
エリカ…さん。マジでやらせるの。咥えろってか?
ゴクン。俺は息を呑んだ。どうする俺。この修羅場。男なら、きっぱり断るべきか? それとも、彼女に恥をかかせない為にも一気に齧るべきか? こう言う時はどれが正解なんだ。この状況をクラスメートも息を呑んで見守って居るぞ。マジか? ええい。どうとでも慣れ−。
「パクッ」
「おー〜」
クラスメートの反応。
「ウメー」
俺の反応。抵抗する必要有ったのか? 俺、食べさせて貰って優越感。おいし〜もん食って考えてみりゃあー天国じゃん。
「こっちのウインナーも食べたいなー」
俺は口を開けてみると、
「はい。どうぞ」
と、言ってエリカは俺の口にウインナーを運び入れた。クラスメートの視線に慣れ、今のひと時の幸せに浸る事にした。コレ、今日も一緒に帰ろうって言うのかなぁ。まあ、楽しみにして居るか。授業が始まっても俺に色々と仕掛けて来る。エリカ。もはや、何をされても可愛い。俺の顔。にやけて無いか? 恥ずかしいな。ふと、考えてしまった。エリカが見て居るのは俺では無い事を……。
「結人君。どっち。良いよね」
「ハイ」
思わず聞いても居なかった言葉に返事をしてしまった俺。
「嬉しい。ダーリン」
と、言ってエリカは俺に抱きついて来た。わわわわわわわー。何だ何だ。あたふたする俺。
「すげ〜」
「やるじゃん」
「ずりー」
「良かったね」
など、言ってクラスメートの皆んなが俺を囲む。
「しゃーねーなー。俺の完敗だ。負けを認めるよ。上手くやれよ。泣かせるなよ」
と、豊崎凌雅までもが言い寄ってくる始末。
俺何に返事をしてしまったんだ。
「オーランド。いえ、河村結人君。付き合ってくれて有難う。私達又恋人ね❣️」
恋人。へ。俺と付き合う。え〜。
「俺、付き合うに返事したの?」
「今になって否定するの」
エリカが不安そうな顔をする。
「目、滅相もございません」
安堵する顔をするエリカが可愛いと思った。えっ、良いの俺で良いの。俺、オーランドって言う勇者じゃ無いよ。マジで人違いだよ。俺は人違いでも良いけど、違うって気付いてももう遅いぞ。もう、俺のもんだぞ!
俺はエリカに笑顔を見せた。
「エリカって呼ぶぞ」
「嬉しいダーリン」
「エリカ。俺は結人だ。結人としてエリカと付き合う」
「ハイ」
エリカは俺をオーランドだと思って居る。勇者だと思って居るんだ。けど、俺は俺だ。生まれ変わりでも無ければ、転移者でも無い。全くの別人だ。それでも、エリカがオーランドと思って居るのなら、思って貰ってでも良い。俺は完全に否定したんだ。勝手に勘違いしたのはエリカだ。俺のせいじゃない。オーランドと勘違いしたまま好きになって貰っても良い。オーランドの身代わりでも良い。騙したままでも何でも良い。俺は全てを受け入れる。人違いの恋人でも俺はずっと、それを背負って行く。
俺はエリカの彼と言うことでクラスメートの人気者となって居た。勿論エリカあっての事だ。と、してもこんな日が来るなんて夢にも思ってなかった事だ。
俺はずっと、人知れず影の様に目立つ事なく平穏無事んで空気の様に生きて行くつもりだった。エリカと出逢わなければ必ずそうして居ただろう。最初はめんどくさい事に巻き込まれたと思っていたがこれはこれで心地良い。夢ならいつか覚める日が来るかもしれない。けれど、今はこの夢心地でいたい。どうか、この夢覚めないでくださいと祈りたい所だ。
学校にいる時間も終わり、帰る時間となった。
「結人。一緒に帰ろう」
「おう」
エリカと共に帰宅。今だに不可解なのが共通の玄関のドア。入った先は別々の家。まあ良いか。いくら考えても分からん物は分からん?
夜。俺は滅多に開けた事の無い押し入れを開けた。そこにはパジャマ姿のエリカが横になって居た。俺は慌てて押し入れを閉めた。
完
それでも女かグイグイ来るな人違いだ。 木天蓼愛希 @amniimnyann
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます