第2話そいつは誰だ。

 顔を見上げた俺は信じられ無い光景に自分の目を疑った。可愛い女の子が転校生が俺に声を掛けて来た。いや、嘘だろう。あり得ねーし。頭の中がぐちゃぐちゃだ。俺に話しかけて居るのか?マジで?


 気付けば、クラス中の視線が俺に集まって居た。男子達の嫉妬の目。女子達の不審な目。どう言うことだー。何がどうしてこうなった。


「隣に座るね」


 彼女は言うと俺の隣の席に座った。俺の方を見て居る。なんか気まずい。なんか喋った方がいいのか?


「どうぞ宜しく」


 俺から出た言葉か。もっと、気の利いた言葉があった筈だ。それがこんな言葉しか出て来ないのか。少なくとも彼女は俺に話しかけて来た。ここは間違い無い。どう言った意図があるかは分からないが少なくとも彼女の意思で俺の隣に来て、俺に話しかけて来たのは間違い無いのだ。


「ギギいー。ガタン。ドスンッ」


 彼女は俺の隣に座った。騒つくクラスメート。


「先生。私、まだ、教科書が届いて居ません」


「おお、そうか。隣の席の人に見せて貰いなさい」


「ハイ」


 彼女はそう言うと机をずらし始めて来た。どっ、どうなって居るんだ。俺の方へ机をずらし始めて居るぞ。いやいやいやいやいやいや。そんな馬鹿な‼︎

 彼女は俺の机にピタリと机を横付けに合わせたのだ。何だよこれ。コレじゃあまるで公認カップルの様じゃ無いか?


 顔を上げられない。なんか恥ずかしい。クラスの嫉妬心が俺を葬ろうとして居る。そんな気しかしない。何で俺ー。隣には女子だって座って居るじゃ無いか。何で俺の席に来た。誤解招くだろう。何で俺〜ー?


 なんて事を思って居ると、彼女の身体ごと彼女の頭が寄って来た。髪の毛からいい匂いが俺の鼻を擽ぐる。良い匂いだ。じゃない。そうじゃなくて、俺。しっかりしろ。


「一緒に見せて下さいね」


「いいけど」


 いいけどって何だ俺。何言ってんだ。俺は。俺断れよ。俺。こう言う時は普通どうするんだ。普通が分からねー。こんなシチュエーションは普通ねーし。第一こんな事は妄想以外絶対無いことだ。正直言って妄想なら何度も何度も思った事はある。モブハーレム世界だ。しかし、妄想はいいが現実に起きたら、対処出来るか俺に〜ー。


 俺は教科書をそっと、スライドさせて彼女と俺の中間位に教科書を置いた。開いて居る教科書を境に俺たちの位置は離れて居る。とは言え、近い。近過ぎる。女の子とこんなに近い位置に並ぶのは初めてだ。息遣いまで聞こえて来そうな近さだ。俺はこんなにも近過ぎて恥ずかしいと思うのに彼女は何とも思わないのか?


「有難う」


「どういたしまして」


 俺は片言の言葉しか出て来ない。この空気感とても重い。俺はノートに没頭した。ホワイトボードに書いてある字を書いて書いて、書きまくった。時間稼ぎだ。そうこうして居るうちにチャイムが鳴った。


「キーンコーンカーンコーン」


 やっと解放された。随分と大胆な真似に出てくれたもんだ。安堵する俺。


「有難う御座いました。また、お願いします」


「いいけど、俺の借りるより、隣に女子いるじゃん。その子に借りた方がいいんじゃないの。男から借りるより、その方が変な誤解されなくて良いだろうに……」


「名前は何て言うんですか?」


「な、名前。俺の名前聞いてんの?」


 イヤイヤ。もしかして話はぐらかされた。嘘だろう。俺なんかの名前聞いてどうするんだ。


「俺の名前は河村結人。結ぶに人と書いて結人。宜しく」


 聞かれたんで思わず答えてしまったのだけれど、名前なんか聞いてどうすんだ。


「エリカさーん。宜しくねー」


 忽ちエリカの周りには女子達が集まって来て、男子達はとうまきにそれを眺めて居た。エリカの所に女子が集まって来たと言う事は俺の周りにも女子達が集まって来たとも言える。側から見ればハーレム状態。周りを囲まれて俺も出るに出られない状況。俺は机に突っ伏して、出来るだけ存在を消して居た。ああもうなる様になれー。


 チャイムが鳴ると、また授業が始まった。


「ふー」


 エリカが俺の耳に息を吹き掛けてきた。俺はゾクっとして、ムワッと言う気分になった。俺の耳と顔はみるみる真っ赤になって行った。


「何してるんですか?」


 俺は小声で抗議した。


「感じちゃったの。可愛い」


「揶揄わないでくださいよ」


「そっちが悪いのよ。釣れなくするから、恋人なのに思い出せない」


「恋人……?」


「何よ。忘れちゃったとでも言うつもり」


「いやいや。俺はこんな可愛い子と会った事がないし、俺達今日初めて会ったじゃん」


「シラを切るつもりなのね。そっちがその気なら、良いわよ。思い出させてあげる」


「待て、待ってくれ。その恋人って、そんなに俺に似てるの」


「バカなこと言わないで、カッコ良くて、強くて、優しくて、顔も良いし、何てったって、勇者よ。何もかも完璧な人よ」


 何か俺を完全否定された気がする。非常に傷付けられた気しかしない。落ち込む。


「なら、何で俺⁇」


「だって、オーランドは言ってたじゃ無い。今度生まれ変わったら、普通の人に生まれ変わりたいって、ダサくても何でも君を穏やかに見守って居られる人になりたい。立ち位置にいたいって言って居たじゃ無いの。もう勇者は疲れたって、君だけを守っていたいってそう言ってくれたじゃ無い」


 オーランドって誰。勇者だって、知らねーし。俺じゃない。俺が元勇者だって、あり得ないから漫画じゃ有るまいし、あり得ない。完全に人違いだ。


「悪いけど、俺じゃ無い。人違いだ」


「オーランド。本当に忘れちゃったの。私の事」


 肩を落とすエリカ。可哀想だけど、嘘を付くわけにも騙す訳にも行かない。元々俺に勇者の生まれ変わりなんて物が務まるはずが無い。


「うん。分かった。本当に忘れちゃった観たいね。良いよ。少しずつでも思い出してくれれば」


「いやいや、本当に違うんだって、代わりになってやる事は出来ないよ」


「もう、良いわよ。私は貴方を振り向かせるから」


 どうすれば良いんだ。俺にとっては美味しい話。だけど、このまま受け入れる訳には行かないだろう。人違いなのだから。


「ねえねえ、ここ教えて」


 彼女はシャーペンを俺の指に押し付けて、スリスリして来た。うっ。マジか。俺はチャイムが鳴るまで何もなかった様な顔をして過ごした。学校の時間も終わり、帰り道の事だった。


「河村結人君。一緒に帰ろう」


「えっ。方向一緒だったっけ」


「うん。一緒だよ」


「ふーん。そうなんだ」


 何処だって言うんだ。帰る方向まで一緒だって、ここまで来ると流石に可笑しいだろう。それがそうならこえーわ。何処まで着いてくる気なんだ。まあ良いさ。それで彼女の気が済むのなら、来たけりゃくれば良いさ。俺に興味持つなんてどうかしてるけどね。


 しかし、何処まで着いて来るつもりなんだ。俺ン家に着いてしまうぞ。いい加減に帰ればいいのに……?


 やれやれ、俺ん家に着いちまったぞ。ここまで着いてくるとは思わなかったよ。


「じゃあ。ここで。ここ俺ん家だから、行くわ。さよなら」


 俺は言うと、玄関の前までやって来た。後ろから、彼女の足跡。


「あら、奇遇ね。私もここが家なんだ」


「はっ。いやいやいやいや。言ってる意味がわからんし、ここ俺ん家だから。いくら何でも図々しく無いか。それでも女か。初日で男ん家に来るとか無いな」


「残念だけど、私ん家もココなのよ。じゃあ。お先にね」


 と、言うとエリカは俺ん家の玄関のドアを握り締めた。


「私ん家はココとは並行世界の家よ」


 と、言って玄関の中へと入って行った。


「何を馬鹿な事を……?」


 俺は玄関の中へ入るとそこにはエリカの姿は何処にも無かった。

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