それでも女かグイグイ来るな人違いだ。

木天蓼愛希

第1話俺は違う。人違いだ。

 最後の闘い。勇者であるオーランドは最後の闘いである最強獣との闘いに勝利した。しかし、その勝利を味わう間も無く、飛び散ったかけらの一つが空を切り裂き、ブラックホールを作り出した。眩い程の光が閃光を放ち、その中のブラックホールがオーランドの身体を吸い込んで行く。


「エリカ…‥‥……………………………………………」


 オーランドは結婚を誓った恋人のエリカの名前を渾身の力で叫んだ。だが、それも束の間、オーランドの身体はブラックホールの闇の中へと引き摺り込まれ、消えて行った。


「オーランド。今私もまいります。貴方の元へ必ず辿り着きます」


 エリカはオーランドの後を追い、オーランドの吸い込まれて行ったブラックホールの中へと何の迷いも無く入って行った。エリカもまた、ブラックホールの餌食となり、消えて行った。ブラックホールは閉じ、何事も無かった様にその世界は平和を取り戻して行った。




 とある庭先の空き地、それは起きた。


「ドスンッ」


「イタタタタタタ」


「あーもうここは何処なの。オーランド。オーランドは何処なの。何処にいるの」


 エリカはこの地球。日本と言う国に舞い降りて来たのである。





「何だ。今の音。凄い音がしたなー。何処から聞こえて来たんだ」


 俺、河村結人かわむらゆいとは北見鶯高等学校に通って居る二年生。俺は何処にでも居るごく普通の高校生。よりも、もっと影の薄い目立たない男だ。いわゆるモブに属して居る。勇者の様に勇ましく、カッコ良く有りたい所だが、実際の自分は臆病で、気も小さい一人が似合うモテない系の男なのだ。


 俺は自宅から外へ飛び出し、音のする方へ駆け寄って行った。しかし、それらしき物が無い。人も居ない。何の音だったのだろう……? 

 俺は気のせいだと言う事にしてその場を後にした。そうだ学校へ行く時間が来た。いつもの様に目立たぬ生活をして、平穏無事んな毎日を送ろう。それが唯一のモブキャラの役割だ。そうしよう。今日もモブ学生の役割を果たそう。学校へ行こう。



     学校教室


 窓より、後ろから三番目の席、これが俺の座る席。こう言う場合大概一番後ろの席には目立つ奴が座る席。なので、モブは目立たない。ベストな場所なのだ。俺は皆んなの視界から、ズレるからだ。なんて良い席だ。人との交流の苦手な俺にはピッタリなモブ席をゲットしている。


「ガラガラガラガラ…‥…………………………………」


 教室の扉が開く音がする。担任の平塚先生がいつもの様に挨拶をしながら教室の中に入って来る。これもいつもの事だ。そして、俺は俺のスタイルは頭を三十度下に傾け、目線は机を見る。姿勢は猫背だ。服は高校の制服を着ており白の靴下に白の上履きを履いて居る。これが俺のいつものスタイルだ。


「誰。可愛い。綺麗」


「ちょー美人。うれっシー」


「転校生。可愛すぎる」


「お付き合いしたいっす」


「友達になりたい」


 など、いつもと違うどよめきがそこにはあった。


「ガラガラガラガラガラガラ………………………………」


 いつもの様に平塚先生のドアを閉める音がする。これもいつもと同じだが、歩く音は二人分だ。下を向き、机ばかり見て居る俺でも流石に転校生が来ただろう事は分かる。しかもとびきりの別嬪さんだと言う事も皆んなの言葉、態度でそれを見なくとも分かるのだ。どれ位の美人さんなのか見てみたい思いは存分にあるが、堪能する事はいつでも出来る。真正面から堂々彼女を見るのは気が引けてならない。所詮俺には縁の無い、交わる事もない世界の人間らしい。俺と転校生では釣り合いが取れそうも無いからだ。一緒の空間には居てはならないと言うことだ。そんな事をすれば直ぐに弾かれてしまうと思うからだ。


「おはよう御座います」


平塚先生は生徒達に挨拶をすると転校生を呼び寄せる。


「おはよう御座います」


 生徒達も皆口々に挨拶をする。生徒達は挨拶をするがそのどよめきからしても新しい転校生に興味津々な様で釘付けになって居る様だ。早く紹介しろの雨、槍が今にも降って来そうな程のどよめきが続いて居た。


「皆さんに新しい生徒。転校生を紹介しよう。坂田エリカさんだ。皆んな、仲良くしてやってくれ」


 平塚先生は紹介すると直ぐにホワイトボードに何やら転校生の名前を書き込んでいる様だ。微かだが、マジックで書いて居るだろうキュッキュッと言う音が聞こえて来る。


「坂田さん。皆さんに自己紹介をして下さい」


 平塚先生は転校生の自己紹介するのを待つ。生徒達は静まり返り、彼女の言葉を待った。


「皆さん。おはよう御座います。坂田エリカです。どうぞ宜しくお願いします」


 と、坂田エリカと名乗る転校生は生徒達に挨拶をしたのだ。その声は綺麗で可愛らしい声だった。直ぐ様顔を見てみたい。そう言った欲に駆られる、男心をくすぐる様な声だった。


「こちらこそ宜しくねー。坂田さん」


 生徒の一人が言葉を交わすと、次から次へと絶える事なく、生徒達の言葉が坂田エリカに向けられて言った。


「エリカちゃん。可愛い。友達になって」


「どっから来たのー」


「恋人はいるの〜」


 坂田エリカは一気にクラスの人気者になった。俺はと言えば、今だにまだ顔をあげて居ない。いつものパターンは先生が話し始めると一度だけ先生の顔をチラ見するだけだ。後は顔を上げるとすれば、書写しをする時だけだ。それがいつもの俺のパターンだ。そして、何事も無く一日が終わるのだ。しかし、今日は何かがおかしい。とても嫌な違和感がする。何かこう見られている気がする。突き刺さる視線を感じるのだ。変だ。本来なら、転校生の方に視線が集まる筈だ。


 気のせいか。いやそんな事はない。いつに無い圧力を感じる。今までに感じた事の無い感覚だ。これが気のせいな筈は無い。俺はその違和感に視線に少し、顔を上げて見る。すると、やはり、こちらを見て居る様だった。俺は生徒達の口元が見える位に頭を上げて居た。皆んなの口元の方向からしても俺の方を見て居る。これはどう言うことだ。俺は何だか恥ずかしくなって行った。


 そんなこんなで少し動揺して居る俺だが、一際前方から、視線を感じる。何だ。この視線はとても熱い視線を感じる。俺は恐る恐る視線を感じる方へと顔を向けて行き、視線を上げて行った。前方に居る転校生だった。俺の目は釘付けになった。ブロンズの髪の色カールして居る長髪な髪型。顔も鮮麗されて居て、スタイルも良い。まるでお人形さんの様で綺麗で可愛かった。俺はしばらく、そこから、視線を外す事は出来なかった。誰が見てもあの顔は惚れる。それ程までに整った顔立ちだった。


 待てよ。転校生に目を奪われて居る場合では無い。目が合った。俺は急に恥ずかしくなって来た。転校生から目を逸らし、また、机を見る。転校生とは、目が合った。これは事実だ。スクリーンとは違い。目が合ったと言う事は相手も自分を見たという事だ。転校生は俺を見てどう映ったのだろうと過剰意識してしまう自分がいたのだ。


「坂田さんの席だが、後ろの空いて居る席に座ってもらう事にしよう」


 担任の平塚先生が後ろの空いて居る席を勧めたところ、


「私はあの子の隣が良い。そこが落ち着きます」


 と、転校生が主張したのだ。はっきりした子だ。俺はそう思った。


「そうか。うん。分かった坂田がそうしたいんなら、それで良い。変わってもらってそこに座っていいぞ。さあ席に着きなさい」


 平塚先生はそう言うと、転校生を席に付くよう促した。


「はい。有難う御座います」


 転校生はそう言うと席に向かって歩き始めた。少なくとも俺は少し安心した。前方から、転校生の姿が消えるからだ。間違って前方に顔を上げてしまったとしても、ノートに書き写す時も前方に転校生の彼女の姿を見なくても良い。ドキドキしたり、意識する事もない。後ろの方で彼女がチヤホヤされようと俺には関係無い。俺には害の無い平穏な日々に戻るだけだ。とは言え、少し位は良いだろう。クラスにアイドルが居る。ウキウキした気持ちになる。その位の事が起きても良いだろう。些細な楽しみは味わいたい。所で誰の隣に座りたいと言ったんだろう。ちなみに俺の方に向かって来ている気がする。いやそんな事は無いだろう。有り得ない。そうか、一番後ろ。後ろの席には人気者の豊崎凌雅が座っている。納得だ。彼なら唯一お似合いだ。


 所が俺の席の隣で彼女は止まった。


「ねえ、ここの席空けてくれない」


 と、俺の席の隣の子に話しかけた。


「ハイ」


 隣の席の子はすんなり、席を空け席を譲った。その子は後ろの空いた席に向かって行った。そして、その席に転校生の女の子が席に腰を掛けた。

 どう言うことだ。意味が分からない。何で俺の席の隣に座ったんだ⁇


「坂田エリカです。どうぞ宜しくお願いします」


 彼女は俺に話しかけて来た。俺は思わず固まった。





 



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