第2話 亜人との出会い

 大陸暦2016年、ヴェリオン地方の開拓と工業地帯整備が進められていた頃、進一は既に北や東の遊牧民国家や亜人族国家と接触を行っていた。


「フランキア王国は表向きでは、創世教の教えに従って亜人の排斥政策を行っているが、実際のところ、全てのフランキア人が実践している訳ではない」


 河口に面したある漁村、その一角にある建物の中で、進一はそう言う。彼の言葉に頷くのは、数人の半魚人たち。


 キリア川の河口に面する漁村には、フランキア王国の貴族や富農と商取引を行なって生計を立てている亜人族が暮らしており、その大半は半魚人ながら、僅かにエルフやドワーフも暮らしている。


 王国北部や東部に領地を持つ貴族や、開拓事業に従事している富農が、海産物や珍しい産物を得るために、敵対関係にある筈の者たちと交流している事を知った進一は、その貴族や富農に賄賂を渡し、接触を開始。こうして会談の機会を得るに至っていた。


「我らはお前たちとの争いで多くを学んだ。武器を手に殺し合うだけでは失うばかりであるし、ヒト族でも我らとの争いを好まない者は多い事もだ」


「ええ。私はあくまでフランキア王国の発展に寄与するために働いていますが、今の体制と考え方でさらに発展する事は無理だとも考えております。創世教は確かに多くのヒト族を纏め上げておりますが、教義の解釈等で国内の聖職者は対立を始めており、さらに敵を増やすばかりな考え方であるため、何かしら変わろうとしなければ、内紛で崩壊するのは明らかでしょう」


 そもそもこの世界で、ヒト族以外の種族を皆殺しにしてヒト族だけの世界を作り上げようなど、無理難題もいいところである。世界は拡大を続ける限り複数の国・地域と遭遇するのは必然であり、他の思想や文化と如何様に共存するのかが課題となろう。


「そして私は、新たな成果を得なければなりません。ご存じの通り、我が国には海が無い。もし海をもたらす事が出来れば、私の名声はさらに高まる。そして貴方がたを秘密裏に庇えるだけの権力をも得られる」


「その快挙を達成するために、我らに協力を求めるか…中々に欲深い事だ」


「フランキアでは、その方向で欲深く無いと生き残れないので。ですが、いずれこの地は貴方がたに戻る事になるでしょう」


 この後、進一は国土拡大の成果を上げたとして、政府より多額の報奨金と叙勲を受ける。そして社会的な名声を得た彼は、独自に産業研究所をヴェリオン地方の開発都市ドレーサーに設置し、科学技術の普及に努める事となった。

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グロバリジア共和国物語 広瀬妟子 @hm80

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