003
夜22時ぐらいだっただろうか。
今日私は彼氏とのドライブを楽しんでいた。その帰り道。
窓は少し開いており、入ってくる風が気持ちがいい。夜の空気が私は好きだった。
「今日は楽しかったよショウ君。ありがとうね」
運転をしているショウ君の横顔を見て言った。運転している姿もかっこいい…この時間がいつまでも続けばいいのに。
「楽しんで貰えてよかった」
ショウ君はチラッと私を見て言った。
静寂。
さっきまでは話が弾んでいたのになんだか気まずい。心なしかショウ君がそわそわしているような気がする。
「ねぇ
ショウ君が小さな声でそう言った。そうかそれが言いたくてそわそわしてたのか。なんだか可愛い。でも今日は無理かな…見たいドラマあるし。
「誘ってくれて嬉しいけどごめん…今日は無理かな…来週なら土日暇だよ!ダメ?」
「本当に?じゃあ土曜日。何時にしようか?お昼待ち合わせにする?」
「うん!いいよ!お昼か…11時にいつものところに迎えに来て!」
嬉しい!初めてのお泊まりだ!彼氏の家に行ったことないから楽しみ!思わずニヤニヤしてしまう
「土曜日の11時ね了解」
彼氏はまだそわそわしていた。
なんで?それが言いたかったんじゃないの?まだ他に言いたいことがあるのかな。
「なんかあまり喜んでないね?何か言いたいことがあるの?ショウ君?」
私は思いきって聞いてみた。
だがショウ君は無言だ。どうしたんだろうか?
すると突然、ショウ君が車を路肩に停車させた。
「どうしたの?何かあった?なんで止めたの?」
道には車もいなければ人も歩いていない。街灯もなかった。なんだか不気味な場所…。
ショウ君と目が合う。なに、どうしたの?
「美咲さ…俺のこと好き?俺は好きだよ…付き合ってもうすぐ6ヶ月になるよね?」
え…。突然…こんな場所でこの質問?
「も…もちろん好きだよ。どうしたの?なんだか変だよ?」
「もうそろそろさ、いいんじゃないかなと思って」
ショウ君はそう言い、辺りを見回した。
「いいって?何が?」
それだけじゃ分からないよ。車をこんな場所に止めた意味は何?明かりのある場所に行きたい。お化けが出そうで怖い。
「分からない?美咲って本当に可愛いよね。…聞きづらいけど…男とエッチしたことある?」
「えっ…」
頭が真っ白になった。何て言った?
エッチ…?そんなこと考えたことない…。でもこの人とならありなのか…?
「した…ことないよ…」
「やっぱりね。美咲……好きだよ。服の上からでもいいから触らせて?」
前言撤回、なんだか気持ち悪い!!気持ち悪い?ショウ君が?これはショウ君なの?ダメダメダメ、嫌だ!無理!
「こ、ここでは無理かな…。車の中は絶対、無理…来週!泊まる時にしよ!」
来週も嫌だけどこの場を乗りきるには仕方ない。なんでもいいから断らないと!
「大丈夫だよ。誰も通らないし、見られたとしても暗いから分からないよ。優しくするから…お願い、美咲…」
ショウ君は小さな声でそう言い、私の手を優しく握ってきた。私はそれを振り払うことができなかった。どうしたらいいのか頭が混乱してる…。
この場から逃げたくても逃げられない…。
触らせるだけなら…大丈夫なのだろうか?どこを触られるのだろうか?
無言で私たちは見つめ合う。手が震える。断らないといけない。私はこの人とは出来ない。お母さん…助けて。
ガチャッと突然運転席のドアが開いた。
開いた?
「なんだよ、開いてんじゃん!!」
「閉まってない!やったね!」
ドアの向こうには見知らぬ男が4人見える。
「なん…なんなんですか!?人のくるっドア開けないでくださいよ!警察呼びますよ!!」
ショウ君の声…。
なになに?なんなの?
頭が混乱する。私は口をパクパクさせた。鼓動が早くなる。
「警察?呼べば?呼びなよ、今すぐ!」
男は笑いながらショウ君の腕を掴み車から引きずり出した。
うわっとショウ君は小さな悲鳴を上げた
「車の鍵閉めなきゃダメって教わらなかった?」「女の子と車の中で何してたの?」
「俺らが指導してあげるよ!」
男達はそう言い、ショウ君の顔面を蹴り上げた
ガンッと頭が車の側面に当たった音がした。
私はその光景をただ眺めることしか出来ない。
声がでない。体が震える。
ガチャと私が座っているほうのドアが開いた。
冷めた表情の男と目が合う
「ちょっと外出ようか」
男はそう言い私の腕を引っ張った。私は抵抗できずあっさりと外に出された。
男は私をショウ君がいる所に引っ張っていく。
ショウ君と目が合う。ショウ君は鼻から下が血だらけだった。鼻血だろうか。体が震えていた。
…ショウ君助けてよ…私のこと好きなんでしょ…助けて何とかして…
「じゃあ連れていきますか!」
2人の男はショウ君を立たせた。
「待て、そこの公園でいいよ。公園の滑り台の前でやらせようか…」
私の腕を掴んでいる冷めた表情の男が言った。
「公園!いいね!女の子可愛いし、またバズるかも…行こ行こ!」
…
「すみません私が話せるのはここまでです。あとは想像できますよね…?」
目の前のこの女は田中 美咲。
歳は24歳らしい。
彼女はコーヒーカップを見つめている。
最悪な話だ。
おそらく田中さんは公園で強姦されたのだろう。4人の男に囲まれて、そのショウ君と…
「ひどい…。警察には…もう連絡されましたか?」
私はなんて声をかけていいか分からずそう質問した。
ずっと私と目を合わせなかった田中さんが私を見た。驚いた表情をしていた。
「警察なんてとんでもない!駄目です!そんなことしたらあの動画がアップされちゃうんです!」
「脅迫されているんですか」
「あいつらは私の家も知っています!言えません…家族にも…こんな話してないんです。黙ってるんです…私…どうしたらいいんですか…もう死のうか悩んでるんです…」
目に涙をためていた。
田中さんは下を向いてしまった。泣いている。両手で顔を覆う 。
私はそっと田中さんの隣に座り、その体を抱き締めてあげた。今日初めて会った人間にやることではないと思ったが…そうすることしか思い付かなかった。
「私…家の…住所を教えてしまったんです…家族が住んでいるのに…。教えろって…そうしないと動画をばらまくからって…私はその場しのぎで教えちゃったんです…最低…死にたい…私はもう…無理…」
田中さんは泣きじゃくっている。
「田中さんは悪くないです。悪いのはあの4人組です…」
私はどうすればいいんだろう…。この人の為に何が出きるんだろうか…放っておいたらすぐにでも死んでしまいそうで怖い…。でも何も思い付かない…。どうして私はこんなに頭が悪いんだろう?自分に腹が立つ…。私ができることは何一つないのに…どうしてこの人は私に相談してきたんだろう…。
「あれ…
神の声が聞こえた。
私ははっと声のするほうに顔を向ける。
そこには
…
私は田中さんに許可を貰い蘭に田中さんの身に起こった出来事を話した。
田中さんはもう聞きたくないと言うようにずっと下を向いて顔を両手で覆うっていた。
きっとこんな話を目の前でされるのも嫌なはずだ。私は今さら気がつき自分の無遠慮さに嫌気が差した。
「そんなことが…。…田中さんはどうしたいの?そいつらに動画を消して欲しいの?それとも復讐?」
蘭はそう言い田中さんの方をみる。私は復讐と言う言葉を聞いて蘭と田中さんを交互に見た。
田中さんの顔が少し上がる。
「消して欲しいです……。私…その…こんなこと言っていいのか分からないけど…」
「正直に言っていいよ。言っておくけど今頃その男4人は下品に笑いながら日常を楽しく過ごしてるよ」
蘭が優しい口調で言った。
私には復讐をほのめかしているように聞こえた。確かにこのまま、あの男4人を警察にも報告せずにいるのはおかしい…というかヤバイことだ。他にも犠牲者が出る。でも動画を消させる、復讐するにはどうしたらいいの?復讐なんて怖いことをどうやってやるの?この子が復讐をするの?
「私は…あいつらを許せないです…私をあんな目に合わせたあいつらを…放って置けば家族だって危ない…正直に言えば殺してやりたいです…。でも…どうしたらいいか分からないんです。どうしたらいいんですか?この先私が安心して暮らしていくにはどうしたらいいんですか?」
田中さんが前を向き蘭と目を合わせる。
殺してやりたいと聞いて私はゾクリとした…。でもそんなことを思っていいくらいのことをあの男達はやったのだ。当然だ。でも本気で殺したら取り返しのつかないことになる…。
「全部俺に任せてくれればいいよ。あいつらの連絡先とか分からないよね…。あいつらに会った場所なら覚えてる?」
任せてくれればいいよって蘭は何をする気なんの?代わりに復讐するの?そんな危ないことを蘭が?
「1人のLINEなら分かります!…あの…動画を私に送りつけてきたから…!五反田という名前の男です!」
田中さんがいつの間にか泣き止んでいた。目に光が宿っている。
「何とかしてくれるんですか?」
「何とかするよ。さすがに殺すまでは出来ないけどね」
…
私は斜め下を見ながらとぼとぼと自分の家に向かっていった。足が重い…。
蘭のことで頭がいっぱいだ。
何とかするって何をするつもりなのだろうか?聞いてみても小夜子には言えないよと言われた。彼なりの優しさなのだろうか?私を関わらせないようにしてくれているのだろうか?
蘭が心配だ。相手は4人でしょ?どうするの?どうやるの?蘭が死んじゃったらどうしよう…。
考えても解決しないことを私は長い時間悩んでしまっていた。
そして、自分が近坂 蘭という男のことをほんの少ししか知らないことに気がついた。
この女 姿形。 @sugata48
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