第11話 帰省

「ふぁぁぁぁ」

「んぅ~?」

「悪い、起こしたか?」

「ん~?」

「寝ぼけてるのか」

「起きたよ~」

「おはよ」

「うん、おはよ」


俺と美緒が同棲を始めて1週間ほど経った。

慣れというのは非常に怖い。

こんな高級な家で寝泊まりしてるはずなのに、日常になってきてる。

そして、当たり前のように美緒と共に寝ている。


「今日は何かしたいことあるのか?」

「ん~、無いかな」

「そうか」

「うん」


今日は土曜日で学校は休みだ。


「じゃあ家でゆっくりするか?」

「そうする」

「分かった」


はっきり言って俺はアウトドアというよりはインドア派だ。

そして美緒もインドア派だった。


「にしても何するかなぁ」

「そうだね」


2人揃ってベッドで横になったままボーっとしていた。

このベッドも美緒が俺と一緒に寝るためにキングサイズのベッドを購入していた。


「はむっ」

「っ!!また急に噛みつきやがって」


美緒は、当たり前のように吸血をする。

もうこの吸血にも慣れてきた。


ブーブー…


「電話だ」

「みたいだね」

「俺のか?」

「だと思うよ。私は、親とメイドとダーリンしか電話してくる相手いないから」

「そうか」


まあ俺も大して変わらんけど。


「さて誰からかな…って母さん?」


スマホの画面に映っていたのは母さんの名前だった。

母さんから連絡は度々来ていた。

まあ当然だろう。

息子が1週間近く帰ってないのだからな、心配もするのは必然だ。

その度に返信をしているが、電話は今回が初めてだ。


「もしもし?」

『もしもし、久しぶりね』

「そうだな。それでどうしたんだ?」

『いや、そろそろあんたの彼女の顔を見ておきたいから』

「あぁ、確かにな。ちょっと待って…。美緒、母さんが会いたいって言ってるけど、どうする?」

「そうね、ご挨拶したいからお邪魔しようかな」

「分かった…。ってことでOKだから」

『そう、それならいつ来れそう?』

「んー別に今日でも良いぞ」

『じゃあ今日おいで』

「あいよ」

『じゃまた』


電話を切り、美緒に伝えるとするか。


「美緒、今日俺の家に行くぞ」

「うん!」


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


なんか俺の家のはずなのに、久々だな。

一週間は帰ってないとはいえ、かなり昔のように思えた。


ピンポーン

…ガチャ


「久しぶりね礼」

「そうだな母さん」


家から出迎えてくれたのは俺の母さん、黒神沙紀だった。


「はじめまして、白神美緒と申します。礼さんとお付き合いさせて頂いてます」

「ご丁寧にありがとうございます。礼の母の黒神沙紀です。立ち話も何ですから上がってください」

「はい、お邪魔します」


母さん、その人俺と同い年だから。

確かに初対面だから失礼のないようにするものだろうけど、そんな敬語になる?


「ダーリン?」

「ああ、悪い。ほら上がって良いぞ」

「うん、お邪魔するね」


美緒を引き連れ、リビングへと向かう。

このリビングに向かうこの廊下も懐かしい。

俺が住んでいたこの家は家族向けのマンションだ。

美緒が持っているマンションとは違うが、心地よさを感じる。


「ここがリビングだから」

「うん」

「…まさか緊張してるのか?」

「だってダーリンのお母様に挨拶と考えると緊張しちゃって」

「俺を自分の母親に突然会わせておいて何を言っているんだ」


マジで何を今更緊張してんだ。

俺なんて吸血鬼を前にしてたんだぞ…。


「2人とも席についてて良いよ」

「俺もか?」

「当たり前じゃない。あんたが紹介しなさい」

「はいはい」


それもそうか。

面倒だけど、避けては通れないもんな。


「美緒、座っていいぞ」

「し、失礼します」


マジで緊張してやがる…。


「紅茶で良かったかしら?」

「うん」

「はい、ありがとうございます」


母さんも席に着き、いよいよ話し合いが始まるなぁ。

父さんは、今日も仕事なのだろう、家には母さんだけだった。


「じゃあ紹介するよ。この子が俺の彼女の白神美緒だ。そしてこの人が俺の母さんの黒神沙紀ね」

「よろしくおねがいします」

「よろしくね」


俺が紹介しないと話が進まないのだろう。

仕方ない。

俺がこの場の潤滑油になってやろうではないか。


「えっと、それで俺は今彼女の家で生活してる」

「そうみたいね」

「まあ楽しく暮らしてるよ」

「莉緒さんからある程度の事は聞いたわ。美緒さんのこともね」

「そうだったんだ」

「にしても、あんたどうやってこんな可愛い子を射止めたの?」

「俺も分からん」

「はぁ?」

「そこはほら、美緒が説明してくれるかな?」

「うん」


…待てよ。

美緒が俺の好きな所を話すって事は、どこまで話すつもりだ。

盗撮の事は言わないとしても、血を吸ってるとか主従関係とか言わないよね…?


「彼の事は、一目惚れでした。白夜高校に入学してすぐのことでした。彼が教室を入って来た瞬間、私は彼に夢中でした。それからはずっと彼の姿を目で追う日々で、彼と話すととてもドキドキします。私はこの容姿から入学当初はよく話しかけてくる人が多かったのですが、彼は必要最低限の会話しかしませんでした。後に、私が素っ気無い態度をとってたせいで、みんな話しかける事はなくなりました。でも、彼だけは何も変わらず、移動教室や授業の事で分からないところがあったら、彼が教えてくれたんです。その事もあって、もっと彼の事が好きになって私から告白しました」


ふむ。

美緒が俺の事を好きになってくれた経緯を始めて聞いた気がするが、何点か気になる事があった。

まず、一つ目。

必要最低限の会話しかしなかったのは、俺があまり女子と話すのに慣れていないからだ。

それもあって俺はクール系だと思われているらしい。

まあ神門情報なのだが。

そして、二つ目。

移動教室や授業の事で分からないところがあったところを教えたとか言ってるが俺は美緒にそんな事をした覚えがない。

俺が忘れてるだけか?

んー。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「黒神」

「えっと神門だっけ」

「おう、そうだ。同じ神がつく苗字同士仲良くしようぜ」

「そこは隣の席ってことで仲良くしたいとこなんだが」


入学式の3日後。

授業のオリエンテーションが行われていた。

そして次の授業は移動教室だった。

書道と音楽が選択で行われる。

それで、俺と神門は書道を選択していた。


「というか書道室ってどこか分かる?」

「俺が知る訳ないだろ。誰かについて行くしかないだろ」

「その手があったか」

「まあ誰が書道選択か知らんけどな」

「そうなるよなぁ」


悩んでも仕方ないか…。


「よし、あのいかにも文学少女って人について行くぞ」

「黒神、お前マジか」

「勘だ。音楽室が何階かも分からないし、書道室も何階にあるか分からない。下手したら遅刻するかもな」

「正気じゃねぇ」

「じゃあどうする?神門、お前聞けるか?書道室ってどこですかって」

「無理だ」

「だろ?」

「ああ」


こうして俺たちは一か八かの賭けをすることとなる。




結果、惨敗。


「音楽室だったな」

「ああ」

「どうする黒神。俺たちに残された手はもう無いぞ」

「…仕方ない」

「まさかお前、やるのか?」

「やるしかないだろ」

「マジかよ」


そう、俺は決めた。

もうこれしか無い。

最終手段だ。


「あの、すみません。書道室ってどこか分かります?」


近くにいた先輩であろう人に話しかけた。


「ん?ああ一年生か。書道室なら北棟の2階にあるよ。そこの階段を下りて左に曲がると行けるよ」

「ありがとうございます!!」

「うん、授業頑張って」

「はい!」


これでミッションコンプリートだ。


「黒神、俺はお前を尊敬する」

「ああ、もう俺は役目を終えた」

「お前の事は一生忘れない」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


移動教室の件ってこれか?

だけど、あの時一緒に居たのは神門だったし…。

ってあれ、待てよ。

あの時、書道室に向かう途中、美緒の姿が視界に入ってはいたが…。

まさか、俺たちについて来てたのか?


「それでですね、彼の事は私は愛してます。彼を私にください」

「…分かったわ。礼の事をよろしく頼みます」

「はい!!必ず私が彼を幸せにします!!」


俺が記憶を辿ってる間に、話が進んでる!?

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貴方の全てを食らい尽くしたい。 MiYu @MiYu517

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