6章 王剣エクスカリバーを手に入れたぞ!
第33話 余計なものが付いてるんですけど?
そして夜の八時頃。
無事に帰宅したアーサー王とエクトルは、ヴィヴィアンと通話していた。
スピーカーから響く言葉に、王は目を丸くする。
「センニン…だと?」
『はい。白井
「……現世の語り部たちの物語に描かれる
王は、
線で掻かれた人間たちが、絶叫しながら戦い、宙を待っている絵だ。
「我が妃は、そんな技を身に付けているのか。奥方よ、そなたは前々から
「先日、私のマンションに現れた時に。彼女の性格を考えて無視するつもりでしたが、我が高校に転入して来ました。前世の影響なのか、大野
「そうであったか」
王は腕組みをして考え込む。
だが、白井
彼が女性化したせいかも知れない。
――ふと気づくと、エクトルは神妙な顔で正座している。
彼なりに気を使っているのだろう。
だが、全ては過ぎたことだ。
ランスロットへの遺恨もない。
白井
ライオネルとボールス・ド・ガニスは、白井
それなら、それで構わない。
彼女が護衛(より強いが)に囲まれて、安全に暮らせるなら満足だ。
結局、自分はギネヴィアを愛していたのである――。
それよりも、今は『エクスカリバー』が大問題だ。
原型師とやらが創作した物なので、本物とは大きく異なるだろう。
それでも、父王の顔も知らないエクトルは嬉しそうだった。
が、アーサー王は『エクスカリバー』を見るたびに憂鬱になる。
確かに『商品デザインは変更する場合がございます』との警告は書かれていた。
「……奥方、これはどういうことなのだ?」
「はい。私も驚いています」
王の問いに、ヴィヴィアンは冷徹に返答した。
横に置いてあるエクトルのスマホ画面には、二百年余り前の絵師が記した線画が表示されている。
絵師の名はオーブリー・ビアズリー。
王の故郷ブリタニアの住人で、病弱なために若くして世を去ったと言う。
ガチャで引き当てた『エクスカリバー』は、彼の描いた絵を忠実に再現していた。
物語では、側近の騎士ベディヴィアが『エクスカリバー』を湖に投げ、それを『湖の妖精』のひとりが受け取ったことになってる。
その場面をビアズリーは描いたのだが――
王は、折り畳みテーブルの上の『石に刺さった剣』の四個のミニチュアを眺めた。
「湖の奥方。そなたは『石に刺さった剣は、台座が邪魔だ』と仰った」
「はい、魔法でミニチュアの剣を原寸大に変化させるので」
「……では、この手はどうなる?」
苦々しく呟き、手の上の『エクスカリバー』を見る。
それは、『湖の妖精』が剣の柄を握っているミニチュアだった。
見本写真では、この手は無かった。
なのに、完成品では在る。
青い水面。
そこから伸びた手首とドレスの袖口。
握られた『エクスカリバー』は、刃先を天に向けている。
「はい、陛下。その水と腕も、原寸大に変化します。剣を握る手を引き剥がせれば良いのですが」
ヴィヴィアンの無情な声が響いた。
――続く
*********
アーサー王伝説豆知識(25)
オーブリー・ビアズリーの絵を御存知の方は多いでしょう。
白と黒の線画の中に漂う官能の香りは、今も色褪せません。
今話で記した場面の絵は、「アーサー王 ビアズリー」で画像検索すれば出て来る筈です。
私が好きなのは、『トリスタンに手紙を書くイゾルデ』の絵です。
白い部屋の中で、大きなターバンにも見えるイゾルデの黒髪と黒マントが印象的で美しいと思いました。
トリスタンとイゾルデの物語は、アーサー王とは無関係だったのに、いつの間にか組み込まれてしまいました。
こちらも、マルク王と甥のトリスタン・王の妻イゾルデの三角関係の物語です。
マルク王は悪役として描かれることも多いですが、前にテレビで観たオペラのマルク王は違いました。
二人の亡骸を見たマルク王は、「私は、お前たちを赦そうと思っていた」と謡うのです。
すれ違いの悲劇が強調された感動的な場面で、近年ではマルク王を『悩める夫』として描くことが多いようです。
アーサー王と円卓騎士団が高校生に転生したよ mamalica @mamalica
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