第32話 領主のシティアドベンチャー。
冒険者の仕事というのは、洞窟に入って宝物を探したり、魔王国に属さない魔物達を狩るのだけが仕事ではない。
シティアドベンチャー、困った人の助けも十分な冒険だ。
「……どうした?」
「あぁ、領主アルフォート様……、ミスリル鉱山から毒が出ましてね」
「私たちも毒に耐性を持っておらず……」
と人間や魔人の炭鉱夫に言われれば、
「あぁ、それならアシッドスライム達を使えばいいにゃ。
やつらは、知性こそないけど、毒物を好んで食べる習性があって伸縮性にすぐれるから、洞窟の整理にはもってこいにゃ。
最後はちゃんと燃やすにゃ」
とミーアに助言を得て、実行する。
すると、毒の問題はあっさり解決された。
ある時は、
「先にアイツが殴った!」
「いいやアイツが殴った!」
と、高レベルのオーク魔人と人間とで諍いが起これば、公国の処罰法に則り、
『二人纏めてかかってこい』
憲兵の代わりにドラゴンライダーになったアルフォートが両方の退治を行い、兵がつれていき、一日、晒しモノの刑にすることもある。
「あ~、この山の中、久しぶりに美味しいものがたべたい!」
と意見が上がれば、野生のモンスターを狩り、祭りと称して料理レベル九を発揮するアルフォート。
存外なことに、魔人と人間の交易の街と化したために、香辛料や材料の幅が増え、アルフォートも腕の振るい甲斐がある。
懸念していたオーク肉やサイクロプス肉などの問題だが、
「全然、大丈夫さ。
知能も協調性を持たない野生かダンジョンの連中だろ?
なら人間でいう豚と一緒さ。
文化を持たないモノは魔人ではなく魔物扱いでいい。
魔人は同族を食すことに躊躇いわない。逆に自分の力になると積極的に食べる」
「そういえばミーアさんも普通にオーク食べてましたね……」
と、任官されてきた見知ったオークジェネラルに言われて納得するアルフォート。
こんな毎日が、新しく出来たミスリル銀山のある『イルフィート』の街の現状である。
街というにはまだまだ遠いが、ミスリルで稼ごうとして集まった百を越える人間や魔人が協力しあい、街を作り上げている。
既に領主館を中心に商人ギルド、冒険者ギルド、金物屋や道具屋や宿、家等も計画的にたち始めている。ミスリルも順調に採掘され始め、精錬や流通も軌道に乗っている。
アルフォートは一カ月二千八百金(つまりエリクシル代)のみを領主である自分の取り分とした。他は町の財政に回すよう指示しており、中々、旨く回っている。
そんな中、不満や問題を解決して回る、シティアドベンチャーがアルフォートの業務だ。
他の経理などは、セバスチャンを筆頭に公国と魔王国から派遣された文官たちが処理してくれるので楽ではあるのだが、
「つまらないのじゃー。
こうズバーンとした冒険がしたいのじゃ!」
というステアが言うのも仕方ない。
ここ約一年、イルフィートを造るだけで手一杯だったのだ。
冒険という冒険はしていない。
週一、サイクロプス狩りにミーアと行くだけである。
最近はステアも冒険者としての同行に慣れてきた、それもあり刺激が足りないのであろう。
「こういうのも冒険者の仕事だよ、ステア。
特に僕は領主様でもある。
責任だってあるんだよ」
それにだ、
「まだまだ、狩りに出かけるにはミーアさんは連携が甘いっていうよね?
ドラゴンの体に頼りすぎると」
「確かにそうなのじゃ……。
教官の時のミーアは鬼なのじゃ……今日もボロボロに、慰めてくりゃれ……」
「ステアは頑張ってるよ。うん。
僕の為に、自分の為に頑張ってるステアは凄く可愛いよ」
「えへへ……」
人間と冒険をする際の注意点と、ドラゴンとしての弱点を日々、ステアは鍛え上げられている。
ミーアがドラゴンキラーナイフでの鍛錬しているので、いつもドレスをボロボロにして帰って来る。その度に、ステアが泣きそうになっているのでアルフォートは慰めることにしている。
「そういえば、今日、ステアと出会って一年だね」
「そうじゃったかのう」
「そうだよ、背も僕の膝ほどだったのに太ももにまで来てるし。
なにかして欲しいことあるかい?」
「ぎゅーっと、抱き締めて欲しいのじゃ」
いわれ、アルフォートはステア抱き上げて、人間で出来る限りの力をこめる。
ステアの胸元あたりに膨らみが少し出てきた気がしたアルフォートは赤面する。
「どうしたのじゃ?」
「胸が……感じられてだね……何というか、ステアも成長したな……」
「えへん、ちゃんとママ様みたいな巨乳になるから楽しみにしてるがよいぞ」
「今のステアも十分可愛いんだけどね」
「可愛い可愛い言う出ないのじゃ……照れてしまうのじゃ」
彼女からも抱き着く。
彼らにとって間違いなくそれは幸せな時間であった。
見捨てられた俺が幼女ドラゴンと婚約者になった件~ここから始まる料理スキルとドラゴンライダーの快進撃~ 雪鰻 @yukiunagi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます