第1話 異世界に連れていきたいらしい

昔、俺が小学校の頃。じいちゃんが星空がよく見える展望台に連れていってくれた。その時、よく言っていた言葉がある。

「いいか?今、見えている星にはそれぞれわし達と同じように沢山の人々がくらしてるじゃ。」

「へー、そうなんだ。で?」

俺はその時のじいちゃんの顔を今でも忘れない。誰よりもどこの星よりも1番、

「そこには白髪ロングの胸がデカイ美女がいるとわしは信じてる。」

輝いていたのだから。


じいちゃん…

「ん?どうかした?」

あんたの言ってたこと正しかったよ。え?いるじゃん。目の前に。白髪ロングで胸のデカイ美女が。

「…てる?…い!」

は?どゆこと?マジでナニコレ?

「ねぇ!!ってば!!」

「あ、はい!!すみません!?」

ムスッと顔をふくらませた美女が目の前で叫ぶ。何だこの状況?まぁ、とにかくこの美女を

「ということで、ショウマ。私の世界に来なさい。」

不審者を外に出さないと。彼女の手を強引に掴む。

「ちょ、ちょっと!ま、待って…!」

「いいか!とにかくなぁ、」

後ろを振り返ると彼女は頬を赤くしていた。モジモジと何か言いたげな顔をする。

「…なんだよ。」

「そのー、強引も悪くないな…と。」

「あ?何、勘違いしてんだ?殺すぞ?」

「はい、すみません。もうしません。」

あー、クソ。今はこんなことしてる場合じゃねぇのに。彼女の全身を見る。改めて見ると本当に日本人とは思えない美しさだ。白髪のロングに青と紫のオッドアイ。この辺じゃ珍しい顔だ。なのに制服はうちの学校…。

「なぁ、お前どこから来たんだ?」

俺が不思議そうな顔をして言うと、彼女は目を丸くし、キョトンとした顔をしてクスッと笑った。

「な、なんだよ?」

彼女は自慢げに鼻を高くし、人差し指をくるくると回しながら喋った。

「え?だって、言ったじゃん。私の世界に来る?って。そこからの答えはひとつでしょ。つまり私は神様ってこ」

「いや!それが意味わかんないんだが!?冒頭から意味分かんねぇよ!!」

マジでなんだ、コイツ?そもそもどこから家に入ってきた?

俺が困惑してると、階段からドタドタと駆け上がってくる音がした。マズイ!

「とにかく、今は隠れろ!」

「へ?」

「いいから、早く!」

彼女は一瞬戸惑ったような顔をしてから、何かを察したように頷いた。カーテンの後ろに走って潜る。

いや、そこかい!普通に影で丸見えだった。いや、とにかく今はそれよりも

「兄ちゃん!マジうるせぇ!!」

弟だ。

「あー、ごめん。流星。うるさかったよな。静かにするから。じゃ、」

俺が流星を部屋から出そうとすると、流星は立ち止まった。俺の袖を掴む。そして、じっと俺を見つめた。

「兄ちゃん…本当に女ができたの?」

あ…やば。

「そ、そうだろ!さっき言ったじゃん!ほ、ほらもう分かったら早く、」

とにかく追い出さなくては。それは分かっても、まさか部屋の中にいるとは思うまい。強引に背中を押すが、流星はドアノブを持って立ち止まり、俺に抱きつく。

「え?りゅ、流星?」

流星は俺に顔を向ける。

「違う。」

「え?」

「さっきは匂い…しなかった。」

いや、嗅覚犬並みかよ。やばい。とにかく流星はやばい。どうにかしないと。なんとか流星の気を引けそうなことを言う。

「あー!流星!そういえば、もうすぐバルバル仮面の放送っ」

「ヘンダッグッショッン!!」

それと同時にカーテンの裏から謎の爆発音のような音がした。汗が止まらない。恐る恐る流星を見るとじっと何か言いたげな顔をしていた。

「…今の、」

「あああ!!俺の!そう!俺のアイスあげるから!ね!帰ろうか!ね!?」

流星は呆れたような顔をして

「あ、うん。」

部屋を去っていった。

深くため息をつき、先程爆発音が聞こえたカーテンの裏にいる彼女に声をかける。

「はぁ…もう、いいよ。出てきて。」

照れたような申し訳なさそうな顔をした美女が出てきた。おそらく先程の爆発音はクシャミなのだろう。癖スゴすぎんか?

「ご、ごめん…なさい。」

どうやら本当に反省しているようだった。彼女の顔を見て、ふぅと息を漏らす。

「別に。何とかなったし。反省してるなら早くここを出て行って」

「それは無理!」

俺は眉間にシワを寄せる。スカートの裾を握りしめ、下を向いて彼女は言葉を続けた。

「私は、ショウマをうちの世界に連れて行くためにここに来た。だから、目的を果たすまでこの世界に残る。」

「…は?お前、いい加減にっ!」

怒りで彼女に掴みかかる。その瞬間彼女は顔を上げる。その眼差しは真っ直ぐ俺に向かっていた。彼女の雰囲気がスっと変わる。

「ショウマが出ていかないなら私もここに残る!」

その目の奥には戸惑う俺の姿があった。

「なんで…そこまで…」

俺に執着するのか。そう聞こうと思ったが勇気が出なかった。

また、俺は何かを勘違いしているかもしれないと。そう思ったから。正直に言えば、この状況は嫌でもなかった。逆に全てを失ったばかりの俺には嬉しくも思えた。

…最低だ。

俺は結局、誰かにこんな自分を求められたいがために生きている。そう、自分のために。

告白された時も相手のことを思ってではなく相手を利用して、自分を肯定するため。

俺はその場に膝をついて崩れ落ちた。

「マジでッ…なんなんだよッ!」

あー、また涙が出てくる。もう、とっくに枯れていたと思ってたのに。

そんな俺を白髪ロングで胸のデカイ美女はそっと抱いた。

「私は、君を肯定するよ。」

まるで、俺の心の声が聞こえてるかのようだった。その声は天使のように、いや、神様のように聞こえた。

「なぁ、俺…本当に異世界行けるのか?」

気づいたら俺はそう答えていた。正直、コイツとなら俺は嫌でもないかもしれない。異世界も。

「うん。行けるよ。」

優しく、俺に手を差し伸べる。気づいたら、俺は勝手に彼女の手を握りしめていた。

フッと彼女は柔らかい笑みを見せる。俺もつられて苦笑してしまった。

「あ、そうだ!ひとつ条件があるんだけどね。」

彼女は気づいたように人差し指をクルクルと回す。

「なんだ?言ってみろ。」

今の俺なら、なんでも受け入れる気がす

「私を君のプリンセスにして欲しいんだけど。」

「あぁ、俺がお前をプリン…んー?」

は?どゆこと?

「ま、待って…俺、やっぱ異世界やめようかと」

「ありがとう!!嬉しい!」

俺の言葉を遮るように彼女は満面の笑みで答えた。

彼女が、いや神様が俺の手を引っ張り、俺の頭にふにっと柔らかい感触がした。俺は上を見上げる。そこにはイタズラっぽい顔をした神がいた。

「よしっ!異世界行っちゃおう!」

あー、分かった。これ全部、

「お前のシナリオ通りかよ…!」

「んー、」

彼女は人差し指をクルクルと回し口に当てた。

「正解ッ♡」

「クッソがよぉ…。」

俺はつくづく思う。本当に美女は恐ろしいと。

じいちゃん。俺は美女なんて嫌いだ。特に白髪ロングで胸がデカイ女は特に。

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俺は神様を殺したい〜不具合で転移した俺は神に愛される〜 こたつムリ @sae1125

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