白い彼女

双町マチノスケ

怪談「白い彼女」

 子どもの感覚というか感性って、大人のそれと全然違うじゃないですか。子どもの頃に恐ろしくて堪らなかったものが、大人になるとそうでもなくなったり。逆もまた然りですよね。子どもの頃に平気でやってた遊びとかを、大人になってから改めて思い出すと「よくあんな恐ろしいことをやってたな」とか思ったり。


 今からお話しすることは、どちらかというと後者だと思うんですけどね…






 僕の地元ってこれといった怖い噂とか言い伝えとかがなくて、僕自身「化け物とか幽霊が怖い」っていう感覚があんまりなかったんですよ。当然ホラースポットみたいなのもないですし。だから近所の色んな場所に一人で入ってたりして、よく遊んでいました。その日は村外れにある森に入っていったんですよ。たぶん虫取りにでもしに行ったんだと思います、夏でしたし。で、適当にウロウロして帰ろうとしたんですけど…

 なんか森のかなり奥の方に、やけに開けた場所が見えたんですよ。この森には何度か行ったことがあるのに見覚えがない。今思えばこの時点で既におかしいんですけど、「あれ?こんなとこあったかなあ」くらいにしか思いませんでした。だから何の抵抗もなく近づいて、開けた場所を覗き込んだ時でした。











 居たんですよ。白い、何かが。



 なんとなく人っぽい形だったんですけど、はっきりと何かは分かりませんでした。ただぽつんと立ってて。こっちを見てるような感じがしました。

 流石に怖いと思いました。でも何を思ったのか僕はさらに近づいていきました。恐らく好奇心が恐怖心に勝ったのでしょうが…ゆっくりと、一歩一歩踏みしめるように近づきました。呼吸が荒くなり、心臓の鼓動が早まっていきます。そしてあと少しで『それ』がなにか分かる距離まで近づこうとした時──






 突然、ふっと消えてしまいました。


 何が何だかという困惑と、若干の残念な気持ちがごちゃ混ぜになったよく分からない状態になりました。でもこのままココにいるわけにもいかないんで引き返すことにしました。見間違いだったと思うことにして僕は振り返りました。











 真っ白な『それ』が、目の前に居ました。


 たしかに人っぽかったです。ただ人になりかけの何かというか、人の形が出来始めている胎児みたいな見た目でした。静かに立って、じっと僕を見つめていました。もう驚きとか恐怖を通り越して僕は呆然と立ち尽くしてしまいました。でもそのまま逃げようともしないのはどうなんだと今になって思いますが。あとこれも今考えると意味不明なのですが、直感的に女の子だと思いました。何言ってんだって感じですよね。そもそも人かどうか怪しい姿なのに。

 でもおかしいのは『それ』もなんですよね。何もしてこないんですよ。ただ見てくるだけ。やっと逃げることが頭に浮かんだ僕が一歩後ずさりした時も、そのまま一歩分近づいただけでした。結局どうすることもできず『それ』を連れたまま、というか付いてこられたまま家まで帰りました。……子どもの僕はつくづく狂っていたと思います。当然家族に言うにも言えず。でも反応を見る限り、家族には『それ』が見えていない様子でした。

 家に帰った後も『それ』はただ僕を見てくるだけでした。話しかけてくるとか家族に不幸なことが降りかかるとか、そういう、なんかありがち?なことも起きませんでした。僕がどこへ行くにしても付いてきて、何をするにしてもじっと見てくるだけでした。そんなのと平気で居る僕の方が傍から見れば怖いかもしれませんね。

 結局、何だったんでしょうね。あれ。子どもの幻覚や妄想と言ってしまえばそれまでかもしれません。いつの間にか消えてしまいましたし。どのタイミングで消えたのかも覚えていません。単純に消えたのか僕に飽きてどこかへ行ってしまったのか。今となってはもう確かめようがありませんが、白い『それ』は今も何処かで誰かを待ってるのかもしれません。






 ……すいませんね、つまんない話で。でも本当にこれだけなんですよ。時が経って再び現れるとかもなく、というかそもそもあの体験をしてから森には行ってません。いっそのこと話のネタにしようにもなんかウケそうにもなくてね。だから今の今まで誰にも言ったりしてなかったんですよ。

 で、そのまま大人になって今は彼女と二人暮らしってわけです。ええ、同棲してるんですよ。最近新しい家具を買って、2人で一緒に選んでね。チョイスが変だったのか、なんか店員さん不思議そうな顔してましたけど。あれ何だったんだろ。

 カワイイでしょ?色白で小柄で…なんか今話したアイツみたいですね、って失礼か。あははっ、ごめんごめん。



うん、…え?何言ってるんですか?
















ずっと、僕の隣に居るじゃないですか。











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 この文書はオカルトジャーナリストの氷室政也氏が知人男性に対して行ったインタビューの音声記録を書き起こしたものです。この音声が録音されたボイスレコーダーは2005年12月08日、自宅で変死体となって発見された氷室氏から回収されました。遺体が発見された際、同氏はこの音声記録に関する記事を執筆中だったと見られています。このインタビューを受けた知人男性の身元を特定、接触する試みは現在も続けられています。

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白い彼女 双町マチノスケ @machi52310

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