第9話
日が落ちて大分経った頃、漁港のコンテナの上で一人の少年は静かに
アユマから渡されたセミオート狙撃銃、バレットM82の
夜間でも狙えるように付けられた特大の暗視スコープを息を殺して覗いていた。
スコープに人影が写る。
奴だ。
何も知らない呑気な表情で歩いている。
引き金に掛けている指が震えるのを必死に抑えて、照準が頭部と重なるのを待つ。
昼間見た少女の笑顔が脳裏にチラつく。
「ぐっ。すまない。許してくれ。」
奴の頭が照準の中心と重なる。
引き金を引く。
だが、次の瞬間、放たれた弾丸は標的の頭部ではなく、突如としてどこからか投げ入れられた分厚い金属製の板を貫く。
それに勢いを殺されてしまい、弾丸は標的の頬をかすめる程度だった。
「何っ!」
「ひぇー」
標的は脅えて千鳥足になりながらも逃走する。
「逃がすか!」
追おうとするが背筋に悪寒が走り、何者かの気配を感じ取った。。
猛烈な勢いで横に降られた拳を、即座に屈んで避ける。
右脚を襲撃者にお見舞いするも、両腕でガードされてしまった。
敵との間合いを取る。
暗くて素顔はハッキリとは見えない。
腰には西洋風の剣を携えている。
現代社会において何故そんなものを持っているのか、ジンは微塵も理解出来なかったが、とにかく目の前の人物が強者であることだけは本能で理解出来た。
警戒するジンに対して、敵は余裕な態度で挨拶をしてくる。
「ご機嫌よう。
「黙れ。お前は何者だ?」
「私は地球連合大将のガラオンと申します。以後お見知りおきを。」
「……!」
声に出さないまでも、ジンは驚かされた。
まさか、今直面している相手が、先日戦ったガラオンだとは思わなかった。
しかし、如何に操縦技術に優れていようと白兵戦では意味を成さない。
ジンはそれだけ、対人戦における武に自信があった。
腰のベルトからデザートイーグルを取り出し、銃口を敵の顔に向ける。
しかし、奴は動じることなく剣を鞘から引き抜く。
少年は敵の意図が理解らなかった。
まさか、あの剣で銃弾を斬るつもりなのだろうか、と苦笑する。
アニメや漫画の世界ならまだしも現実世界では剣の刃が欠けるか、折れるかするだろう。
4発、発砲する。
敵の死を確信した。
しかし、その自信は一瞬にして砕ける。
放たれた全ての弾丸は奴の剣によって弾かれる。
そこまではいい。
だが、問題なのは敵の剣に一切傷が付いていない事だ。
薄く精錬された鋼が、高速で放たれる鉛玉を防げる道理はない。
ジンは驚愕に息を呑む。
さらに3発、発泡するも、今度は弾かれるどころか全ての弾丸は真っ二つに断たれてしまう。
敵の剣を凝視した。
外見からは何も有力な情報は掴めない。
推測するに、恐らく奴の剣は防弾性のコーティングで覆われていると、少年は判断する。
愛銃を腰のベルトに戻し、ベルトに半ば吊るされた状態の刃渡り16センチ程のナイフを二本、鞘から抜いた。
二本のそれの刀身にはダチュラという植物の毒を塗ってある。
ナイフに塗ってある量程度では死に至らしめる事は出来ないが、戦闘を有利に進める事が出来る筈だ。
リーチにおいては剣を持つ奴が有利。
慎重に太刀を見切る必要がある。
駆ける。
変則的な動きを繰り返して相手を撹乱しながら距離を詰める。
大きく踏み込んだ。
一気に至近距離に接近して左手のナイフを敵の喉元目掛けて突く。
だが、その単純で直線的な刺突はいとも容易く受けられる。
それでいい。
剣を左手の攻撃への防御に使用しているなら右手の二刀目は防げまい。
剣を握り締める両手のうち、右腕の腱のある箇所に狙いを定める。
一撃で仕留める気など毛頭ない。
敵の戦闘力を徐々に削いでいき、確実なチャスができたところを叩く。
それがジン・マヒロという少年の、白兵戦における戦闘スタイルだった。
敵の腕まで、ナイフの切っ先があと一センチも満たくなるまで近づく。
ナイフの刀身が何かに当たった歯応えを感じとる。
しかし、それが人間の肉の感触ではなかった事に即座に気付いた。
硬い物に刃を遮られた感触だ。
自身の攻撃によって切り裂かれた奴の服の隙間から銀色の腕当てが見えた。
それに気を取られていたところに、ガラオンはジンのナイフを弾き、大きく振りかぶる。
素早く身を引く。
敵の剣を空を斬り、剣先は地面スレスレまで、振り下ろされた。
それをジンは見逃さなかった。
鉄板性の厚底靴で剣先を踏み抑える。
敵は、予想外の出来事に一瞬困惑した。
敵は剣を引くが16歳の少年の体重が乗ってはお手上げの様だ。
この瞬間こそ、ジンが待っていた決定的チャンスだ。
確実に敵を殺れる好機。
逃さない手はない。
二つのナイフを敵の首元に叩き込む。
しかし、二刀の攻撃は空振りだった。
体勢を低くした敵の拳が鳩尾に入る。
「がっ!」
何が起こったのかジンには当初理解出来なかった。
撃鉄のレギオン 風間 早死郎 @kazamaakiko
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