第8話
指定された地点に向かえば、自然にカモフラジューした国防色の巨大なトラックが2台と火星連合の者が居座っていた。
互いに言葉を交わすことも無く、作業を進める。
レギオンをトラックの荷台に積み、支給された年相応の服装に袖を通す。
黒のスラックスに灰色のパーカー、中には黒のノースリーブ。
先ほどまで着ていた軍服よりも耐久性や防水性では大きく劣るが、動きやすい。
何より地球連合の基地の偵察をする以上、敵軍の人間とは思われない服装をしなければならない。
これならば怪しまれることはないだろう。
「ここで着替えるのかよ~。」
ヤナギは恥ずかしそうにトラックの陰に隠れながら着替えていた。
紺色のジーンズに、白色のインナーの上から赤の革ジャンという組み合わせをヤナギは完璧に着こなしている。
端正な顔立ちも相まって16歳とは思えない色気を放っていた。
なるべく目立たず行動したいというのに、これでは羨望の的になってしまう。
若干の心配をしつつも、渡された偽造パスポートを鞄にしまってトラックに乗り、ドイツとデンマークの国境に向かうのであった。
国境付近まで近づくとトラックから二人は降りる。
ここから先は別々の手段で入国する。
ジンとヤナギは正規ルートで、レギオンを積んだトラックは闇ルートで。
レギオンのような巨大な荷物を積んだトラックは都市では目立つし、入国手続き時にバレてしまう可能性もある。
違法入国させるのは至極当然だ。
走り去って行くトラックを横目に二人の少年は入国手続きを済ませてしまう。
手続きが終わると、キャリーバッグを引きながらコペンハーゲンの町を練り歩く。
この光景を見て、誰が火星側のテロリストだと思うだろう。
今、二人は完全に観光客として町に溶け込んでいた。
町をくまなく探索して兵士の数を確認しながら、警備の手薄な場所を把握していく。
そんな中でジンは一人の少女に目がいった。
両の手を両親と繋いで幸せそうな顔で歩く少女の姿に思わず顔が綻んでしまう。
ただの他人でしかなかった男女が恋を得て夫婦になり、娘が産まれて親になり、家族として、誰であろうとも害する事を許されない幸を得たことだろう。
あの少女と彼女の両親は、今、どのような絶望とも不幸とも無縁だった。
少年は、そんな幸せな時間を自分の手で侵す事に苦悩する。
矛盾。
あの家族にいつまでも幸せであって欲しいが、自分自身がそれを壊して、得る結果を望んでいる。
火星の平和の為の生贄として何も悪い事をしていない人々の幸せを踏みにじる。
許される行為ではない。
だが、少年は誰に許しを乞う訳でもない。
平和を勝ち取った後も、大罪人として生きる覚悟が彼にはあった。
少年は胸に熱を込めて決意を固めていると、隣にいたもう一人の少年に声を掛けられる。
「そろそろ火星の基地に行くぞ。一般の人にはわからないような場所に設置してあるらしい。ちゃんとついて来いよ。」
ヤナギは人混みの少ない路地へと歩いて行く。
ジンも彼の後を追っていくと一軒の古本屋に着いた。
古本屋の店主と思わしき老人にヤナギが声を掛ける。
「レギオンパイロットNo.1、No.2だ。」
「…よかろう。店の奥に扉がある。ロックが掛かっているから9615と入力しろ。開く筈だ。」
少年二人は言われた通りに店の奥に赴く。
確かに鉄製の扉があった。
教えられた通りの番号を入力すると自動的に扉がスライドし、下へ続く階段が現れる。
彼らは身構えながら階段を降りてゆくと、天然パーマの巨漢が出迎えてくれた。
「よう!お前らがレギオンパイロットか。ここはコペンハーゲン火星基地。俺はレギオンパイロットNo.3のアユマ・ハガだ。宜しく頼むぜ。」
やけに大きい声で嬉しそうに話す大男は、まるで熊の様な肩幅と背丈をしていた。
ヤナギとジンは思わず身震いする。
基地の中へ案内されると既にトラックは着いていたようで、二人の機体は整備された状態でデッキに佇んでいた。
ジンは機体の到着に安堵しつつ、作戦の内容についてアユマに訪ねる。
「俺達は今回の任務で何をすればいい?早速今日の夜からでも取り掛かる。」
「話が早くて助かる。この男を殺してくれ。」
そう言ってアユマから1枚の写真を渡される。
それを見た途端、彼の表情は絶望へと堕ちる。
その写真に写っていたのは先ほど見かけた少女の父親だった。
「……この男は何者だ?」
震えた声で訪ねる。
「こいつは地球連合の優秀な科学者だ。お前達が戦ったというガラオンのRAを開発したのもこいつだ。このまま生かしておけば我々にとって不利益だ。消すしかあるまい。」
「……そうだな。」
機械的に返事をする。
そうすることしか出来なかった。
覚悟はしていたが、こんなにも早くあの少女の幸福を奪う事になるとは。
現実から目を背けようとする自分がいた。
しかし、任務である以上、放棄する事は許されない。
「どんな方法で殺せばいい?毒殺か?爆殺か?」
「奴は今晩、人目のつかない漁港を通って酒場に行く筈だ。そこを狙撃してくれ。」
「…了解。」
沈んだ気分で返事をし、用意された狙撃銃の整備をして夜を待つのだった。
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