第7話

ヤナギは、2機が死闘を繰り広げるなか、ガヴェインに狙いをつけてモルドレッドの援護をする。


いくら相手の方が優勢とはいえ、十分過ぎる性能を備えたレギオンとの戦いにおいて、飛来するビーム弾に気を配ることは出来ないはずだ。


ところが、未だににヤナギは弾を敵に当てられていない。


ガヴェインはモルドレッドとの剣戟を一切崩すことなく、大剣でビーム弾を弾き、霧散させる。


洗練された技術によって、モルドレッドとの戦闘の片手間に自身の撃った弾が無力化される事にヤナギは屈辱を感じた。


自暴自棄になり、デタラメにビームボウを乱射するも、曲芸の様に軽やかな動きで全て凌ぎ切られてしまうのであった。



ジンはもはや驚く事を放棄していた。


ヤナギからの援護射撃と自機の連撃を何の苦もなく捌ききる相手の機体に恐怖すら覚えたが、なんとか門の方向に誘導して撤退のチャンスを測ろうとする。


後退りしながら間合いを取り、門の方向に誘おうとした時だった。


ここぞとばかりに、残っていた5機のクラリスがモルドレッドに四方から襲いかかる。


「何!しまった。」


何とかこの包囲網から抜け出さなくては。


前にはエース機、残りの方向からは量産機、どこを攻撃するかなど明白だった。


前方。


食らえば致命傷に成りうる一斬だ。


最優先に防がなければならない。


かといって、クラリスの攻撃も直撃ならば当たりどころによっては致命傷になる可能性を秘めている。


先ほど徹甲弾を食らった背部への損傷は避けたい。


ならば、今俺がするべき選択は…。


振り返り、背後から迫っていたクラリスに反逆の宝剣を突き刺す。


そして、その串刺しの機体を担ぎ上げて盾にし,ガヴェインの大剣を受ける。


当然、それは敵の大剣によってすぐさま断たれる。


だが、モルドレッドが攻撃に転じるまでには十分過ぎた。


反逆の宝剣を引き抜き、上半身だけのクラリスごとガヴェインを蹴り飛ばすと、奴は大きく体制を崩す。


周囲に群がっていた残りのクラリス4機を見れば既にヤナギに片付けられていた。


逃げるには絶好の機会だ。


「今だ、撤退するぞ。」


そうヤナギに呼び掛けて要塞を抜け出すが、尋常ではない速度でガヴェインは追跡してくる。


「牽制だ。撃て。」


ヤナギに指示する。


「言われるまでもねぇ。」


ホバーリングを維持したままラーディヤはガヴェインの方向にビームボウを連射する。


しかし、敵は縦横無尽な動きで全ての弾を避けながら距離を詰めてくる。


そこへヤナギから通信が入る。


「湖に誘導する。上手くやってくれ。」


要塞は山を開拓した場所に設けられていた為、近くには大きな湖畔があるのは知っていた。


少年はヤナギの意図を微塵も理解していなかったが、言われるがままに湖の近辺に向かう。


そして2機のレギオンは湖の水面を飛行し、向こう岸まで渡るが、ガヴェインは追ってこない。


いや、正確には追えなかったのだ。


ここで初めて少年はヤナギの真意を理解した。


ガヴェインの装甲は常に機体のエネルギーによって恐ろしいほどの熱を帯びている。


そんな機体がもし仮に戦闘で湖に水没でもしたら、水蒸気爆発によって大破してしまうだろう。


敵はそこまでのリスクを背負ってまでは追ってこなかった。


ガヴェインが渋々引き返していくのを横目に見ながら、ジンは通信でゴルト博士に任務の失敗の報告をしつつ、次の指示を仰ぐ。


「こちら、ジン。要塞及びガラオンへの強襲は失敗だ。奴の機体が規格外で一方的にやられてしまった。次は何をすればいい?」


「ふむ、そうか。」


男性は任務の失敗報告を受けても特に感情を表に出さず、淡々と話を続ける。


「今までの破壊工作で地球連合側も我々の動きをより一層警戒するだろう。ならば、スイスのベルン基地やフランスのパリ発電所は警備が固められているはずだからやめておくべきだな。となると、警備が手薄なデンマークのコペンハーゲン要塞を攻め落としてもらうことになる。」


「了解。」


それだけ答えると少年は通信を切ってしまう。


暗号で何らかの座標が博士から送られてくる。


恐らくはレギオン用の輸送トラックの隠し場所だろう。


敵軍基地はデンマークの首都であるコペンハーゲンと一体化している。


まずは、デンマークに入国して、コペンハーゲンに行くところから始めなければならない。


そうなるとレギオンのような目立つものは隠蔽しなければならない。


そのために、巨大なトラックにレギオンを積ませて、トラックとは別ルートでコペンハーゲンにある火星側の基地に行く。


そして、そこから任務を遂行する。


都市一つを墜とす大きな任務だ。


たくさんの命をこの手で奪う事になるだろう。


手汗で操縦レバーのグリップが湿る。


目を閉じる。


自分が殺した人、これから殺す人の叫び声、苦しみもがく悲鳴が聞こえる。


銃弾を心臓や頭に食らっても、俺の事を睨み続ける憎悪の顔が見える。


山積みの骸の山の頂で腐敗した死体を見つめて嘆く自分の顔は人間のそれではなかった。


吐き気を抑えて、自分に言い聞かせる。


自分が殺す人達は、平和という橋を掛ける為の柱であると。


そうして、気分が落ち着いた後、指定の座標に向かうのであった。

















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