第6話
ヤナギとジンは自機のメンテナンスを行っていた。
駆動系や関節部に不備がないか、機体ジェネレーターや回路は正常に作動しているか等、精密に点検する。
メンテナンスが終わると、各々の機体に搭乗し、改めて動作確認をする。
そして、機体が万全な状態であることを確認すると、基地の天井から出撃するのであった。
要塞に着くまでにそう時間はかからなかった。
半径600メートルはある巨大なそれの外周には10機ほどクラリスが監視用に放たれている。
奥にはそれの数倍の敵機がいるだろう。
だが、所詮は量産機。
単機制圧に特化したRA2体を相手にしては敵う道理がない。
しかし、現在ここには地球連合大将がいるはずだ。
大将の機体ともなるとレギオンに匹敵する性能を備えていることだろう。
出来ることなら、RAに乗られる前に殺したいものだが、もしもRAに搭乗された状態で戦闘する事になれば途端にこちらが不利になる。
エース機一機と量産機おおよそ30機ほどとのの正面対決ともなれば、いくら高性能に製造されたレギオンでも厳しい戦いになってしまうだろう。
だからといって隠密行動をしようにも、厳重に警備されている要塞に隙をみて侵入するのは困難である。
正面突破以外に策はない。
そう判断すると、正門を守っているクラリスを狙い撃つようヤナギに通信する。
「聞こえるか。正門にいる2機を速やかに仕留めてくれ。俺が扉を切断して侵入する。お前は外のクラリスを全て処理したら、俺の後に続け。」
「おいおい。それは無策すぎねぇか?」
不満げな声でヤナギは返す。
彼がそう思うのも無理はない。
せっかく、最小限のリスクで敵軍のエースパイロットを消せるチャンスだ。
活かさない手はない。
「他に作戦はない。早くしてくれ。」
だが、ヤナギのそんな思いなど気にも留めずジンは敵への攻撃を催促してくる。
心の中で舌打ちをしながらも、仕方なく正面のクラリス2機の胸部にビームを発射すると、敵機は無惨に散っていく。
モルドレッドは、すかさず己が大剣を赤熱化させて扉を溶断する。
周囲に警告音が鳴り響いた。
30機のクラリスが一斉にこちらを注視する。
だが、そんなもの気にも留めずにモルドレッドは無謀にも大群に突撃した。
斬る。
斬る。
斬る。
敵RAを豆腐でも切るかの様に容易く、しかし、決して命を軽んずる事無くきり伏せる。
もう10機は片付けただろうか。
そんな時、一機のクラリスが要塞の奥へ撤退していく。
恐らくは上司であるガラオンに侵入者の報告をしにいく為だ。
腰に装着していたビームマシンガンを取り外し、逃走したそれに狙いをつけた。
そこへ突如として巨大な砲弾が、モルドレッドの背部に直撃する。
「がっ!何だ?」
2発。
3発。
次々に、壁に取り付けられた幾つもの固定砲台から徹甲弾が飛んでくる。
集中砲火を浴びながらも冷静に状況把握する。
モルドレッド自体に大した外傷はなかったが、コックピットには大きな衝撃が走った。
痺れる手足に鞭を打ち、操縦レバーを握って先の敵を探すも時既に遅し。
彼が目にしたのは要塞の奥から出でる白銀と朱の装甲を纏う一機のRAだった。
手にはモルドレッドの反逆の宝剣と似て非なる大剣。
刀身は太陽の光を反射して神々しく輝いている。
モルドレッドはビームマシンガンを捨て去り、両手で反逆の宝剣を構えると相手の大剣の間合いへ向けて一歩踏み出した。
クラリスのパイロット達は驚愕に息を呑んでいた。
今、彼らの眼前で繰り広げられている戦いの熱量に圧倒される。
踏み込んだ脚部が大地を揺るがす。
空ぶった一斬が壁を抉る。
もはや自身らの割り込む余地はないと本能で理解した。
ただ、2機の激闘を傍観する事しか叶わない。
そして、驚愕の念はジンも同じく感じていた。
彼とて幾多の試練を乗りきりレギオンパイロットに選ばれた優秀な兵士だ。
RAにおける剣劇については熟知していた。
実際、相手の太刀は馬鹿馬鹿しく思えるほどに直線の剣捌きで、軌道を読み取ることは出来た。
しかし、攻撃の重さ、速度、共にモルドレッドのそれを大きく上回っている。
機体のエネルギー出力が桁違いだ。
冷却ファンから排出される熱気で周囲の気温が急激に上昇している程に。
しかも、この剣捌きは機体の性能だけで成立するものではない。
いかな研鑽を積んだ操縦技術がこれ程の業を可能にするのか。
なるほど大将に相応しい実力の持ち主だ。
防戦一方のジンは敵機の太刀を読むことに専念し、一合一合を凝視して観察していた。
しかし、もう40合ばかりも打ち合いながら、ただの一度も優位に立つことは愚か、敵を己の刃圏に捉えられていない。
むしろ、相手の剣は勢いを増す一方で、ジンはそれに対処するので手一杯である。
これは不可解な現象だった。
あれだけの出力を維持し続けていればいつエネルギー切れを起こしてもおかしくない。
だというのに、奴の出力は上がり続けている。
外部からエネルギーを供給でもしない限りあり得ないのだ。
それ故に脳裏で信じがたい結論にたどりつく。
それは当たっていた。
ガラオン・ワイドの愛機、ガヴェインの特殊装甲である
日が昇るにつれガヴェインの出力も上昇していき、最大時、つまり正午には通常時の約3倍もの性能を誇る。
半信半疑ながらも、自分のだした答えに変に納得してしまう。
仮に自身の考察が正しいのなら、この戦いは離脱が最善策だ。
しかし、破壊した門の周りにはクラリス15機程。
ガヴェインの猛攻を避けながらそれを突破するのは至難の業だろう。
半ば諦めかけていた時、門の方向で爆発音が鳴り響くと同時に大量のクラリスの残骸があちこちに飛び散る。
門には見慣れた黄金の機体が佇んでいた。
「よう!苦戦してる見てーだな。手を貸すぜ。」
真面目さの欠片もない軽いノリで仲間が話しかけてくる。
「助かる。」
少年はそれだけ答えると再びガヴェインの方向を見た。
そしてモルドレッドは大きく踏み跳ねるのであった。
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