第24話(完)

 個人の持つ魔力は、個人の成長過程の途中において開眼する。

 成長過程の中で、剣の技を鍛えた、炎の魔法を好んで使った、多くの人を癒しの魔法で助けた、己を肉体を極限にまで鍛えた、等と、何か一つでも他人とは極端に違う何かをしている事で、魔力が生まれるのだ。

 人の体の7割が水で出来ている以上、魔力はどうしても水に傾きやすい。

 だが魔法を使う者は、好む魔法で魔力が決まるといっても過言ではないのだ。

 ケイトのように火を好めば火の魔力が、キャサリンのように風を好めば風の魔力が自らに宿る。

 自分の力をアップしてくれる魔力だが、これらにはそれぞれ長所と短所がある。

 火は水に弱いが金には強いといったものだ。

 だが“空”の魔力だけは例外で、弱点が無い。

 まあ、こんな魔力を得る者など滅多にいないのだが、王国内で語られる手出し厳禁の5人は例外中の例外であった。


 ケイトがイヴに聞かせた5人は、全員が空の魔力保持者だったのだ。

「一人目は、イルハン・ブラッド。

 王宮騎士団の参謀長よ。

 二人目は、サイラス・ウィン・レシーア。

 王宮魔法陣の一人で、セレネ魔法学院の理事長も兼任する、精霊魔法最高の使い手ね。

 あたしの妹の師でもあるわ。

 三人目は、セイクレッド・ウォーリア。

 王宮護衛団の責任者で六英雄の一人。

 “真紅の魔剣士”って二つ名を持つ悪即斬タイプよ。」

 ここでイヴは、疑問符丸出しの顔をした。

「え?

 でもセイクレッドって人、私に対する処罰は優しかったですよ。」

「ニードルでの強制労働が優しいわけないじゃない。

 国の仕事で一番死亡率が高い仕事なのに。」

「あ・・・!」

 言われてみればそうだ。

 極悪人を狙う以上、殺される確率は遙かに高いだろう。

 ひょっとしたら私は、騙されたのかしら?

 ケイトは、蒼白となるイヴの想いを気にもせず、続きを語る。

「四人目は、ポーラ・ウィン・アブドゥル。

 王宮魔法陣の一人で、魔法使いギルド“アーク”の長も兼任してるわ。

 あたしの師よ。

 そして最後の五人目は、レオン・フィレ・ウィリアムス。

 あらゆる投擲・射的武器のスペシャリスト。

 王国承認暗殺ギルド“ニードル”の長を務めてるわ。

 あ、イヴの長ってことにもなるわね。」

 イヴの青い顔色が、青を通り越して白くなったようだ。

 死亡率が一番高い仕事に入れられて、挙げ句の果てに長が危険人物ときたもんだ。

 だが、それでも既に覚悟を決めていたイヴに、迷いの色だけは無かった。

 内容はどうあれ、せっかく手に入れた表の仕事なのだから。

 堂々と大地を歩める世界に、やっと踏み出せたのだから。


 ソルドバージュ寺院の地下3階。

 親族のいない方々が亡くなった場合、ここにある共同墓地に納骨される。

 共同墓地は、駅のコインロッカーのような造りで、その小さな扉の一つ一つに亡くなった者の名と戒名が刻まれている。

 戒名は、一般的には種族名が付く。

 ヒューマン、エルフ、ドワーフ、ホビット、その者の種族がそのまま刻まれる。

 但し、国に対して功績を挙げた者には、種族に関係なく天使名が与えられる。

 功績の度合いにより、最下位エンジェルから始まり、最上位ヤーウェまでの多段階ランクだ。

 これに相反して、悪行を重ねた者には悪魔名が付く。

 ソラスからルシファーまでの多段階ランクが。

 ここに新たに納められた骨には、種族名が刻まれるのみであった。

 麻薬をばらまき、自らも破壊神と化したものの、それによって破壊した大半はナンバー3の盗賊ギルド“セイル”に過ぎなかったからだ。

 悪人撲滅に一役かったような見方もあり、戒名を付けるのには僧侶の意見が分かれたため、種族名でまとまったようである。

 扉には小さな燭台が付いている。

 アリサは、新しい蝋燭をセットすると、静かに火を付けた。

 軽く十字をきり、死者に祈りを捧げる。

「願わくば、次なる生誕には温かな家族の元で。」

 長い蝋燭の火は、いつかは小さくなって消えてなくなる。

 その時は、納められた骨と灰が、寺院裏の共同埋葬地に埋められる時なのだ。

 生きとし生ける者は皆、水から生まれ地に帰る。

 この世界の言葉だ。

 死後、骨と灰だけになろうと、全てが腐食していこうと、最後はいつか必ず、皆、自然の中に帰るのだ。

 これからの者たちへ、大地の恵みを与えるために。

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魔術ファミリー“ウェストブルッグ”1『禁断の果実』 牧村蘇芳 @s_makimura

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