第21話 状況の整理②

 人を作る。

 ユニコーンは、ゼシルの目的をそう断定した。だがなぜそう思ったのか? 俺たちはユニコーンからその根拠を聞いていた。


「ゼシルはわざわざホロンちゃんから嫉妬の権能を奪った。つまり、魂に関する“なにか”をする必要がある。そして、わしが回収したシエラちゃんの死体に、呼極こごくがなかった」

「呼極? なんだ、それ?」


 聞いたことのないキーワードに疑問が浮かぶ。


「呼極は、神具っていう特殊な武装の一つや。神具は神の遺体から作られるから、持つ者に強大な力を授ける。特に呼極だけは強力すぎてな、神にしか扱えん。呼極にはいろんな恩恵があるんやが、その中に魔法の拡張がある。魔法の拡張は所持者が発動させる魔法の要件を変えることができる。例えば、“魂の操作”しかできない嫉妬の権能に使えば、それは“魂の創造”になる」


 情報を整理する。

 ゼシルはホロンから嫉妬の権能を奪った。しかし、嫉妬の権能だけでは魂の操作しかできない。

 魂の操作では以下のことができる。

 ・対象の行動の指定

 ・対象の記憶の閲覧

 ・対象の魂を奪う

 ・対象に別の魂を入れる

 ・死者の魂の降霊。などなど


 だが、ここにさきの呼極を使うと、魂の創造ができる。

 操作は1から増やすだけのもの。しかし、創造は0を1にする。

 生み出された魂は肉体がなければ、形を保てない。魂は常に肉体とセットだからだ。


 色欲の権能と、嫉妬の権能、そして呼極。

 この3つが今、ゼシルの元にある。ここまで明らかになると、俺にもゼシルの目的が見えてきた。


「けど、ゼシルは人を作ってどうするの? それにどんな人間を作るの?」


 至極最も、当然誰もが抱く疑問を、妃が投げかけた。


「そこまでは流石にわからんな」


 人を作る。さっきユニコーンはこれを目的と言ったが、これは目的を達成するための手段に過ぎない。

 だがその手段としてゼシルは、大勢の人を、シエラを、父さんを殺した。その過程の先にあるゼシルの本懐。そんなにものに価値などない。断言できる。


「けど今、ゼシルは魔法が使えない。ひと目見ただけやが、それは確かや」

「なぜだ?」

「多分、ホロンちゃんがなんかしたんやろな。ゼシルの魔力は乱れに乱れとった。あの状態から魔法が使えるまで大体1ヶ月くらいは掛かるやろな」

「一ヶ月……か。じゃあその一ヶ月の間に、ゼシルを見つければいい、っていうことだな?」

「そうや。それがこっちの勝利条件や」


 魔法が使えないゼシル。その脅威は殆どないと言っていいだろう。

 ゼシルが魔法を使えるようになり、色欲の権能で回復するまでに殺す。こちらのやることはシンプルだが、これは簡単なことではない。下水道へ逃げたゼシルの捜索が物理的に難しいというのももちろんあるが、それよりも俺たちを阻んでくるであろう存在がある。


「それで、あの仮面男は何者なんだ? 対峙してわかったが、正直あれに勝てる気がしない」


 そう、あの仮面男。あれが一番の障害となる。


「あれについてはわしも全くわからん。なんでシエラちゃんを倒せたのかもまだ……。けど、あんちゃんから聞いた鬼との戦闘から考えるに、篭手に理由があるんやろな。それにちらっとしか見とえんかったが、あの仮面男の仮面、あれは神具や」


 ユニコーンは俺が仮面男と対峙しているとき、ゼシルのほうへと向かっていたため、仮面男のことはあまり見れていなかった。


影纏かげまといって言うてな、あれは。自分の気配を一切遮断する効果がある。呼吸、鼓動、足音、身じろぐ音、その全てがかき消される。せやから視界に収めない限り、気づくことは不可能や。背後から来られたら100%気づけん」

「ふーん、だからあいつが近づくまでわからなかったのか………」


 妃は、納得したような感じで顔に手を当てた。


「多分、あの神具はゼシルから渡されたんやろな。そんでその篭手も神具のはず。けど、わしはその篭手に心当たりがないわ。けどシエラちゃんの斥力の膜を通過できる神具なんて一級品、知らんはずがないけどな……。もしかしたらゼシルはシエラちゃんを倒すためにずっと隠し持っとったのかもな。まぁ、考えても仕方ないわこれは。とりあえず、現段階で最も警戒すべきなんは仮面男やな」

「ユニコーンはその仮面ヤロウに勝てるのか?」


 巡がそんなことを訊いた。確かにユニコーンが勝てるかどうかで盤面は大きく変わる。ぜひ知っておきたいところだ。


「相性次第やが、こっちが瞬殺するか、もしくは瞬殺される。仮面男の能力がまだはっきりせんからな。仮面男と戦うのは正直賭けになる」

「仮面男にユニコーンをぶつけるのは最後の手段になる、か。じゃあ仮面男とは俺か巡で対応しなくちゃならない…………」


 それは、かなり荷が重い。あの篭手は触れただけで肉が削ぐのだから。


「そこでや。向こうとこっちの戦力を考えたとき、こっちが圧倒的に不利や。最悪のパターンを考えてみ。ゼシルが完全復活、仮面男も健在。こうなると、こっちの敗北は確実や」


 そのとき、ユニコーンが俺と巡の、二人を見つめてきた。


「こっちは戦力を増強させる必要がある。というわけで、お前ら二人、わしが直々に教育したる」


 ユニコーンの瞳がギラリと光ったような気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

17番目の君に ゆでたま @yudetama_1231

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ