第20話 状況の整理①

 その日、住宅街の消失は大きなニュースとなっていた。


『本日正午ごろ、〇〇町の半径500メートル範囲で、約50戸以上の家屋が倒壊しました。死傷者はいませんが、原因は不明で、現在も調査が進められています。そして、〇〇町には謎の肉片が辺りに散乱しており、これについても現在調査が行われています――』


「岐、必要なもんは買ったぞ」

「おう」


 家電量販店に置かれたテレビのニュースを見ていると、巡から声をかけられた。

 俺たちは今、巡の家に居候するための準備をしていた。あの騒動で、俺たちの家は無くなり、住む場所がなくなった。どうしようかと困っていると、巡が自分の家に来いと提案してきた。元々、巡は家族で暮らしており、両親が亡くなってからも住み続けていた。そのため部屋を持て余していたんだそう。ちなみに、家のローンはすでに払い終えているらしく、持て余しているにも関わらず、住み続けている理由はそこにある。


 巡の家に居候するのは、俺、妃、ホロン、ユニコーンの、三人と一匹。

 巡の家で複数人で生活するにあたり、色々と必要なものが発生する。そのため今、俺たちは家電量販店に来ていた。


 俺は巡から家電を受け取り、ともに店を出る。


「ニュース、なんか言ってたか?」


 店を出て、巡は声を小さくして訊いてきた。流石の巡でも警戒しているのだろう、あの騒動に関与している、なんてことを声高々に話すわけにはいかない。俺も声を潜めて返答する。


「まだ調査中なんだとさ。あと死傷者はいなかったみたいだ。多分、シエラのおかげなんだろうな………」


 今は亡き異世界の神の顔を思い浮かべる。短い付き合いだったが、誰よりも強い正義感を持ったやつだった。それゆえの衝突もあったが、それともう会えないと思うと、とたんに寂しくなった。


「――あと、我業寿疵ひさしについてもやってた」

「……」


 言おうかどうか迷ったが、言うことにした。


「これもまだ犯人を捜査してるとこらしい」

「俺はな――ゼシルを倒したら、自首するつもりだ。人を殺した責任を取らずに逃げ回るなんて、あの男と同じことだ。全く後味悪いぜ、人を殺してものうのうと生きていかなきゃならないなんてな。息苦しくてたまらん。本当は今すぐにでも牢屋に入りたいくらいだ」

「悪いな、付き合わせて」

「だからちっげーよ。これは俺が決めたことだ。自首するなんていつでもできる。でもゼシルを倒せるやつなんて、今の状況じゃ限られてる。自首するか、ゼシルに立ち向かうか、二つを天秤にかけて、ゼシルを倒すほうに決めた。ただそれだけだ」


 ゼシルを倒す。それは俺も同じだ。だったらもうなにも言うことはない。巡は志をともにする仲間だ。これからともに死地を征くことになるのだろうと思うのだった。


 ◇


 巡の家に到着し、さっそく衣食住に関する諸々の準備をする。まず各々の部屋割り。使わせてもらう部屋は巡の両親の部屋も含まれていた。流石に申し訳ないと思って遠慮しようとしたが、気にしなくていいと言われた。

 巡の両親の部屋にはほとんど物がなかった。巡は遺品整理を早い段階で終えており、本当に大事なものだけ残していた。巡る曰く、結局一番大事なのは物じゃなくて記憶と経験、だそうだ。

 だがそのおかげで俺たちは気兼ねなく部屋を使わせてもらえる。ありがたい。また、物が少ないおかげで掃除も楽だった。


 そして、家具の運搬は、怪力の巡がいるため、難なく終わった。巡には世話になりっぱなしだ。もう足を向けて寝られない。


 大体の準備が終わり、リビングに俺、巡、妃、ユニコーンが集まる。ホロンはまだ眠っており、別の部屋にいる。


「さて、そんじゃ状況を整理するか」


 俺たちは今、情報を共有するために集まっている。先の騒動では、色々なことがあった。それぞれの視点での出来事があれば、その当人しか知り得ない情報がある。そういった情報はもしかしたら盤面を左右するほど、重要なものかもしれない。それを共有できなかったがゆえに敗北、なんてことにならないようにするべき。そのため、会議をしているのだった。


「まず、今回の黒幕はゼシルで間違いなかった。そして、あの戦いでシエラちゃんが死に、ホロンちゃんの嫉妬の権能が半分奪われた」

「シエラを殺したのは、あの仮面の男だったよ」


 ことの発端、そして今回の事件による犠牲を簡潔に説明するユニコーンと、それを補足する妃。

 そうか、シエラを殺したのはあの仮面の男だったのか……。


「そういえば、シエラの死体はどうした? もしシエラを権能で利用されたらまずいんじゃないのか?」

「いや、シエラちゃんの遺体はわしの結界に納めとる。あんな姿で野ざらしにするわけにもいかんしな」


 ユニコーンは顔を落としてそう言った。やはりシエラの死に思うところがあるのだろう。


「けど、今回のことでゼシルの目的が割れた」

「目的?」

「ゼシルは今、二つの権能を持っとる。色欲の権能と嫉妬の権能。つまり、肉体を操る権能と魂を操る権能や」

「なるほどな」


 と、巡はゼシルの目的とやらを思いついたようだった。だが、俺と妃にはそれがなんなのか、さっぱりだった。


「察しが悪りぃな、ったく。あいつは肉体と魂、両方操れるんだぜ。っつうことはよ、人を完全に操作できる。あいつはこの地球上の生物を全部支配下においてなにかしようとしてるんだろ」


 なるほど、とうなずく。だが、それによってゼシルはなにを得るのろう? と、思っていると――


「いや、違うやろ」

「え?」


 ユニコーンに速攻否定された。


「人を操作するだけなら、色欲の権能だけでも一応可能や。それに人を支配下に置きたいなら、ゼシルは世界中を巡ってもっと配下を増やしとるはず」

「じゃあ、ゼシルはなにをしようとしてんだよ?」


 自信満々に答えた推理を否定されて苛立っているのか、巡は少し乱暴に訊いた。


「ゼシルは、人を作ろうとしとる」

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