北路探せ南に在り

 地球で最も深い、マリアナ海溝の探索中、とある潜水艦の搭乗員たちが被曝し、死体となって海上に帰還した。

 映像には、何かの物体を発見した搭乗員の声、そして突然の土煙。恐らくこの土煙で被曝したとされる。映像には、何かが剥がれたようなものが映っていたので、これが原因で、放射能汚染が起きたと思われる。

 搭乗員の命や弔いもそこそこに、国際社会は大問題になった。マリアナ海溝に、短時間で人が死ぬほどの汚染物質が沈んでいる。塗装が禿げたということは、錆びやすくなったということで、いずれこの汚染物質は、その錆がひび割れ、大量の放射能が海に放出されることになる。

 その核汚染物質は一体どの国が落としたのか?

 それが一番の問題であった。

 全国民の海産物に影響を与える大問題なだけに、パンデミックの賠償金が可愛く見える程だ。こんなものを請求されたら、国家破産どころか、第二次世界大戦の二の舞だ。


「へ〜、海の中って、こんなに暗いんだね〜。」

「中というか、底だけどな。」

 ローマンは友人の黙禅もくぜんに頼み込み、マリアナ海溝、の、底に来ていた。

 人の目には足りない光も、自分たちにはよく見える。海の底の砂粒は細かいようで荒い。死んだ魚やヒトデが、そのまま砂の中に入っているからだ。「ペヤング」と書かれたカップ焼きそばを背負ったヤドカリの仲間のようなものが、自分の「カラ」を誇らしげに歩いているし、大きな節足動物が、降ってきた餌を食べて満腹らしい。

 時々ユラユラと、命だったものが落ちてくるが、みなそこの命たちはそれを文字通り食い繋いでいる。

 信仰じぶんたちには、信仰があるものもないものも、等しく「いのち」に見えている。

 放射能汚染など彼らは微塵も気にせず、食欲旺盛で、鯨の骨をマンションにして、賑やかだ。

 少なくとも、会場よりはよっぽど平和でのんびりしている。

「それにしてもさ〜。「信仰のあるところ遍く現れる」拙僧達が、なんで海底しんこうのないところに?」

「え、それってどっちかっていうと仏教おまえらの領分じゃないの?」

「それ、創造主がいるところきみたちいちぞくが言うことかな〜?」

 どっちもどっちである。

「それにしても、見つからないね。なのに。」

「巻き上がった砂が邪魔で、たどり着けないんだよ。」

「それも不思議なんだよね〜。宿?」

「宿ったというか、この感じだと、がくっついてるような感じがするんだよな…。」

 というより、あれほど人類には早すぎた技術と身に染みて知ったはずの人類が、何故そんな、文字通りの核爆弾に手を加えたのか。

 早々に報告しておけば、望み通りの共通の敵による偽の平和が訪れるだろうに。

 というのは、どういう訳か。

「あ、ねえねえ、あれじゃな〜い?」

「ん?」

 黙禅が指を指す。砂粒の光に照らされた先に、細長いような丸いような、明らかな人工物が落ちている。海の生き物たちは、食べ物でないと分かっているらしく、まとわりついていないが、逆に言うと気にも留めていないようだ。

「ああ、これだな。」

 黙禅は今回「呼ばれて」いないので、ローマンはしっかりと手を繋いで、それに駆け寄る。

 …うーむ。

「どう見ても核ミサイルです、本当にありがとうございました。って奴かな。」

「表面ボロボロだし、多分これかな〜? 生き物たちが被曝しているようにも見えないんだけど…。」

「人間じゃねえからわかんねえ…。さて、こいつを見た搭乗員は、どういう信仰きもちであんなことをしたのか…。」

「土埃のせいかな? ね〜。」

「うーん…。」

「う〜ん…。」

 暫く2人で観察したり、考えを話し合ったりしていたが、どうにも分からない。

「あ、分かったかも〜。」

「連れてきて良かった。その心は?」

 黙禅は何とも言えない顔をして、言った。

「来た道探せ、皆見に在り。」

「あー…。なるほど。」


 2人は納得し、次の調査では絶対に見つからないように、その核ミサイルを転がして隠した。

 

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