ディンブラは若駒が跳ねるときの青さで

だいだい

ディンブラは若駒が跳ねるときの青さで

緑道を東南東に歩いてくカーキ色のスニーカーを履いて


雨が好き 色もまばらな傷だけど濡れてしまえば全部隠れる


「いいですか」って引き戸を開けるブルーローズのはじまりは十一時


土曜日はこの店に来る錆び付いた船底をいま港に入れる


春摘みの紅茶を選ぶディンブラは若駒が跳ねるときの青さで


サマーセット農園から風が吹いてくる九席だけの小さな店に


ゆう子さんはマティスの女 軽やかで奥行きのある紅茶ソムリエ


五十二で店をはじめて常連のおかげでもっているわと笑う


お互いの生きてきた道なぞり合う話などした ふたりだけの朝


ヌワラエリア ちょっと元気じゃない時にこのやさしさが嬉しいのです


常連がぽつぽつと来る窓際の私とゆう子さんの間を埋めていく


去年より早く桜の花が消えみんな一歳ずつとしをとる


「階段が辛くなってね」佐藤さんはカラリと引退を発表す


ケイさんは今日もダンナを置いてきたこの店で出会って結ばれたのに


香水はつけない、お冷は頼まない おいしい紅茶のための常識


傘立てに刺さった傘の紺色がグラデーションを作る 緑道と


くるぶし丈のワンピースを着て ゆう子さんはまっすぐに立っている


にんげんの美しさって私にもあるのだろうか 知るのが怖い


雨が上がって晴れてきたよと皆に言う 私は秋にこの街を出る


水仙、葡萄、小花柄 星座のようにちりばめたいな記憶の空に

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ディンブラは若駒が跳ねるときの青さで だいだい @Daidai55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ