第75話 アンチ・ローグ作戦
――エリア51。司令室。
「アンチ・ローグ作戦の概要を説明する。メインターゲットは拉致被害者の救出。サブターゲットとして、主犯格の3名を確保、この基地へ連行されたい。特にこの男、ゲラルド・ルナ・タリドニアは最重要ターゲットだ。なんとしてでも生きた状態でこの基地に連れて帰れ」
ギルが司令室のモニターに、ニアとモモの写真、ゲラルド、バイデッカ、トスカーの写真を映し出す。
写真はギルが偵察衛星とドローンを駆使して撮影したもので、サモンドフォースの仲間達が集まるまでの間に、なんとギルは1人で現地近くの森に潜入し、ドローンによる偵察を敢行したのだ。
ここからガヤド砦までの距離が、ヘリコプターで約20分の近距離だったことから、ギルは先行偵察の決断をしたのだろう。
ドローンのカメラ映像は、私がいた司令室のモニターにも映し出され、ニアとモモは地下牢に閉じ込められていた。
でも、生きてる。私は少し安心した。ニアはモモを守るように抱き締めていて、泣き顔のモモを笑顔にするための変顔や、時折見回りにくる敵に対する強気の表情を見せてくれた。
ギルが先行してドローンを潜り込ませた目的は他にもあって、それは敵勢力の把握だった。
ギルが手元のコントローラーで敵をマークすると、司令室のモニターには敵の位置情報が表示された。
おそらく偵察衛星のカメラと連動しているのだろう。建物の中なのに敵影が見事に表示されている。
「敵の人数は主犯格を含めて37名。主犯格以外は殺害を許可する。サニーたんを泣かせたことを後悔させてやれ」
潜入チームは、隊長のデビット、副隊長の由香里、ポール、サミーの4名とし、サンディーは「やることがある」と言って、作戦の冒頭だけ聞いて司令室を出て行った。
「タイムリミットは90分とする。移動に40分、作戦実行に50分だ。これはサニーたんのリザレクションのタイムリミットの関係で、万が一、メインターゲットを殺害された時のため、時間制限を設ける。考えたくはないが、メインターゲットが死亡しても連れて帰れ」
「「「「了解」」」」
「アンチ・ローグ作戦を開始する。現在時刻は0時00分とする。時計を合わせろ」
ギルとチームの全員がG-SHOCKを操作する。この世界の時間はわからないので、基準時刻を決めるのだろう。
「3、2、1、今。状況開始。ならず者に天罰を」
「「「「サー! イエッサー!」」」」
チームは音もなく司令室を出て行った。装備は全員同じで、サイレンサー付きのHK416と、同じくサイレンサー付きのHK45、予備マガジンのみの軽装備で、グレネードなどは音が鳴るので持っていかない。
バラクラバと呼ばれる目出し帽に、暗視装置を装備した彼らは、電気が付いていない廊下を疾走し、最短距離でブラックホークに乗り込む。
「こちらアルファ。無線チェック」
「こちらブラボー、感度良好」
「チャーリー、聞こえてる」
「こちらデルタ。良好です」
「サイクロプスよりアルファへ。健闘を祈る」
アルファが隊長デビット、ブラボーが由香里、チャーリーがポールで、デルタがサミーだ。司令官ギルがサイクロプスで、この司令室から全員の心拍数やヘッドマウントカメラの映像を確認している。
映画みたいだ。
「サンディーは何してんの?」
「サニーたん、それは秘密なんだ。サンディーなんて隊員はいない。故に彼女は何もしていない」
裏でなんかやってる。その後、ギルに問いただしても「知らない」「何もない」ばかりで、絶対に教えてくれなかった。
「さあ、サニーたん、ご飯が後回しになっちゃってごめんね。いま持って来るから、チームから何か連絡があったら、ここのボタン押して通話しといてくれるかな」
「了解ー」
ギルはシチューを作ってくれた。私が好きなニンジンとブロッコリーを沢山入れてくれて、じっくり煮込んだシチューは、野菜の旨みたっぷりの愛情溢れる晩御飯になった。
仲間が助けてくれる。ホームレスでひとりぼっちだった私には、そのことが何よりも嬉しくて、家族を奪われた悲しみを温かく拭い去ってくれた。
こんなにも悲しくて泣いたのは初めてだった。前世では「泣き言を言わない」「泣いてる暇があったら行動」というのが信条だったのだが、この体になってから、感情が涙になって溢れることが多々ある。
これも女性らしさなのだろうか。
「アルファからサイクロプスへ。着陸地点に到着した。これより徒歩で目標地点に向かう。オーバー」
「了解。目標はちょうど月の方向だ。参考にされたい。アウト」
チームが森を走り抜ける。由香里はヘリコプターで待機だ。ターゲットを確保したら現場に迎えに行く。
デビットはイラクやアフガニスタンで何度もピンチを潜り抜けた猛者だ。この程度の森、端から端まで全力で走ってもなお、余力が残る。
ポールは普段の筋トレに比べたら、このぐらいの森は難なく走り抜けられる気力があった。
サミーはシリアで絶体絶命に陥った苦い経験を思い出していた。弾薬が尽き、ナイフ1本で窮地を脱した時と比べれば、生温い作戦である。
彼らはおよそ3キロの道なき道を、休憩なしで10分で走り切った。
「アルファからサイクロプスへ。目標の建物を目視した。目標までは200メートル。門番と思しき敵影が2つ見える。オーバー」
「こちらも確認した。そこは南門だ。東門と北門にも同様に門番が2名ずつ配置されている。西門はない。北門の内側が警備が手薄だ。北門から侵入されたい。オーバー」
「コピー。チャーリーは東門へ、デルタは北門へ向かえ。気付かれるなよ?」
「「コピー」」
ポールは東門に向かった。この砦は東を正面にして建てられており、西は建物が山にめり込む形で、コの字状に城壁が築かれている。
サミーは北門から門番を狙う。北門は林に面しており、木の影から狙う距離は30メートル。絶対に外さない自信がある距離だった。
「チャーリーよりアルファへ。準備完了」
「こちらデルタ。いつでもいけます」
「アルファからサイクロプスへ。城壁内の敵位置を確認されたい。オーバー」
「城壁内は正面入り口に2人の敵影あり。音で気付かれる恐れがあるので、速やかに対処されたし。オーバー」
「コピー。チャーリー、デルタ、射撃後の敵の動きに注意しろ」
「「コピー」」
チームは門番の頭に狙いを定める。2人いる門番を連続でヘッドショットするのは至難の業だ。だが、この3人には丁度いい肩慣らしだった。
「3、2、1、撃て」
パシュッ! パシュッ!
「サイクロプス、敵の動きは?」
「動きなし。出だし好調だね」
デビットたちは門の前で倒れる門番の死体を、草むらや木の影に隠した。
チームは北門に集合し、侵入の準備を始める。内部には2人の敵が東門の方を向いて立っている。ちょうど北門と敵との間には
「アルファからサイクロプスへ。城壁内部に侵入する」
「了解」
デビットが鉄製の扉をそーっと開ける。少しギギっと音がして緊張が走るが、内部の敵に気付かれることはなかった。
そこからのチームは素早い動きで敵の死角に音もなく歩み寄った。
サミーは万が一に備えて拳銃を構え、デビットとポールがタクティカルナイフを持って敵の背後に忍び寄る。
そして阿吽の呼吸で躊躇なく敵の後頭部にナイフを突き刺した。狙ったのは第1頚椎で、この骨が損傷すると即死する。
「クリア」
「「クリア」」
「よし。死体を外に運び出せ」
「「了解」」
司令室のモニターでは、ギルが死亡した敵のマーカーを削除し、残り人数『29』と表示されていた。
モニターを見る限り、移動している敵は数名で、殆どが複数の部屋に規則正しく横になっていた。おそらく夜間の見張りに備えて寝ているのだろう。
デビットから砦内部の様子を伺う無線が入ると、ギルは「今なら気付かれずに侵入可能」と返した。
入り口を入ると、正面に長い廊下があって、突き当たりの左には2階へ続く階段、右には地下へ入る階段があった。この建物は上は2階まで、地下は1階の地下牢のみだ。
デビットたちは音を立てずに内部に侵入すると、すぐ右手の部屋に潜伏した。
ここからは室内戦だ。
デビットたちはHK416を背中に背負って、拳銃とナイフを装備した。CQC――近接戦闘の構えだ。
モニターには、3人の赤外線カメラ映像と、極めて落ち着いた心拍数が表示されていた。ちなみに私の心拍数は、門番を仕留めた辺りからずっと高鳴り気味だ。
もうすぐニアとモモに届く。
早く2人を安心させてあげたい。
この手で抱き締めてあげたい。
もう怖い思いはさせない。
これっきりだ。
2度と奪われるものか。
元ホームレスの俺(40歳童貞)が美少女化して神転生したのは戦乱の異世界を救う為です。 あるてな @sunny_clouds
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。元ホームレスの俺(40歳童貞)が美少女化して神転生したのは戦乱の異世界を救う為です。の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます