雨が好きとか言う奴は全員死ね
ガビ
第1話 雨が好きとか言ってる奴は全員死ね
雨が嫌いだ。
当たり前だろう。濡れる、髪は乱れる、周りは不機嫌。
好きな理由がマジで見当たらない。
でも、たまに「雨が好き」とか世迷い語を言う奴らがいる。
なんだ、格好つけてんのか?
つーか、それの何が格好いいのさ?
「普通は嫌いなものが好きな俺、変わってるかな?」というウザい自己アピールなんでしょ?
あと、お気に入りの傘をさせるから好きとか言うブスがいるけど、それは濡れることを凌駕するほど楽しいことなの?
傘なんか、ズボンやスカートを守りきれないし、いつの間にかなくなっているし、邪魔だしで、何の楽しみも見出せない。
そんな傘が好きとか言う奴は、大した距離を移動しないから言えるんだ。
1キロも歩かないで行ける移動しかしていないからだ。
距離だけではない。
雨の日に電車に乗ってみろ。傘が原因で普段からストレスの溜まる空間が倍の不快感を与える。
傘の置き場を考えるのが下手な奴が、不必要に幅をとってたりするのが、私はイライラして仕方ない。
あー、もう。こうして話してるだけでも不快だ。
雨が好きとか言ってる奴は全員死ね。
\
6月5日の月曜日、外は私の嫌いな雨が降っていた。
憂鬱な月曜日に雨。
憂鬱を通り越して絶望だ。
休みたいと心の底から思ったが、これでも私は生徒会長。そんな理由でズル休みをしてしまっては、他の生徒に示しがつかない。
別になりたくなったわけじゃない。
中途半端が嫌いだから、勉強やスポーツを極限まで取り組んでいたら、こないだの生徒会選挙で生徒会長に当選してしまった。
友達が勝手に私の名前で立候補用紙を書いてしまったのだ。
アイドルかよ。
演説の日も雨が降っていた。
雨の日特有の匂いに包まれた体育館のステージで、私は作り笑顔で適当な演説をした。
何を話したかは覚えていない。
しかし、できないことは言わなかったはずだ。
「食堂のメニューを増やす」だの「文化祭の規模を大きくする」だの「皆さんの悩みを全て聞く」だの、どうせ1ヶ月も経てば必要最低限のことだけをして、余った時間は青春ごっこするくせに、恥ずかしげもなくご立派なことを言うのは、私の羞恥心に邪魔をされてできなかった。
きっと、面白くも何ともない演説だった。
そんな私が当選したことに不思議に思っていると、勝手に立候補させた友達がこう言った。
「有名だからだよ」
マジか。私は有名だったのかと思うのと同時に、高校の生徒会選挙なんてそんなものだろうと納得もした。
その友達を会計にして道連れにできたのが、せめてもの慰めになった。
しかし、こんな雨の日に、「挨拶運動」なんてものをしなければならない。
挨拶の重要性は分かるが、高校生にもなって挨拶もできない奴には、こんな運動は無意味だろう。
「‥‥‥はぁ」
私はため息をつきながら制服のスカートがよれていないか確認してから靴を履く。
雨のせいで、何をするにも憂鬱な外へ出る。
\
「おはようございます」
もう何度、その言葉を言っただろう。
もう、この言葉に飽きた。
そろそろ、「こんにちは」に移りたいが、時計の針は、未だ8時台を指している。
まだまだ「おはようございます」の時間だ。
雨を防ぎきれない傘をさしながら同じことを言っていると、時間の流れが遅くなる。
あと20分はこうしていなければならない。
ただただ、時間が過ぎ去るのを待っていると、橘君が見えた。
そうか。
何の意味もないと思っていたが、朝一で橘君と話せることができる素晴らしい運動だったのか。
先生方、ディスってすみませんでした。
橘君は、湿気に余裕で勝っているサラサラの前髪を揺らしながら歩いている。
ああ。
いつ見ても癒される。
「おはようございます」
「おはよう。朝から大変だね」
労われた。
これで、今日一日頑張れる。
\
自分の癖っ毛が嫌いな私は、人のサラサラな髪を見ると、羨ましいと同時に嬉しく感じる。
一つの芸術だとさえ思う。
橘君の髪は、このクラス‥‥‥いや、学校中でぶっちぎりで良い。
実は、たまに盗撮しているくらいに、私は橘君のファンだった。
自室の引き出しには、100枚の橘君の写真がある。
一日に一枚だから、「たまに」だ。
なんか文句ある?
でも、やっぱり実物が良い。
どうにかして話すチャンスを伺っているけど、彼の周りはいつも賑わっていて、割って入るスキがない。
そんな手が届かない橘君に、放課後呼び出された。
\
無人の教室に呼び出されて、2人っきり。
これは、期待して良いのではないか?
生徒会長の仕事をマッハで終わらせて、早歩きで指定された我が2年1組に向かう。
生徒会長が廊下を走るわけには行かないという思考はできている分、まだ、まともな状態らしい。
もし、告白されたら、どうなってしまうだろう。
私は、未だ誰とも付き合ったことがないので、恋人ができたら自分がどうなるかが分からない。
勉強をこれまで通りにできるだろうか?
生徒会の仕事に支障が出ないだろうか?
そんなことは、今はどうでもいい。
私は、競歩選手の様に、早く歩くことに全力を出す。
\
橘君は、私の席で待っていた。
こちらに気づいた橘君は、爽やかな笑顔を浮かべてくれる。
あー。もう、好き。
私も笑顔で返したが、ブサイクになっていないかは自信がない。
「ごめんね。忙しいのに呼び出しちゃって」
「大丈夫。今日は仕事少なかったから」
嘘だ。
むしろ、事務仕事はいつもより多かった。
「で、何か用?」
なんで、こんなに感じ悪いんだ私!
ツンデレなんて現実じゃただの面倒くさい奴だぞ!
「えっと‥‥‥あー、遠回しに言うのは苦手だから、シンプルに言うね」
いつも穏やかな表情をしている橘君が、真剣な顔になる。
「好きです。俺と付き合って下さい」
「はいよろこんで」
コンマ1秒間を空けることなく答えたため、馬鹿みたいな声とトーンになってしまった。
「え?良いってこと?」
「うん」
今度は、普通に答えられた。
「‥‥‥やったー!」
喜んでいる橘君も可愛い。
こんなに幸せでバチが当たらないかと思っていたら、すぐに当たった。
バチが。
「俺、雨好きだから、告白するなら雨の日の誰もいない教室って決めてたんだよね」
\
どうやって帰ったか覚えていない。
自室ののベッドで寝ていたら、橘君からLINEが入った。
雨が好きな橘君から。
『今日は本当にありがとう!これから、楽しい思い出をどんどん作ろうね!」
つい数時間前までは、この文章も愛おしかったのだろうが、今の私はこう思った。
どうやって別れれば良いかな。
橘君は、クラスカースト上位の男子なので、雑に別れ話を切り出したら、私の悪い噂が広まるかもしれない。
1ヶ月くらいで、何となく「もう別れよっか」となるのが理想的だ。
私は、LINEに軽い返信を入れてから、検索欄に、「彼氏 1ヶ月で別れる方法」と入力した。
雨が好きとか言う奴は全員死ね ガビ @adatitosimamura
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます