傘、ときどき恋。

白雪❆

傘、ときどき恋。


――ポツリ、と…。

雨が私の頬を伝った。


今日は雨だ。

私の好きな雨。

舐める飴じゃなくて、正真正銘の空から降る雨が好きなのだ。


「それにしても、面白くないなー…。ふふっ」


ダジャレにもならないあまりのつまらなさに私は頬を緩ませながら、お気に入りの傘を持って出かけることにする。


今日のコーデはカーキジャケットに黒パンツ。

少し大人っぽく、高校生にしては背伸びをしたお洒落コーデ。


もしかしたら…。

そんな期待に胸を膨らませながら、私はドアを開けた。


「さぁ、行こう」


目的地は特にない。

けれど、目的はある。


時刻は深夜1時。

夜の街に一人。

親が寝ている隙にそっと家を出る瞬間はどうにもならない解放感がある。


「ふんふんふ~ん♪」


上機嫌で、傘を跳ねる雨の音で私はリズムをとって歌う。

すると、それに呼応するようにカエルのコーラスも聞こえてくる。


スキップしていると車のクラクション。

眉間に皺を寄せたおじさんが一瞬見えた。


ありゃりゃ、どうやらはしゃぎすぎたようだ。

ごめんなさい、てへっ。


そんなことを思いながら、赤信号に差し掛かる。

私は止まって辺りを見渡す。


すると、街中がアンサンブルのように…。

空に響きわたるのがわかった。


お気に入りの赤い傘。

君がくれた傘をさす。

リボンは可愛いから、そのまんまだ。


クルクルと…。

何度も回しては繰り返した。


「雨の日の思い出が結べますように…」


そう君は言って、リボンをつけてくれたんだっけ。

ロマンチストで、かっこつけで、それでいて不器用な君。


君からもらった傘で精一杯お洒落した私を見て、君は何を思うだろう。

可愛いって思ってくれるだろうか。

それとも、またくしゃっと笑いながら「馬鹿だなー」って言って隣にいてくれるかな。


私は目的の場所へと足を運ぶ。

一歩、一歩…。

鳴り響く心臓の音がどんどん早くなっていくのがわかった。


「君はもう待っているかな?」


いつの間にか信号が青に変わっていた。

油断すると、涙が零れそうになる。

もう少しで君に会えるから。



――大丈夫だよ、一緒に逃げよう。



泣いていた私にそう言ってくれた君の言葉。

私はこの先ずっと忘れない。


ありがとう…。


…ありがとう。


本当にありがとう…。



遠くに霞む同じ色の傘がようやく見えた。


ああ…、どうしよう。

私は君のことが本当に大好きになったみたい。


恋はするものじゃない。

落ちるものだ。


まったく、よく言ったものだ。

そのとおりじゃないか。


あーあ、どうしてくれるんだよ。

まったく…。


これから、君のおかげで人生を大きく変えられるんだよ。

だから…。


「君には責任とってもらわないと困るんだから」



私を見つけた君の瞳に向かって…。

私は大好きな君の名前を大きな声で叫んだんだ。



「――――っ!!」



同じ傘の色が一つに重なったとき、私は初めて恋に落ちた。



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