第31話 真なる姿
「ご、ごめん。クレア。変なことを言ってしまって——」
そう謝るが、俺の言葉が聞こえていないのか、クレアは顔をうつむかせて一人何やら早口でブツブツと言っている。
「……わたしはルドルフ様のメイドで、ルドルフ様とは主と召使いの関係です……それにわたしはルドルフ様を幼い頃から見てきていますし、男と女の関係にはすぐには……わたしはエルフでルドルフ様は人ですし……ですが、ルドルフ様が望まれるのでしたら、わたしは……わたしは……ルドルフ様の忠実な下僕としてルドルフ様の望みを喜んで叶え——」
「あ、あの……クレア——大丈夫……」
『おいエルフの女よ。いつまで顔をだらしなく緩めて妄想に浸っておるのだ。主殿が困っているぞ』
「は! な、何を……べ、別にわたしは妄想など——」
俺は今がチャンスだと思い、二人のやりとりに割って入って無理やり話しを変える。
「と、ところで! 聞きたいことがあるんだが……えっと……その……幻影魔法は見破られることはないのか?」
半ば適当に考えた質問ではあったが、気になっていたのもまた事実ではある。
今の白の姿はとても「幻影」には見えないほどのリアルティを保っているが、「幻影」という名前である以上、「実態」ではないはずだ。
当然何らかの手段で、「幻影」を破り、「実態」を見ることは可能なはずだ。
『主殿……何度も言っているが、わたしのことをあまり甘く見ないでもらいたい。わたしの幻影魔法をそう簡単に見破ることなど——ふむ、まあそう言いたいところだが良い機会だ』
白はそう言うと、俺から少し距離を置いて、真正面に立つ。
『主殿。そこからわたしのことを見てくれないか。わたしの美しさに目を奪われずに、しばらく集中……してな』
その言葉に、クレアが反応して、一瞬白を睨む。
『落ち着け。エルフよ。わたしが主殿に何を教えようとしているか、わかるだろう。お前も一応は魔力の使い手なのだから』
「わかっている——けど、お前は一言多い」
クレアはそう言うと、俺と白から距離を置いて、黙って様子を見ている。
「えっと……白。その……何をすれば」
「ただ静かに集中して、わたしを見るだけでいい。主殿ほどの魔力の持ち主ならある程度の時間が経てばわかるはずだ」
真正面に立っている白は、神妙な面持ちで俺の方をじっと見つめる。
集中しろと言われたところで、どうすればよいのか。
まさかこの場で瞑想する訳にもいかない。
俺はただ戸惑いながら、白のことを漠然と見つめていた。
数十秒くらいそのままだったと思う。
一瞬視界の一部に妙な違和感が生じた。
そして、その根源を目で負っていると、徐々に違和感が拡大していって——
いつの間にか白の姿が変わっていた……。
俺の目の前にはもとの獣の姿の白が顕現していた。
「え……な、なんで」
俺が突如生じた視界の変化に戸惑っていると白が驚いた様子で、
『……もう見抜いたのか。やれやれ主殿は魔力の基礎すら身に着けていないはずなのにな。少しばかりプライドが傷ついたぞ。いや……主殿の魔力が底知れないだけなのか——』
と、ため息をついている。
しかし、俺は未だに白から目を離すことができなかった。
というのも俺の視界の違和感はまだ収まっていなかったからだ。
むしろその違和感はどんどんと拡大していた。
白の姿はまたしても変化していき、毛の色は白から銀色に、そしてその大きさもさらに大きく——見上げるほどの大きさに——
俺は思わずその異様な姿に言葉が漏れていた。
「な、なんか……白の姿がとんでもなく大きくなっているんだけど……毛も銀色に——」
『!! それ以上は——見るな』
コミュ障の俺が悪役貴族に転生するも、能力値はオール1!? 絶望していたところ、自分を嫌っていたメイドエルフの美少女に普通に接していたら何故か能力値が爆上がりしているのだが? kaizi @glay220
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。コミュ障の俺が悪役貴族に転生するも、能力値はオール1!? 絶望していたところ、自分を嫌っていたメイドエルフの美少女に普通に接していたら何故か能力値が爆上がりしているのだが?の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます