第21話 「もちろんだ」

「っ、え、会いたかったって…………」

「うん、君が引っ越してから、僕は君に逢いたくて仕方がなかった。君の体質を治すため、日々調べまわっていたし。あやかし退治も、もっと僕が強くなれば、君を安心させてあげれると頑張った。僕が頑張れるのは、君のおかげ。君が僕の手を取ってくれたから、僕はカラス天狗とも互角にやりあえるほどの実力を手に入れる事が出来たんだ」


 優しく微笑みながら語る司、その内容はあまりに詩織にとっては予想外過ぎて何も言えず、驚きの顔を浮かべた。


「──君と、初めて森で出会ったあの日、何故か僕は”呼ばれた”ような気がしたんだ。誰に、なんで呼ばれたのかわからないし、無視してもいいと思った。どうせ、勘違いだろうしとも思った。でも、何故か体は勝手に動いてさ、あの森に向かっていたの。そしたら、君の姿が目に入って。なんであの子があやかしに追いかけられているんだろうって不思議に思った。それで追いかけたんだ」


 司は思い出に浸るように、温かい声色で語る。


「追いかけた先、詩織はちょうどあやかしに襲われる一歩手前だった。間一髪だったよ。助けた時、僕を見上げる君があまりにか弱くて、細くて。涙をこらえている瞳がきれいで、僕は一瞬で君に目を奪われたんだ」


 司の言葉に、詩織は始終はてなマークが頭の中で浮かぶ。


「え、えっと…………?」

「あぁ、これでもわからないか。それじゃ、はっきりと言おうかな」

「え、あ、あの?」


 司は言うと、いきなり立ち上がり詩織の隣に座る。

 目を合わせ、右手を伸ばし詩織の頬に手を添えた。


「僕はあの森で出会った瞬間、君に一目ぼれをしたんだよ。君を守ると誓ったのも、君を好きになったから。君の体質を守りたいと倒れるまで調べたのも、君の心からの笑顔が見たいから。君に会いたいとずっと思っていたのは、詩織の事が好きだから。これで、通じたかな?」


 問いかけた司の言葉に詩織は最初、頭がショートしてしまい何も考えられなくなった。だが、すぐに司の言葉を理解する事ができ、一気に顔が真っ赤になった。


「え、な、え!?」

「あ、やっと理解してくれた? 良かった」


(いや、良かったって。いや、いやいやいや! なんで今、このタイミング!? というか、先輩が私の事を好き? あやかしに好かれ、面倒ごとしか起こさなかった私の事を、なんで先輩は好きに? 出会いもあやかしに追いかけられている時なのに、どこに好きになる要素が!?)


「困惑しているみたいだね」

「だ、だって。どこで、なんで。私は先輩に好かれる要素なんて何一つとしてないのに、なんで先輩は。私の事を…………?」

「あー、そういう事」


 詩織の頬から手を離し、司は真面目な顔になる。


「僕は、君が何かをしてくれたからとか、君に何かがあるからとか。そんなこと言っていないし思ってないよ。僕、一目ぼれなんだよ。最初は、君の見た目に惚れたのかもしれない。そこから君を守るという口実を使い、ずっと一緒に居た。一緒に居て、君を知る事が出来た。君が一人でいる事に慣れてしまった事、あやかしが出てくるとわかった瞬間、一人になろうとすること。本当は人と話すのが好きな事など、君のことを沢山知ることが出来た。様々な君を知っていくと、僕はどんどんおぼれてしまった。君におぼれ、今では君と離れるなんて考えられないくらい、君の事がいとおしく、愛してしまった。君は、こんなことを考えている僕のこと、どう思う??」


 首を傾げ、問いかけた司。

 詩織は、真っ赤な顔を抑えながら、司の言葉に答えようと必死に言葉を考えた。


「――――――――も」

「…………え?」

「私も、その。会いたかった理由、貴方と、同じ、です」


 顔を俯かせ、ボソボソ言う詩織。でも、しっかりと聞き取れた司は目を開き、その場で固まった。


「…………え、同じ? それって」

「~~~~~~~もう!! だから!! 会いたかった理由は、私もあなたと同じだって事です! 子供の頃の出会いを、約束を忘れる事が出来ず、ずっと会いたかったんです。まさか、本当に会えるなんて思えなかったですが――――え」


 詩織が半場やけくそになり、すべてを言い放った瞬間、司が詩織に抱き着いた。


 詩織が司の腕の中にすっぽりと埋まり、身動きが取れなくなった。

 甘い匂いが詩織の鼻をくすぐり、彼のぬくもりが彼女を包み込む。


 やっと現状を理解出来た詩織は、照れながらも行き場のなかった手を動かし、司の背中に手を回した。


「先輩、あの」

「ん?」

「私を、その、彼女にしていただく事って、可能ですか?」


 司の肩に顔を埋めた詩織のお申し出に、司は自然と笑みが零れ、力強く返事をした。


「もちろんだ。これからも君を守ると誓うよ、何があっても離れないと誓うよ、絶対に!」


 彼の満面な笑顔と言葉に、とうとう詩織の瞳から大粒な涙がこぼれおち、泣いてしまった。そんな彼女の涙を親指で拭いてあげ、司は最後にそっと、頬にキスを落とした。

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冷たい先輩は陰陽師! ~氷鬼司の妖怪退治~ 桜桃 @sakurannbo

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