24作品目「推して、推されて、推し返す」

連坂唯音

推して、推されて、推し返す

 塾講師のバイトをする私は、ときどき生徒から興味深い話をしてもらえる。


 中学生の生徒と『推し』はだれかという雑談をしていたときのこと。

 その子は、どうやらVチューバ―なるものに『推し活』をしているらしく、家に祭壇をつくるほどだそうだ。話を聞いているうちに、私はその子に現実(リアル)の方で推しはいるのか気になった。

「ねえ、クラスや部活に推しはいるの?」と訊いてみたところ、

「先生を推したりすることはありますけど、わたしから同級生を推すことはないですよー」とその子は返す。

 『わたしから』という言葉が引っかかったけれども、また気になっていた質問をする。

「自分自身が部活の誰かから推されることはあるの? 誰かの推しになってるんじゃない?」

「ありますよ。後輩がわたしをみて、『きゃーっ、かわいい』ってめっちゃ手ふってくるんで、手をふりかえしたりしてますよ」

「へー、照れないの?」

「大丈夫ですよ。誰かに推されると、推し返しますから」

 会話はそこで終わり、現在進行形の文法について私は解説をはじめた。 


 だいぶ前から世間では『推し』という概念が強まってきている。推しをもったことのない私にとっては、未知の概念だ。その感覚を味わったことがないのだから。

 でも、推しについての本を読んだり、人から推し活の話をきいたりして、勉強しているつもりだ。

 それなりに『推し』について分かったつもりでいたけど、『推し返す』という言葉は初めて聞いた。誰かに推されたとき、推してきた人をさらに推して返すという、新しい概念のようだ。

 うーん、私も若者のほうだけど、若者の流行りについていけない。でも、新しい概念を知るのはおもしろいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

24作品目「推して、推されて、推し返す」 連坂唯音 @renzaka2023yuine

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る